第174話 ダンジュウロウと村の見回りと話し合いをした。
「村長、父上が今日こそは見回りに行くと張り切って準備をしていた。
しっかり起きて着替えをしていたので大丈夫だと思う。」
朝食を取っているとリッカが片付け際に声をかけて来た、ダンジュウロウが来てから凛とした話し方がとんと抜けていたが戻っているな。
どっちが素のリッカなんだろう、少し気になる。
「分かった、それじゃ食事を終えたらリッカの家に向かうと伝えておいてくれ。」
「分かった、伝えておくよ。」
村と人間領にとって有意義な見回りと話し合いになるといいが、ダンジュウロウは完全にリラックスしにきているからあまり仕事の話をするのも申し訳ないかもしれない。
だが、ダンジュウロウも帰って視察だったと説明するためにある程度の仕事は必要だろう。
俺に出来るのは交易や技術交換についての話し合いと、ダンジュウロウが極力気を張らなくていいように計らうことくらいか。
今日の見回りも長くなりそうだな、朝食を終えたら先に食糧庫の確認をしておかないと。
大丈夫だとは思うが、明日の分が無いなんて事になったら大惨事だし。
「昨日は済まなかったな、今日はよろしく頼むぞ。」
「こちらこそよろしく、話せることは話すからどんどん聞いてくれ。
それと村を見て人間領の技術が生かせそうなら教えて欲しい、もちろんその技術が外に出ても問題無いものに限るけどな。」
秘術のようなものは扱いに困るからな、転移魔術もそうだと知っていたらもう少し慎重になっていたと思う。
「うむ、任せておけ。」
ダンジュウロウの頼もしい返事を聞いて安心する、ちょっとは仕事のスイッチが入っているみたいだな。
俺は世間話をしながらダンジュウロウと村の見回りへ出発した。
まずは居住区から食堂・広場あたりまでを見回り。
「ここまできっちり住民の住む場所と施設を分けているとは、余程計画性が高い村の構築をしたのだな。
区画しようと思っても、後から出てくる都合によって多少乱雑になるものだが。」
「そういえばダンジュウロウには俺の力を話してなかったな。
最初はダンジュウロウの言う通り乱雑になっていたんだが、ここ最近村の建物の配置を変えたんだよ。」
そう言って俺がここに居る経緯と俺の能力について話す、これを知っててもらわないと施設区に行った時色々信じてもらえなくなるし。
「なるほど、にわかには信じがたいが……リッカの手紙の内容とも整合性が取れているし、ドラゴン族を始めとした力ある種族が人間である村長の下についているのも納得だ。
羨ましい限りだが、この先交易で恩恵に与れるなら充分だろう。」
ダンジュウロウの中では既に村との交易は確定しているみたいだな、調味料以外にも色々欲しい物があるかもしれないし、品目が更新されたら見せてもらわないと。
「その言い方はちょっと語弊があるな、俺の村は俺と一緒の村に住んでいるだけで上下関係には無い。
その種族の力を生かして村を助け合っているだけだ、俺は食糧という重要な部分を担っているから村長となっているだけだぞ。」
「なるほど、そういう人柄だから色々な種族が一緒に住んでくれるのだな。
いやはや、同じ人間だというのに珍しい性格だ……そこまで無欲で居られるのもすごいぞ?」
「そうだろうか、日々を苦労なく平穏に過ごしているのはかなり恵まれていると思うぞ?」
生きていたらある程度嫌な事や辛い事にぶち当たることはある、俺はこの世界に来てそういう問題とほとんど対峙していない。
物欲もダンジョンコアである程度解決されるし、他の種族が便利な物や技術でさらに生活の手助けをしてくれている。
これ以上望むのは神に怒られる気がする、それでなくても神のようなスキルをもらっているし。
「それを経験しなくても済んでいるという事か、それで欲が生まれないと。
確かにここは貨幣経済が深く浸透してないし、したとしても生きるために必須ではなさそうだ。
それ故村の皆がいい表情をしているのだろう、人間領は働きすぎから来る精神障害のようなものも見受けられるし対策案の参考にさせてもらうぞ。」
それは早急に対策をしなければな、前の世界でも大問題になっていたし。
しかしそういう問題が起きるということは、俺の住んでた国とかなり酷似しているな……調味料だって名前だって俺の住んでた国と同じものだし。
いや、キチジロウやダンジュウロウという名前は前の世界でも珍しいか。
「なぁ、俺がいつか人間領を訪問するのはどう許可を取ればいい?」
「人間領に興味があるのか?
それならここを発つ前に私が発行する通行証を渡そう、それを関所の警備に見せると問題無く通してくれるぞ。」
「それは有難い、後で必ずもらうよ。」
言ってみるものだな、通行証がもらえれば一度人間領に足を運んでみるとしよう。
その後は家の材質や造りなんかを説明、風呂だけはかなり食いついたので簡単な作りを説明。
さすがにウーテの能力は不可能なので割愛しておいた。
居住区の見回りを終えて食堂で軽く食事を取り、施設区の見回りへ。
「村長、あの巨大な遊び道具はなんだ?」
「プールとウォータースライダーという遊ぶための施設だな。
陽の季節にはあそこで遊ぶんだよ。」
「見たことない材質だが……これは?」
「俺の能力で作ったから詳しくは分からないんだよな、石油から作っていたという知識は前の世界で得ていたからそれで無理矢理錬成したんだ。」
「なるほど石油から……帰った時には研究をさせてみるとしよう。」
人間はきっかけがあればそこから発展させる技術は凄まじいからな、だが電気が無い環境でポリエチレンやポリエステルなんて作れるだろうか?
その辺は分からないので、研究者は頑張ってほしい。
それから各施設を一通り見終えて、住民の人数からは考えられない活気だと感心されながら見回りを終えた。
「ダンジュウロウの目から見て村の技術はどうだった?
人間領の技術が何か活かせるところはあったか?」
「蒸気機関以外で人間領が勝っているものは無い、技術としてはそれと伝統料理くらいだろうか。
それ以外は全て村に負けている、未開の地と言う名は既に廃れてると思うぞ。」
今とんでもない言葉が聞こえたぞ、蒸気機関がこの世界に存在しているだって?
村と魔族領は技術力が高いと言ってもあくまで原始的な技術に近い、蒸気機関が発展していくと生産効率は間違いなく負ける。
だが問題は大気汚染だよな、あまりに蒸気機関を発達・普及させると世界の寿命を縮めることになるし……技術は欲しいが考え物だ。
「それに蒸気機関は領民からも便利だが汚れると不満も出ているし、今は最低限の使用に留めて新しい機関を研究施設に開発させている。
なので外に出すには恥ずかしい技術だ……料理程度でいいだろうか?」
「ちょっと残念だが料理でも充分村の住民は喜ぶよ、安心してくれ。
蒸気機関も心踊らされたが理由があるなら仕方ない、逆に村から欲しい技術や物はあったか?」
「生活魔術、風呂、質のいい作物に武具や農具、それに戦力……あげだしたらキリがない。
人間領が出せる対価は極力出すので人間領にも欲しいが、ダメだろうか?」
「そこまでとなると村で話し合って決めないとだな、魔族領と同じように派遣させるなら予定を上手く合わせれば可能だと思う。
ただそれをする前提準備として、町の近くにある程度広くて村が管理していい土地を要求することになると思うぞ。」
気軽に行ける場所でもないし、移動の手間を考えると転移魔術を使うほかないし……だがそれを誰かに見られるわけにも行かないので俺たちが管理出来る土地が人間領に必要だ。
もし人間領に転移魔術を見られたら大騒ぎだし、魔族領にも怒られそうだ。
「それくらいはいくらでも融通する、可能なら是非とも欲しい!
私から家臣や商人へいくらでも進言しよう!」
「分かった、ダンジュウロウは土地の確保を最優先で頼む。
村の話し合いがまとまれば、俺が直接人間領に行ってダンジュウロウに謁見して伝えるから。」
「うむ、よろしく頼むぞ。」
ダンジュウロウとの見回りと話し合いを終えて妻達に報告。
「人間領の伝統料理、楽しみですね。
今日すき焼きというものを食べましたが美味しかったですし、人間領の調味料はしつこくなくて食べやすいので。」
「お酒にも合うしいいわよね、辛い酸っぱいみたいな単調な味じゃないから私も好き。」
「その種類が増えるなら、魔族領に出してるくらいの技術や人員なら派遣しても惜しくないわね。
賃金も貰えるなら収入も増えるし、欲しい物沢山買えるから。」
また村に金が集まりそうだ……人間領からも行商を送ってもらって商店街に出店出来るか聞いておかないとな。
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