第173話 ダンジュウロウが来なかったので、家族団らんで村を散歩した。
ダンジュウロウが村を訪ねて来た次の日の昼前。
村を一緒に見て回る約束だったのだが、広場でも食堂でもダンジュウロウの姿が見当たらなかった。
村の住民に聞いてみても誰も見てないというし、どこに行ったのだろうか……。
村に滞在する間はリッカの家に厄介になると言っていたし、リッカの家に行ってみるか。
「リッカー、ダンジュウロウ、いるか?」
家のドアをノックすると「待ってくださーい。」とリッカの声が聞こえてくる、ダンジュウロウの声は聞こえないのでもしかしたら村に居ないのかもしれない。
「お待たせしました村長、父上ですよね?」
「あぁ、朝の食堂でも広場でも見かけなくてどうしたんだと思ってな。」
「寝てます、それはもうぐっすりと。」
「え、寝てるって……もう昼前だぞ?
人間領の王なんだし体内時計はしっかりしてないとまずいんじゃないか?」
リラックスを謳歌するのは全然構わないが、昼夜逆転なんてしてしまったら人間領に帰った時に苦労すると思う。
「起こしはしたんですよ?
ですが「村に滞在する間は少し自分に甘く行く。」と言って布団を頭から被ってしまいまして……村の見回りをされるんですよね、無理矢理起こしてきましょうか?」
「長年ずっと自分を律して心身ともに疲れてるんだろう、寝かせておいてやってくれ。
今日見回りしないとダメなんて事は無いんだし、見回りは明日でもいいと言ってたと伝えてくれたらそれでいいぞ。」
「父上がご迷惑をおかけして申し訳ありません……。」
「迷惑なんかじゃないさ、安心してくれ。
書置きだけしてリッカもいつも通りの生活をすればいい、そうすれば気も紛れるだろ。」
「お気づかいありがとうございます。」
俺はリッカの家を後にして、もうすっかり日課となった鍛錬と村の見回りの準備をするために自分の家へ戻る。
今日は妻達とカールも連れてダンジュウロウと村の見回りをする事になっていたからな、完全に家族団らんになってしまうがたまにはそういうのもいいだろう。
「ダンジュウロウ様、すっかりだらけきっていますね……。」
「でも王になって今までずっと厳しく生きてきたみたいだし、それくらいいいんじゃないかしら?
村長の時もびっくりしたけど、人間の寿命って物凄く短いしさ。」
「他の種族じゃあり得ないような自分の御し方をしているから、それくらい休まないと心配よ。
ダンジュウロウさんの精神力や忍耐力って、この世界でもかなり上位に入ると思うわ……ドラゴン族には考えられない。」
人間だとあれくらいしないと皆に認めてもらえないんだよ……と前の世界を思い出しながら心の中で返事をする。
だが他の国ではそんな事なかったし……俺の住んでいた国だけだったな、人間領も俺が住んでいた国の状況と近いのだろうか。
そう思うと人間領が少し心配になってくる、きちんと休まないと過労や鬱になったりしてしまうし……何より適度に休まないと生産力はガタ落ちする。
実務時間を増やしたほうが効率いいだろと思っていたが、この世界に来てそうじゃないことを学んだ。
まぁ俺の一人の想像の心配だし、そのあたりはダンジュウロウに聞いてからだけど。
「よし、それじゃもしかしたら初めての家族5人で散歩に出かけるか。」
「6人よ、お腹の中だけどね。」
ウーテからツッコミが入った、すまん……忘れてたわけじゃないぞ。
俺達6人は大改造した村を見るのも兼ねて、見回りという名の散歩に出かけた。
居住区を見終わって広場で一旦休憩、食堂から冷たい飲み物をもらってきた。
「やはり日傘があると助かりますね、今日は日差しが強いですし。」
「作ってもらっておいてよかった、陽の季節だけでいいかなと思ってたけどそんなことないわ。」
「変に日焼けしないからいろんな服を着れて楽しいのもいいわね、人間領で可愛い服を見つけても着れないともったいないし。」
妻達は3人とも日傘を差して散歩をしている、確かに日差しは強いが俺はあまり日焼けとかは気にしないタイプなので何も持ってない。
赤くなるだけで日焼けしないんだよな、でも前の世界は日に当たることがほとんどなかったしその頃よりは健康的な肌の色になったかもしれないな。
自分ではあまり分からないけど。
「この後は施設区に向かうんですよね、商店街はどうなってるか楽しみです!」
「それで思い出したわ、マーメイド族から言伝を頼まれてたのよ。
商店街の店番をしているからって行商から賃貸料を受け取ってるらしいの、ものすごい金貨の量になってきているって少し震えていたわ。」
「なんでそんな大事なことを忘れてたんだ……商店街に行くのは最後にして先に他の所を回ろう。
商店街に入ったら俺はマーメイド族と話をしてくる、メアリー達は店を見て回ってていいからな。」
「欲しい物があったら買っていいの?」
「自分のお金はどうしようと自由だぞ、家が狭くなったら増築すればいいし。」
自分でそう言って感覚がマヒしてるなぁ、とふと思った。
物が増えたら増築なんて前の世界どころかこの世界でも俺しか言えないだろうな……。
それを聞いた3人も少し驚いた顔をした後「確かに……。」って顔を見合わせる、自由とは言ったが多少の節度は持ってくれよ?
いきなり家に入りきらないくらいの物量は面倒なのでやめてほしい、家と繋がる倉庫を作れば解決するかもしれないがそういうことじゃないし。
一通り施設区を見終わり、3人から改善案は無いか聞いてみたが今のところ問題は無いみたいだ。
最後に商店街に入ると村の住民だけじゃなく魔族の人もたくさん利用している、通路の幅が狭くて往来するのも一苦労するくらいだ。
これは少し通路を広げたほうがいいな、商店街が閉まる時間に対応しておこう。
「じゃあ俺はこれで、マーメイド族の所へ行ってくるよ。」
「少しくらい一緒に回りませんか?
カタリナ、マーメイド族は賃貸料を一時的に預かってくれてるんでしょ?」
「えぇ、ここに置いておくと万が一があるかもと言ってたからマーメイド族の居住区に持って帰ってるらしいわ。」
種族の特性を生かしたこれ以上ないセキュリティで守られていた。
「それなら見終わるまでな、その後はマーメイド族の対応をするということで。」
「「「やったー!」」」
3人は一緒に喜ぶ、男の俺が居ても特に買い物に支障は無いと思うんだが何がそんなに嬉しいのだろうな。
俺は妻達が楽しそうに買い物をしてるのを見て癒されるけど。
それから商店街の店が全て閉まるまで買い物をずっとしていた……癒されたけど疲れたぞ。
だが全ての空きテナントが行商で埋まっているとは思わなかった、あんなに借りて利益はあるのだろうか……だが今日の人の多さを見るに出ていそうだな。
商人の勘恐るべしだな、俺はそこまで利用者がいるとは思わなかった。
大盛況のようで何よりだよ、住民も思ったより買い物が好きみたいだし大成功だな。
このまま貨幣経済に慣れて他の土地に行っても問題無く過ごせるようになってほしい、もし遠征とかがあると宿を取ったりしないといけないからな。
「さて、買い物も終わったし俺はマーメイド族のところへ行ってくる。
そこまで時間はかからないし先に食堂へ行っててくれ。」
「分かりました、お待ちしてますね。」
妻達と別れて、行商から賃貸料を受け取ったマーメイド族の所へ向かう。
俺の姿を見たマーメイド族は「助かったぁ……!」と顔に書いてあるような表情で俺の所へ向かってきた。
そんなに怖かったのか、気づいてやれなくてすまないな……でもカタリナも悪いので後で文句を言っていいぞ。
簡単な話し合いの結果、商品を出している種族と店番のマーメイドと村で3等分することに。
俺はマーメイド族と商品を出している種族で分けていいと言ったが「計算がめんどくさいので3分割がいいです!」って言われた、確かに3の倍数を2で割るのは数次第では無理だからな……金貨しかないし。
俺は対応を終えて食堂へ、妻達は席を取って待ってくれていた。
合流して食事をしていると、ダンジュウロウとリッカが食堂に入ってきて目が合う。
その瞬間ダンジュウロウが走ってきて「約束を守れず申し訳ない!」と土下座で謝られた、そんなに気にしなくていいし顔を上げてくれ。
ほら、リッカの顔も青ざめてるし……その辺にしておいたほうがいいぞ?
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