第172話 羽を伸ばしたいダンジュウロウを村でもてなした。
「父上どうなされたのですか、ご乱心にも程がありますよ!」
リッカがダンジュウロウの鎧を拾って俺とダンジュウロウを追いかけてくる、俺はダンジュウロウに食堂へ案内してくれと言われたのでその通りにしているが。
ちなみにメアリーとカタリナは挨拶が終わったということで、この場から離れて自分たちの仕事へ戻っている。
「リッカ、その鎧はどこかで預かっててくれんか?
私はこの村へリッカの手紙が真実かどうかを確かめるために訪ねたのだ、美味い飯と酒が楽しみだ。」
「えぇぇぇ……。」
リッカが信じられない父の姿を見て物凄い難しい顔をしながら鎧を持ってついてきている、しかし美味しいご飯と酒だけで異例中の異例と言われる領外への来訪をするだろうか?
「俺もダンジュウロウの真意が気になるぞ、リッカからは厳しい人だと聞いていたから俺も緊張しながら迎えたんだし。
一体どういう風の吹き回しなんだ?」
俺がダンジュウロウに尋ねるとちょっと真剣な表情をする、リッカも後ろから飛びついてきて「僕も気になる!」と俺の肩から顔を出してきた。
「リッカは知っていると思うが、私は長年人間領のために自身を厳しく律してきた。
周りには厳しく固いが模範的な存在だと思われているだろう、そうでなければ失敗だからな。
だが私も人間、私室のみで羽を伸ばすのは限界がある……かと言ってそういう私を誰かに見られてイメージを崩されるのも困りものだ。
今回は厳しい場所への大使を送ったと思ったが、リッカの手紙を読んでこれはもしや誰にも知られずに自分を解放出来るのでは、と思ったのだよ。
もちろん見返りは出来る範囲で村に支払おう、その件も話しながら一緒に飲もうではないか!」
ダンジュウロウの話を聞いて納得した、四六時中自分を律し続けれる人間なんて存在しない。
どこかでガス抜きをしないと自分の精神が壊れてしまう、時には茶目っ気もあっていいと思うが種族の考え方でそういうものを見せると重箱の隅を楊枝でほじくるような奴が出てくるんだろうな。
前の世界でもそういう人間はたくさん居た、テレビを付けるとそういうのばかりでうんざりしていたのを思い出す。
その手助けを出来るなら村は喜んで協力しよう、見返りも支払われるらしいし……何が出来るのか聞かないとな。
「何だこれは、こんな美味い飯や酒がこの世にあるのか!?」
ダンジュウロウが一品一品口にするたびにいいリアクションを取るためドワーフ族がニッコニコ。
皆も美味しいとは言うがここまで大きいリアクションを取らないからな、俺も見習ったほうがいいのだろうか……しかしわざとらしくなるものダメだし。
「父上のイメージが瓦解していく……。」
リッカはどこか悲しそうな目でダンジュウロウを見ながら、料理と酒をつまんでいる。
王になる気は無かったものの厳しい父に憧れや誇りのようなものがあったのかもしれないな、今目の前に居るダンジュウロウは顔を真っ赤にして飲み食いしているおじさんだけど。
「はっは、そうしょぼくれるなリッカ。
本来の私はこういう人間だ、人間領のトップが公に見せれる姿ではないから厳しい事を言ったのだよ。
それと村長、出来れば村の住民にも私がこうだったと口外しないようお願いしてくれないだろうか。」
「構わないぞ、人が困ることをして喜ぶような住民はここに住んでないし。
海で離れているから交流しづらいが、友好関係は築きたいからな。」
「さてダンジュウロウ殿、これが人間領から仕入れた調味料を使った村の料理じゃ。
具材を生卵につけてから食べると美味いぞ。」
ドワーフ族が追加の料理を運んでくれる、俺の目の前にあるものはどう見てもすき焼きだった。
俺がまだ誰にも教えてないし、ダンジュウロウとリッカの反応を見るに人間領にも存在しないだろう。
「これは美味い……!
具材は見たことあるものばかりだが味付けが抜群だ……これを人間領の調味料だけで作れるのか!?」
「もちろんじゃよ、心ゆくまで食べてくれていいからの。」
俺も食べてみたが間違いなくすき焼きだった……しかもブランド牛の肉を使っているんだから美味しくないわけがない。
もちろんドワーフ族の料理の腕もかなり関わっているだろうけどな。
「リッカよ、お前いつもこんな美味しいものを食べて過ごしているのか……?」
「これは私も初めてですよ!?
あ、でも他には村長が前の世界に住んでいた料理のカレーとかが物凄い美味しいです。」
「気になる情報を一気に2つも出すな、どっちを聞けばいいか分からないだろう。」
異世界とカレーが同列になっているのもすごいな、今のダンジュウロウは完全にリラックスしているのが分かる。
「その話は後で俺がするから、それより飲み過ぎない前にきいておきたいんだが……今回のもてなしで人間領が支払える対価って何があるんだ?」
「職権濫用はしたくないが、今回の訪問で人間領でも使える良い物を優先的に仕入れるように進言する程度なら出来るな。
逆に何が欲しいという希望があれば、それを出してよいものか進言も可能だ。」
なるほど、主に取引関連の有利を提示するというものか……だがこれは充分村にとってプラスだ。
だがこればかりは一度ダンジュウロウに村をしっかりと見てもらわなければならない、この村にない技術があるかどうか確認してもらわなければ。
それに料理のレシピや服飾関連の技術も可能なら仕入れたいな、それらを作る種族だけでなく村の住民が喜ぶだろうし。
「分かった、じゃあ明日一度村を一緒に回ってくれないか?
それでダンジュウロウには人間領にあって村にない技術がないか見てもらいたい、一度リッカには見てもらってるが、その技術を売れるかどうかはダンジュウロウの判断に任せるよ。
他にも色々あるが回りながら説明することにする。」
「ふむ、技術か……そういえば一度そういう話が出たこともあったな。
最初はそのようなこと出来るわけがないと一蹴してしまったが……ここまでもてなされては考え直さなければならない。
それくらいこの料理と酒には感動した、私も明日その見回りで村から人間領へ流入させるものを選別させてもらうとしよう――それを話の種にして上手く進言する。」
よし、ダンジュウロウの言質が取れた。
まだそこまで酔ってないし酒癖が悪くなければ忘れることも無いだろう、それにリッカも聞いているし言い逃れは出来ない……父の味方をすれば頓挫するかもしれないけど。
だが俺にはまだ秘策が残っている、そのためにも今日のうちにミハエルに話をしておかないとな。
その後は世間話やダンジュウロウの苦労話を聞きながら飲み食いして終了。
家に帰り今日あったことを妻達に報告すると、3人とも怒った表情で俺を見てきた……何か問題があったか?
「「「新作の美味しい料理を独り占めしたなんてずるい!」」」
ごめん……今度皆にも振舞ってくれとドワーフ族にお願いしておくよ。
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