第160話 俺にとって気が早すぎる未来について話し合った。
クズノハからダンジョンコアを受け取った翌日。
「村長の命があとたった50年か60年程度とは……人間とは100年も生きれない儚い命の持ち主だったのだな。」
「そんな、村長が居なくなったらこの村はどうなるんですか!?」
村に住んでる種族の族長総出で急遽話し合いをすることになり、俺の寿命を知って皆が心配したり狼狽したりと反応が様々だ。
「俺は皆がかなり長寿なのに驚きだよ、長いとは思ってたけど50年が少ないと感じるほどとは思わなかった。
俺が居なくなった後のためにクズノハからダンジョンコアを受け取ったのもあるからな、このダンジョンコアでは作物を主に生成、後は足りない物を都度追加するために長生きする人に所有権を持ってもらいたい。
ダンジョンコアの所有者が死んだら、ダンジョンは稼働するが仕様変更が出来なくなるらしいからな。」
住民との認識の齟齬がすごいことを認識させられる、俺はメアリーとラウラ以外の年齢は知らないが皆長い間生きてきているのだろう。
そうじゃなければ50年が短いなんて思うはずもないからな。
「何とか村長の寿命を延ばす方法はないでしょうか、村長のスキルでそういう薬を作るとか……。」
アストリッドが意見を出す、俺が作り方を知らないし……第一存在もしてないだろう。
「あら、寿命を延ばすという目的だけなら簡単に達成出来るわよ。」
シュテフィが自信満々に発言、嫌な予感がするけど。
「吸血鬼になれば、と仰るなら却下ですよ?」
メアリーが怖い笑顔でシュテフィを見て返答する、「ごめんなさい……。」とシュテフィは縮こまってしまった。
やっぱりそうだったのか、でも目的を達成するという意味なら不正解ではないから責めないでやってくれ。
吸血鬼になるつもりはないけど。
「俺は寿命自体に不満は持ってない、何もない限り天寿を全うするつもりだ。
俺をどうにかして生かす方向ではなく、俺が居なくなっても村が村として日常を失わない方向で話し合ってほしい。
俺も意見があればどんどん出していくから。」
気持ちは嬉しいが、寿命を操作する行為は恐怖心があるからな……あまりやりたくない。
ケガや病気を助けるのは何とも思わないけどな、健康な体の命を操作するのは冒涜的過ぎるだろう。
皆も俺の気持ちを聞いて、未来の村を考えた意見を出し始めてくれた――俺の感覚だが気が早すぎると思うんだけどな。
だが、俺の身に何があるか分からないし、こういう話し合いは重要だろう。
ダンジョンコアの所有者はメアリーに決定、頭の回転力の早さと寿命の長さ……それに弓を使った腕っぷしも買われてほぼ満場一致。
ダンジョンの仕様を説明し、早めに作っておくと後が楽だと伝えたがもう少し生成物を吟味して設置したいらしい。
そこまで急いだものじゃないし、毎日誰か入れば大規模な改修をしない限り大丈夫だろう。
気が付いたら窓に夕焼けが映っていた、お腹空いたなぁと思っていたが昼を跨いでこんな時間になるとは……早くご飯を食べてカールを迎えにいかなきゃ。
大分意見は出し終えたみたいなので話し合いは終了、皆で食堂へ行くことにした。
今日はカレーがあるみたいだ、お酒は後にしてカレーをお腹いっぱい食べることにするか。
皆もカレーにテンションが上がり、さっきまでの真面目モードは一瞬で消えてお皿一杯のカレーに満面の笑みを浮かべている。
こういう雰囲気がずっと続けばいいな、そう思いながらカレーを食べていると物凄い辛そうな顔をしたリッカがカレーとにらめっこをしている。
口に合わなかっただろうか、カレーが嫌いな人はものすごい珍しいと思う……何がダメか聞いてみるか。
「リッカ、そんな辛そうな顔してどうしたんだ?
好みの味じゃなかったか?」
「ううん、そうじゃない……味は最高だ。
でも……すっごい辛い……。」
食べたいけど辛くて食べられないのか、涙を浮かべてカレーをじっと見つめ続けるリッカ。
前の世界の中辛くらいの辛さなんだけどな、だが辛いのがダメな人はこれでも辛いと感じるのだろう。
「ちょっと待っててくれ、辛さを抑えるための物を持ってくるから。
ちょっと手を加えるけど我慢してくれよ?」
そうリッカに伝えてドワーフ族から生卵とチーズ、それにおろし金を貰ってきた。
生卵をカレーに落として、チーズをおろし金で粉チーズにしてカレーにまぶす。
「これ、食べれるのか?」
白くなったカレーを見てリッカが不安になっている、ちょっとかけすぎたかもしれないが食べれるから安心してほしい。
「大丈夫だ、これで結構辛さは抑えれたはずだぞ。」
少しカレーを見つめると、覚悟を決めたのかカレーを口に運んだリッカ、その直後に満面の笑みが浮かんだ。
「辛くないし美味しい!
それに卵とこの白いのでまろやかになってる、味も良くなってるし辛くないなんて物凄いよ!」
そりゃよかった、どれも前の世界では普通のトッピングだが辛くて食べれないという意見は出て来なかったので出さずじまいだったんだよな。
俺とリッカのやりとりを見てた皆はおかわりをした後に生卵を受け取っている、チーズはかけないのか?
「まずは生卵だけで、チーズはその後です。」
3杯目を食べるつもりらしい、お腹を壊さないようにな。
俺は1杯でお腹いっぱいになったので先にカールを迎えに行くことに、するとリッカが後ろから追いかけて来た。
「村長、どこいくの?」
「村の奥様方のところへ息子を迎えに行くんだよ。
追いかけて来たということは用事だろう、どうしたんだ?」
「村の神殿の神様の事なんだけどさ、私が王城で読んだ文献のどれにも載ってなかったと思うんだよ。
どういった経緯であの偶像崇拝が生まれたのか教えて欲しくて、それとどういう加護があるのか。」
あの神様、信仰心を欲する割に自分の世界に干渉してないのか……どうやって今まで信仰心を集めていたんだ。
それとも存在しない神の信仰心は少なからず足しになっていたのだろうか――こんな事を俺が考えても仕方ないけど。
俺がリッカに事の経緯を説明、リッカは信じれない表情で俺を見ているが……
それにこんな地で人間が他種族と一緒に住んでるうえにその人間が村長だ、自分で言ってて有り得ない状況だと思う。
「ここの神様、人間領でも崇めて大丈夫かな?」
「問題無いし大歓迎だ、話した通り俺は神から信仰心を集めてくれとも頼まれてるし。
なんなら人間領に行って俺が神殿を建ててもいいぞ?
材料を運ぶのは大変だから、人間領で準備してくれると助かるけどな。」
人間領も結構な人口がいるだろう、その何割かが崇めてくれるだけで大分信仰心も集まるはずだし。
「ありがとう、さっそく人間領に手紙を書かなきゃ……定期便に頼めば送ってくれるだろうか?」
「それより確実な方法があるぞ?
そろそろマーメイド族が交代で帰ってくるはずだから、次に行くマーメイド族に渡せばいい。」
「なるほどね、じゃあそうさせてもらうよ。
出来るだけ早く文章にしたいので僕はこれで失礼するよ、いろいろ助かった。」
リッカは急ぎ足で家へ戻っていった、俺もカールを早く迎えに行ってやらないと。
カールを迎えに行った足でそのままお風呂へ入り家に戻っても、妻達は帰ってない。
まさかと思い、カールをベッドに寝かせて食堂へ行くと――皆まだカレーを食べてた。
「美味しすぎますぅ……いくらでも入りますぅ……。」
お腹が見ても分かるくらいパンパンになってるぞ、その辺でやめておきなさい。
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