第158話 リッカと仕事の話をした。
買い物から帰って来た妻たちに、リッカが村に来たことを話す。
事情を伝えると皆了承してくれた、後で人間領にはどんなものが売ってるか聞きに行きたいらしい。
それは俺も気になる、そういえば家は作ってそこで住むように伝えたが……村の案内はしてないな。
話に行くついでに軽く案内をするか、刀を一時的に貸してもらってドワーフ族に再現してもらいたいし。
「そういえばリッカさんには何の仕事をしてもらうんですか?
人間は通常身体能力も低く魔術適性も低いですし……この村の仕事の質や量に追いつけるかどうか。」
「確かにそうだな、それは俺も自分の事だから分かっているよ。
まずは交流がてらに、リッカが知っている人間領の技術や知識を村に活かせる所はないか見て回ってもらうか。
キュウビが技術を発展させたと言っていたし、人間ってそういうのが得意だからさ。」
前の世界でもそれは顕著に表れていた、人間が世界の覇権を取ったのは間違いなく技術と知識のおかげだからな。
それが無ければ動物界では間違いなく下位の存在、普通の人間は野犬に襲われても負けるだろうし。
「なるほど、村の技術と人間領の利便性を取り入れるわけですね。
この村は充分快適ですが、さらに快適になるとなればいいことかと。」
「それと町の造りも聞いておきたいわよね、魔族領の首都と人間領のいい所を合わせて村の施設の配置を決め直すのもいいかも。
村長のスキルならそれも難なく出来るでしょ?」
「後はどういう文化があるのか、いいものはどんどん取り入れたいわね。」
リッカ、忙しくなりそうだが頑張ってくれよ。
次の日の朝。
起きてすぐくらいに玄関をノックする音が聞こえる……昨日はカタリナと寝てて寝るのが遅くなったからゆっくりしようと思ったんだが、誰だろう。
軽く身だしなみを整えて玄関を開けると、リッカが立っていた。
「村長、僕は何をしたらいいかな?」
目をキラキラさせてるリッカ、何で急にそんなやる気になったんだ?
「とりあえずご飯を食べることだな、その後俺や妻から色々話がある。
その時にしてもらうことについても話すから……俺はもう少しゆっくりしてから食堂に行くよ。」
「でも、ドワーフ族の方が武器を鍛え直してやるから村長の所で仕事をもらってこいって……。
今でも充分な切れ味なのに、更に切れ味をよくするのを保証してくれるらしいから嬉しくて!」
「よし、今すぐ食堂に行ってご飯を食べながら話をするぞ。」
さすがドワーフ族、見慣れない武器に目を付けて自分でも作りたくなったんだな。
でも頼むからオレイカルコス製は作らないでほしい、さすがにそれはリッカに渡すことは出来なさそうだ。
グレーテには短剣を渡したが……刀は流石に大きすぎるし刀身の色も違いすぎる。
だが、もし作ったら鉄で作り直してもらえばいいだけだし、それにドワーフ族なら一度作った武器は頼めばすぐ作ってくれるだろう。
家に飾っておきたい、脇差くらいのものなら護身用にもなるし作ってもらおうかな?
そんなことを思い浮かべながら妻たちを呼んで、5人で食堂に向かって歩いていった。
「村長の奥様方って皆スタイル良くて美人だね……僕はちんちくりんだから羨ましいなぁ。」
胸を両手で押さえながら悲しそうにするリッカ、別にスタイルや顔で選んだわけじゃないから少し恥ずかしくなる。
言われて恥ずかしくなったのか、3人も気まずそうに視線を逸らしたり頬を掻いたり。
珍しい表情を見ることが出来た、少しリッカに感謝する。
「――以上がリッカにしてもらいたいことだ。」
前日に妻たちと話したことをリッカに伝える、するとリッカは少し悩んでいる様子。
人間領の事情もあるだろうし、もしかしたら難しいのかもしれない。
「僕が知ってることならもちろん提供する、軽く見た感じ出来るかどうか怪しいけど……でもアイデアは常に考えることにするから。
それと……村長は少し察しがついてるかもしれないけど、村の技術を僕にも教えて欲しいんだ、人間領で役立てれることがあるなら役立てたくて……ダメかな?」
「ダメではないですが、村長のスキルは参考になりませんし……職人の技術は常人離れしてます。
それに村でしか再現出来ない方法で資源や食糧も確保してますから、参考になることがあるかどうか。」
「出来なくても知らないことを知る努力が大事だと思ってる、そうしないと成長出来ないし。」
大した気概の持ち主だ、流石は王族――いや、魔族領の王族はそんなことなかったな……やる時はやるけど。
「でもさ、もしリッカさんが教えられることが無くて、こっちからだけ技術を教えることになったら村が損しない?」
ウーテからツッコミが入った、確かに技術は門外不出なイメージがある。
ドワーフ族だって魔族領の料理人からレシピを教えてもらえなかったように、技術はその人が人生を掛けて培ってきたものだ、タダで教えるのは嫌だろう。
「それはもちろん何も教えてもらわなくて構わない、僕だってそこまで厚かましくないよ。
先に僕が技術や知識の提供をするし、村に損はさせないつもりでいるから。」
「それなら大丈夫そうだな、それならリッカはさっき言ったことを仕事にしてくれ。
アイデアが思いついたら、俺か一番活かせそうな種族に伝えてくれれればいいからな。」
「うん、わかったよ。
これからしばらくよろしくね。」
無事リッカと話を詰めることが出来た、俺はご飯を食べ終えたので退散する――妻たちの質問攻めに付き合うと長くなりそうだと思ったからだ。
案の定俺が席を立つと「人間領ではどんな服や装飾品があるんですか!?」とリッカに質問している声が聞こえた。
リッカ、頑張れ。
俺は食堂から出た足でドワーフ族の所へ向かう、刀がどうなったか気になるし。
工房へ入ると、既に打ちあがった刀が二振り置かれていた……鞘も再現出来ているのは流石だな。
「おや村長、工房に来るのは珍しいの。」
「リッカから受け取った刀よりいいものを作ってやると言ったんだろ。
刀は俺の前の世界でもあったから気になってな、俺も男だしこういう武器は好きなんだよ。」
「なるほどの、調味料といい人間領は村長が居た世界と似ている所が多いのかもしれんなぁ。
それより興味があるなら村長専用の刀も打ってもよいが、どうする?」
かなり魅力的な提案だ、だが俺が使いこなせるとは到底思えない……最近本当に体が重いし。
ダイエットがてらやったほうがいいのだろうか、でも昔から運動は得意じゃないしなぁ。
「その心づかいは嬉しい、それなら観賞用で一振りお願いしようかな。
いい刀は見てるだけで心躍らされるからな、少なくとも俺はそうだ。」
「それはいかんぞ、武器として作った以上使ってやらんと勿体ない。
多少の訓練は必要だろうが、ワシが村長の体にぴったりと合う刀を作ってやる――ちょっと身体をじっくり見させてもらうぞい。」
そう言ったドワーフ族は俺の周りをぐるぐると回ったり、全身を触ったり揉んだりしてチェックし始めた。
ちょっと恥ずかしい。
「ふむ……わかったぞい。
村長にしか使えない刀を打っておく、使い方や訓練はリッカという者に教わるとよかろう。
それとは他に多少体は鍛えねばならんが、村長が憧れる武器を使えると思えば頑張れるんじゃないかのぅ?」
……確かに、それは体を鍛えるいい口実になるかもしれない。
憧れはあるけど自分の刀なんて手に入ると思ってなかったが、今は俺にぴったりのものが手に入ることが確定している。
「ちょっと頑張ってみるよ、鍛錬所のような動きは無理にしてもある程度は鍛えてみる。」
俺はドワーフ族に刀をお願いして早速鍛錬所に足を運んだ。
皆からビックリされたが、体を動かすのは良いことだと言われて早速鍛錬に混ざることに……大丈夫か?
「村長、まずは柔軟と基礎的な訓練からしましょう。」
10分程度でついてこれないと判断された、俺はもっと早くに分かってたぞ……だって何も分からず棒立ちだったもん。
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