第157話 別視点幕間:人間領王女の苦悩。
僕はリッカ、人間領で王女を務めている以外は普通の人間。
王女と言っても王である父上とその妾の子で、名ばかりの王女だけど……実際跡継ぎになる王位継承権は15位。
ほぼ王位を継承することは無い、ただのハリボテ。
でもその分兄上や姉上のように口うるさく言われないし、不敬を働いたり外で迷惑さえかけたりしなければ大体自由にさせてもらえてるから、僕はこの地位に満足してる。
いずれは城を出て冒険者になりたい、もっと広い世界を知りたい……そのために特に出なくても何も言われない戦闘訓練だけはきっちりと受けている。
特に冒険者になる以上剣術は必須、人間である以上魔術適性は低いか無いの二択……たまに修行をして高い人もいるけど。
僕に魔術の才能は一切無いので、頼れるのは剣術だけだ。
魔族領から仕入れた剣を使っている者も多いが、僕は昔から人間領で使われている刀がしっくりくる。
これを使うと訓練を指導する爺やが嬉しそうなのもあるけど、実際使いやすいから喜んで使ってるんだよね。
そんな未来を夢見て訓練に励んでいると、珍しく父上から呼び出しがあった……なんだろう?
謁見の間に行くと、そこには王位継承権第16位の弟であるシモンが居た。
「僕はこの件について何も聞いてないんだけど、シモンは知ってるのかい?」
「リッカ姉さんが聞いてないのに俺が聞いてるわけないじゃないか……それよりもうすぐ呼ばれるからきちんとしないと。」
小声でシモンと話したけど何も聞いてないみたい、何が来るか分かって入れば覚悟は出来たんだけどなぁ。
それよりシモンの言う通りきちんとしないと、父上は誰であれ礼儀を重んじる人だから謁見中はルールを守らないとものすごい怒られる……これはお兄様やお姉様でも同じ。
今どきこんな厳しくしても抑圧するだけしてストレスしか溜まらないのに、でも父上なりの指導の仕方なんだろうと受け取ることにしているから面倒くさいけど苦痛ではない。
あ、衛兵が僕たちを呼びに来た――さて、何を言われることやら。
「王位継承権第15位王女リッカ、そして王位継承権第16位王子シモンよ。
人間領と魔族領とより親密な関係になるため、其方ら2人には大使として海を渡ってもらうことを通達する。
あの御前様が負けた未開の地とやらにも大使を送ってはと魔族領から言われておる故、2人で相談しどちらかに1人ずつ向かうことにせよ。
魔族領とは話がついておる、行きの便に必要な割符は円滑に発行してもらえるだろう。
それと、ただ仲良くするだけではなく人間領で生かせそうな技術や道具は頭に叩き込んで帰ってくるのだぞ。」
思っていたよりきつい任務を言い渡された、確かに最近は魔族領とも良好な関係を築けているらしいけど、人間1人で住むとなるとどういう環境か分かったもんじゃない。
少なくとも文明レベルは同じだろうけど、まず歓迎してもらえるかどうか……でも父上の命令に逆らうわけにもいかないし。
「「分かりました、謹んで任務をお受けいたします。」」
とりあえず返事をしておこう、タイミングが同じという事はシモンも似たようなことを考えてたんだろうな。
「っはー……魔族領に長期滞在することになるなんて思ってなかったよ……大丈夫かな……。」
シモンはものすごく不安そうだ、僕も不安ではあるけど冒険者を志す者として知らない土地は少しワクワクする。
いや、実際めちゃくちゃ不安だけどね。
「仕方ないよ、体のいい厄介払いも兼ねて王族を大使に出したという大義名分も残る……人間領にとっては最良の選択なんじゃない?
無下に扱われることはないと思うし、ちゃっちゃと準備して向かいましょ。」
「リッカ姉さんは楽天家だなぁ……。」
そう言いながら2人で部屋に戻りそれぞれ長期滞在の準備をする、流石に路銀は渡してくれるだろうけど……少しは自分のお金も持っていっておこうかな。
貨幣は人間領も魔族領も共通みたいだし、欲しいものがあったら買っちゃおうっと。
――準備が出来て出向前の船の中。
「そういえばリッカ姉さんは魔族領と未開の地、どっちがいいの?」
「僕は未開の地かなぁ、御前様にはよくしてもらっていてさ……あの方を完膚なきまでに負けさせるなんてよっぽどじゃないと無理だと思うのよ。
どういう事なのか確かめたくって。」
「それは興味あるけど、俺は魔族領を選択するつもりだったし助かる。
じゃあ俺が魔族領、リッカ姉さんが未開の地ということで……向こうに着いたらお互い頑張ろう。」
「大使として仕事はしなきゃねー、とりあえずトップに会って仲良くなって人間領にプラスになるよう動かなきゃ。
シモンもしくじらないようにね、僕が周りから聞いた感じだと魔族領では商人ギルドと友好関係を結べれば人間領に間違いなくプラスになるわ。」
「商人ギルドか、経済学は嫌いじゃないから多少学んでいるし……そのあたりからつついてみるか。
でもまずは魔王様に挨拶をして取り次いでもらわないとな、向こうに着いたら忙しいぞ。」
なんて世間話をしてる間に船は出航、最近はマーメイド族が船の先導と警備をしてくれるから非常に安全な航行みたい。
マーメイド族も未開の地から来てるっていうし……本当にどんな所なんだろうか。
魔族領の港に船が到着、そこでシモンとも別れた。
便に乗るには割符が必要らしい、スムーズに発行できるって父上は言ってたけどどこで発行したらいいのか分からないな……。
「あの、何かお困りですか?」
港でキョロキョロしながら佇んでいると、マーメイド族から声をかけられた……そういえば未開の地の住民だよね、案内してくれないかな?
そう思い事情を説明すると、可愛らしい笑顔で割符を発行する場所に案内してくれた。
「助かりました、ありがとうございます。」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから。
未開の地の村は過ごしやすくていい村ですから、楽しみにしててくださいね!」
そう言ってマーメイド族は関係者しか入れない場所へ入っていった、過ごしやすい場所かぁ……亜人にはそうかもしれないけど人間には難しいかもしれないのに。
不安を抱えながら僕は定期便が出る関所に行き、未開の地の村行きの便へ乗った。
やっぱり楽しみだけど不安のほうが大きいなぁ、無事に帰れるんだろうか。
半日ほど馬車に揺らされると到着したという声がかかった、ケンタウロス族も未開の地の村の住民らしい。
非常に乗り心地のいい馬車だった、思わず眠ってしまっていたみたい……涎垂れてないかな。
馬車を降りて村を見た第一印象は長閑な村、それ以上の感想は出なかった。
こんなところに御前様を負かすような戦力が住んでるなんて考えられないんだけど……と思っていると大きな羽音が聞こえる。
ふと空を見上げるとドラゴン族が村を守るように飛んでいるのが見えた、それだけですべて納得。
漏らしそうになったけど我慢した僕を褒めてほしい、そりゃ御前様でもドラゴン族には敵いそうにないわ。
取って食われないか不安になりながら村を散策、すると向こうから明らかに人間のシルエットが歩いているのが見えた。
まさか知らない間に人間領からここに来てる人が居るなんて思わなかった、僕は嬉々としてその人間のところへ駆けていった。
――まさかここの村長が人間なんて思わなかったけどね。
盛大にしくじった、僕の狙いも話してしまったし……悪印象を与えたかもしれない。
過去最高に変な汗をかいてしまっている、この場をどうやって打開するか……とりあえず謝ろう。
すると思いのほか怒ってないらしい、だが宿泊施設が無いとのことだ。
流石に長期滞在で野宿の覚悟は出来てない……どうすればいいの?
話を聞くと家を建ててくれるらしい、それなら安心……って家!?
かなりびっくりしたが村長の顔は至って普通なのでここでは当たり前のことなのかもしれない、でもその間やっぱり野宿じゃないか!
しかもご飯を食べてる間に建ってるって、そんなはずないだろう!
何をするか見せてほしくて、村長から渋々了承を得る……そんな技術があるなら革命だ、人間領にとって絶対プラスになる。
そう思ってついていった先で、本当に一瞬で家が建ったのをこの目で見た……そこで僕の意識は途切れる。
目を覚ますと村長の家だった、「これからよろしくな。」と言われても現状の把握が出来てないので、まずはそれをさせてください。
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