第156話 プールの新しい遊びが決定した。
花の季節になって暖かくなり、ようやく厚着から解放されて動きやすくなった。
女性陣は花の季節に出ている服を買いに行くらしく、ほぼ全員が出払っている。
デートも兼ねたいのか今回は一部の男性も連れて行かれていた、ちょっと羨ましい……俺も行こうかと聞いてみたが「村の代表者が居なくなるので、これとは別の機会に行きましょうね。」とお断りされたんだよな。
至極もっともな意見で何も反論出来なかったよ。
ということで、俺はケンタウロス族とミノタウロス族が遊べるプールの施設や遊具を考えながら見回りをすることに。
もちろんカールも一緒だ。
「村長、ちょっといいですか?」
見回りをしているとダークエルフ族から声をかけられる、何か紙を持っているな。
「どうしたんだ?」
「グレーテさんから頼まれていた冒険者ギルドの図面が書きあがったので。
一応要望通りに書いてみたのですが、村長は魔族領の冒険者ギルドに行ったことがあるんですよね?
図面を見て改善点があれば教えてほしいんです。」
「分かった、ちょっと見てみるよ。」
渡された図面を見てみると、レイアウトはほぼ魔族領の冒険者ギルドと同じものだ。
違うとすれば隣に鍛錬所が設置されていることと、宿泊施設が2階にあることだろうか。
だが魔族領の冒険者ギルドで2階には行ったことないしな、もしかしたら向こうもそうなのかもしれない。
「特に問題は無いぞ、魔族領にあるものみたいに飲食が出来るスペースは作らなかったんだな。」
「それはグレーテさんから絶対作らないでと言われてますので。
私も勝手にそういうイメージがあったんで何故か聞いてみたんですが、治安がどうしても悪くなっちゃうから村にマイナスだと。」
なるほど、村の住民なら軽く収められそうだがわざわざトラブルの種を作る必要もないという事か。
それにドワーフ族が人手をそちらに回すのを嫌うだろうし、それで正解だろう。
「それならこれで問題無いはずだ、グレーテも買い物に出かけてるはずだし帰ってきたらグレーテにも確認してもらってくれ。
大丈夫と言われたら予定地に建てることにするから。」
「分かりました、ではそのようにしますね。
ありがとうございました!」
「ちょっと待ってくれ、俺も相談があるんだ。」
図面を持って居住区に帰ろうとするダークエルフ族を呼び止める、振り向いた表情はものすごいキョトンとしていた。
「村長が奥様方やドラゴン族以外に相談なんて珍しいですね、どうされました?」
そんな事ないぞ、色んな種族に相談している……あまり表立ってやっているわけじゃないけど。
「ケンタウロス族やミノタウロス族でも遊べるプールの施設や遊具、何か思いつかないかな。
去年はプールに入っているだけで、ウォータースライダーなんかは全然遊べてないからちょっと気の毒で。
考えてはいるんだがいい案が思いつかなくて、何かアイデアがあればもらいたい。」
俺一人で悩むより、建築や製図が得意なダークエルフ族に聞くのがいい案だと思い聞いてみた。
それを聞いたダークエルフ族は、腕を組んで悩んだ表情をする……やはりすぐには思いつかないか。
だが次の瞬間、何かを思いついた顔になった。
「あ、水鉄砲はどうでしょう。
あれなら子どもに当たっても濡れる程度で済みますし、頭に紙で出来た的を付けて破れたら負けという遊びを川でやっていましたよ。
後は足元にある物を拾うのもいいですね、綺麗な石なんかあると嬉しかったので価値ある物を拾わせる遊びなんかはどうですか?」
なるほど、後者は小学生の頃にやった遊びだな……言われるまで思い出すことも出来なかったよ。
前者は是非作ってみて欲しい、それなら体格もデメリットにならず皆でわいわい遊ぶことが出来る。
「水鉄砲って次の陽の季節までに作れたりするか?」
「楽勝ですよ、何ならデザインお任せでいいなら足元に落とす玩具も任せてくれて大丈夫です。」
「よろしく頼む、今回はそれを試してみよう。」
相談して良かった、かなりいい案が貰うことが出来たな。
2種族とも気にしないでくれと言っていたが、やっぱり気になるし子どもたちが可哀想だ。
だが今年は遊べる玩具がある、存分に楽しんでほしい。
ダークエルフ族と別れて見回りの続きをしていると、見慣れない種族が歩いているのが見えた。
村に迷い込んだ種族だろうか、そう思い近づいてみる……あれは人間!?
人間領の人が魔族領を超えて未開の地にやってくるとは、よく割符を入手出来たな。
よほど信頼のある人なのだろうか、そう思って声をかけようと近づくと向こうも俺に気付いたのか手を振って近寄って来た。
どう見ても初対面なんだが物凄く親しげに近づいてくるな、どういうことだ?
「おぉー、僕より先にこの地に来てる人間が居るなんて思わなかった。
そんな情報は無かったけど、君もやり手だねぇ……どうかな、人間領に役立ちそうな道具はあったかい?」
これは完全に勘違いしているな、俺を人間領の住民だと思っている。
「俺はこの村の村長をしている開 拓志だ、人間領の住民じゃないぞ。
話を聞く限り貴方は人間領の住民みたいだが、よく魔族領が割符を発行してくれたな。」
俺が説明すると、ダラダラと汗をかいて目を逸らした……顔色も悪くなってきているし。
別に怒るつもりはないから安心してほしいんだけどな。
「道理で情報にない人間がこの村に居ると……勘違いをして申し訳なかった。
僕は人間領の王女を務めているリッカだ、魔族領とは話し合って交流を深めるためこちらには僕が、魔族領には王子が滞在することになったんだ。
しばらく村の世話になる、よろしく頼むよ。」
女性だったのか、一人称が僕だし気づかなかったよ……体を見ても気づけなかったのは絶対失礼なので黙っておこう。
「それは大丈夫だが、この村には宿泊施設が今のところない。
交流のための滞在なら家を建てるぞ、どんな家がいいか希望を教えてくれ。」
魔族領から相談が欲しかったところだが、人間領が王族を出してまで信用を勝ち取りたいと思ってくれてるのはありがたい。
今後良好な関係を築くにはちょうどいいだろう、ここで無下に扱う意味も無いな。
それに俺はリッカが身に付けているある物に興味を惹かれている……刀だ。
俺自身が扱えるわけじゃないけど、かっこいい――それ以上の理由は要らなかった。
どうにかして刀を貸してもらい、ドワーフ族に再現してもらいたいぞ……見ているだけでワクワクするし。
だが俺の質問に対してリッカからの返事が無い、どういうことかと思って刀からリッカの顔へ視線を移すと口をパクパクさせている、どうしたんだ?
「家を建てる間僕はどこに泊まればいいんだ!?
流石に野宿の覚悟は出来てないし準備もしてないぞ……?」
そうか、
「大丈夫だから、とりあえず希望を教えてくれ。」
俺は無理矢理リッカから家の希望を聞き出す、王族なんていうからもっと豪華なものを要求してくるかと思ったが、かなり慎ましい一般の住居程度の希望だった。
その程度ならすぐに準備出来るな、客人だし俺の家の近くに空いている土地に建てるとしよう。
「家を建ててくるから村を散策してくれてて大丈夫だ、昼頃になったらあそこにある食堂に集合で。
飯を食べたら家まで案内するよ。」
「待て、そんな短時間で家が建つはずがないよ。
何をするつもりなんだい、是非見せてもらいたいんだけど。」
「特別なことはするが、何の参考にもならないと思うぞ?」
そう言ってもリッカは引き下がらなかったので、ケンタウロス族に住居に必要な資材を運んでもらって
「ほら、リッカの家が出来たぞ。」
そう言いながら嫌な予感がしたのでリッカへ視線をやると、気絶して倒れる寸前だった。
やっぱりな。
「すまないがそのまま俺の家まで運んでやってくれ……俺が看病しておくから。」
ケンタウロス族は笑いながら俺の家までリッカを運んでくれた、だから散策しててくれって言ったのになぁ。
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