第155話 今日は村に住んでいる種族の代表者達と話し合いをした。
リザードマン族が村に来てしばらく経った、季節も氷の季節が終わり花の季節に。
「本当に食糧に困窮することなく、これだけ多くの他種族が氷の季節を犠牲者無しで越えた……。」
今日は村の種族代表が集まって話し合いをする日、話し合いの前にインゴが平和過ぎる村を理解しきれなかったのかポツリと呟く。
「もう事故や天命以外で命の心配はしなくていい、与えられた仕事を全うしてくれたらきちんと食事が出るさ。」
「だがリザードマン族はまず鍛錬をして力を付けてもらわねばな。
素質はかなりのものだし、しばらく鍛錬すれば直にウェアウルフ族と同等の力をつけれるだろう。」
「命が続くうえに力を付けさせてくれるなら喜んで鍛錬をしよう、まだ鍛錬に付いていくので精一杯だが……種族全員必死に食らいついていかせてもらう。」
そこまで必死にならなくていいのに、無理のないペースで鍛錬をしてほしい。
「おや、待たせてしまったようだな。
む、こちらがリザードマン族か。」
オスカーとシモーネが2人で広場にやってきた、リザードマン族とは初対面なんだな。
「ワシはドラゴン族の長でありドラゴン族の始祖リムドブルム、名はオスカーと言う。
隣に居るのが妻のシモーネだ、これからよろしく頼むぞ。」
「私はリザードマン族のインゴ、長ではないがリザードマン族を束ねている。
風の噂で聞く最強のドラゴンがこの村に居るとは思わなかった、こちらこそ非力ではあるがよろしく頼む。」
「長ではないのに束ねているとは珍しいな、何か理由があるのか?」
俺が気になっていたけど話さなかったので聞かなかったことを普通に聞いた、言いづらい理由だったらどうするんだ。
「長は力こそあるが病の後遺症で喋れなくてな……それゆえ長は前線には立つが話し合いは次に力のある私が担っているということだ。」
喋れないのか……それは不便だし可哀想だ。
そういう理由なら納得だ、喋れないのに話し合いは出来ない……筆談という手もあるが時間を取ってしまうしお互い煩わしくなってしまうだろう。
「そういうことか、グレーテ殿の回復魔術か村長のポーションを試して効かなければ別の方法を追々探してみるといい。
待たせたうえ世間話をして申し訳なかった、話し合いに移ってくれ。」
いや、知りたいことを知れたから別に構わないぞ――じゃあ話し合いを始めるか。
内容はマーメイド族が人間領に注文する調味料や食材の種類と量、魔族領へ応援に出す戦力の調整や魔族領から購入する物、今後の村の方針など。
調味料や食材はドワーフ族が「何でも欲しいぞい、全部見極めてうまい飯を作ってやるからの。」と自信満々。
ここに居る全員がその実力を疑ってないので、買えるものは何でも買うことに。
だが初めての物はお試しということで50キロくらいからと量を決めた、前より倍以上増えているが20キロだと一瞬で無くなったため村の住民から足りないという声が挙がったからだ。
魔族領への戦力は引き続きウェアウルフ族とミノタウロス族、それにケンタウロス族が交代で担当。
リザードマン族も鍛錬を続けて、3種族が大丈夫だと確信を得たら応援に回ってもらうらしい。
未開の地より魔物の強さは弱いが、数が多いのと守る対象が居ることもあるため今のままでは危険が伴うかもしれないそうだ。
自分たちだけ勝てばいい戦いではないこともあるからな、それは仕方ないだろう。
魔族領からはお風呂で使う石鹸や食器、それに村では作ってないような衣服類が人気なのでそれを買うことに、衣服については季節が変わる手前に女性陣が買い物に出かけて実際に物を見て買いたいということだ。
デザインなんかが気になるらしい、男性陣は「着れたら何でもいいだろう。」と言われたがどうやらダメらしい……俺もファッションなんかには無頓着なので着れればいい派。
だが経済を回すという意味では非常に有効な手段なので反対はしない、稼いだ金は使わないとな。
前の世界だと貯蓄して未来の安心を~なんて思っていたが、この世界ではそういうこともないし使わないと損しかない、お金を貯めて大きい物買い物がしたかったり何か夢があったりするなら別だけど。
だが村に住んでる住民はそんな願望は無いので、どんどん使う事を推奨した。
俺は夢とまでは行かないが、やりたいことがあるので少しお金を貯めたいと宣言。
俺自身が稼ぎ始めると市場のバランスが壊れるので、皆から集まってるお金をそれに回させてほしい、それは絶対村のためになると説明して皆からの了承を得ることが出来た。
事情があって話すことは出来ないけどな、了承を得ることが出来てよかったよ。
今後の村の方針についてだが、キュウビが見つけた種族の誘致と村の拡大が主な内容だ。
村を拡大する方向は極力魔族領へ続く陸路側がいいだろうという事に、定期便の距離が短くなれば負担も減るだろうし賛成だ。
いくつか村を分けて運営すれば定期便を使わない冒険者も使いやすいのではという意見もあったが、こちらに来る人の安全が第一なので安易なことはしたくない。
今この村があるのは他種族の力が合わさっているからだ、それを崩してまで村を分けて運営して冒険者の命を危険に晒す確率を上げるのは得策ではないと思う。
説明すると分かってくれた、よかったよ。
それと外部の人が買い物をしやすいよう商店街のような場所を作ってはという意見も言ってみた。
女性陣から大いに賛成を得ることが出来た、村にそういう施設があるだけでも何となく嬉しいのだろう。
生産者もそれはいいが、店番に人手を取られると生産スピードが落ちるかもしれないというのを懸念。
「あの、マーメイド族の手はかなり空いてるので担当しても大丈夫です。」
アストリッドがそう言うと、「それなら大丈夫だぞい、今度マーメイド族と村で作られたものを説明する場を設けようとするかの。」とドワーフ族が言ったので皆それに了承。
全体で話し合う内容はこれで終了だ、思ったより長くなってしまったな。
話し合いの後、アストリッドが今回の話し合いに参加していたので残ってもらった。
「どうしたんですか、私だけ残して……。
何か悪い事しましたかね?」
アストリッドの表情に不安が映る、もっと自分に自信を持ってほしい。
「何も悪いことはしてないぞ、安心してくれ。
それより人間領から買える物が書いた目録に技術がまだ載ってなくてな……何か聞いているかと思って。」
「いえ、何も聞いてないですね……それに人間領は魔族領と文化の毛色こそ違いますが文化レベルは魔族領と同じくらいだと思います。
この村が欲しがるような技術があるようには見えないんですが……。」
それは何となく想像がついている、もしそんなことがあればキュウビから何かしら話が聞けている気がするし。
「そういう文化に関わる技術ではなく料理のレシピや、食材の使い方なんかだよ。
もしかしたらキチジロウや人間領の王は何か勘違いをしているかもしれないな……そういう物が欲しいと一度伝えてみてくれないか?」
「分かりました、次の担当者に伝えておきますね。」
俺が忘れているような料理がもしかしたら人間領にはあるかもしれない、そういうものは村にも取り入れたいからな。
話し合いを終えた俺はプールを眺めて一人で座って考え事をする、ミノタウロス族やケンタウロス族が使えるようなプールの遊具が思いつくといいなと思いながら。
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