第149話 予定通りドワーフ族とうどんを作った。

「本当にこれだけでうどんとやらが出来るのかの?」


小麦粉・塩・水……それだけしか準備していないのでデニスがかなり訝しげに俺を見つめる。


「これだけじゃうどんの麺という部分しか出来ない、出汁という物を作ってそこに麺を入れるんだが……今回は出汁が作れないので醤油と卵で食べようと思う。」


3種類の材料はそれぞれ重さをきっちり測ってもらっている、どれくらい使えば1人分出来るかどうか計算するためだ。


そして想像錬金術イマジンアルケミーでうどんの麺を思い浮かべる……美味しいうどんなんてそこまで食べたことないが、うどんが有名な場所で行列が出来ていたお店の物を想像しよう。


どうせなら少しでも美味しい物を食べたいからな、あそこはかけうどんだったけど。


無事材料が光ってくれたので1人分の麺を錬成。


「さぁ出来たぞ、とりあえず麺を茹でて湯切りをして醤油と卵をかければ釜玉うどんの完成だ。」


「ほほぅ、では準備していただこうとするかの。」


デニスがお湯とザルを準備して麺を茹でる、茹ですぎるとデロデロになってしまうんだがそれを見抜いているのかさっと済ませていた。


流石食が趣味というだけはある、初めての物でも何となくわかって対応するのがすごい。


麺の湯切りが終わり、器に移して醤油と卵をかけて「では、いただこう。」とお箸を使って器用にすすった。


案外麺をすするのって難しいって聞いたんだけど普通に出来てるな、前の世界では外国人は出来ない人のほうが多いって聞いたことあるんだけど。


「ほほ、これはお腹に優しくて腹にも溜まる。

 それに美味い、これだけでこの味が出せるなら費用対効果は抜群じゃな!」


おぉ、これも無事美味しいという感想をもらえた。


「これも再現出来るかな?」


「無論じゃ、これだけしか使っておらんのにワシらが出来んはずがないじゃろう。

 今日中にでもこれ以上の物を作ってやる、楽しみにしておれ。」


心強い言葉をいただいたので俺は退散することに、パンやピザも作りたいんだが酵母が無いから無理そうなんだよな……ダークエルフ族が技術を持っていたりしないだろうか?


キノコを育ててるし、菌を扱っているという安直な理由だが。


そう思ってダークエルフ族の所へ向かうことにした。




「うーん、時間はかかりそうですが出来そうだとは思いますよ?」


俺が酵母の説明をすると、なんと出来るかもしれないという答えが返ってきた。


ダメ元で聞いてみただけにかなり嬉しい、もしかするとパンやピザが食べられる日が来るかもしれない。


「時間が許すなら挑戦してみてくれないか?

 それがあればもっと美味しい料理をドワーフ族に作ってもらえるかもしれないんだ、頼む!」


「村長も人が悪いですねぇ、そう言われると断れなくなるじゃないですか。

 いいですよ、同じ菌なら私たちが扱いに一番長けているはずです。

 プラインエルフ族も居るので冷やす工程もスムーズに行えるので出来ると思いますから。」


ノラの口からよだれが少し垂れている、美味しい食べ物に釣られて出てしまったのだろう。


パンもピザも美味しいから期待しててくれ。


「ところで、俺が説明した菌を培養するのに必要なものはあるか?」


「そうですね、とりあえず色々試さなければならないのですが……手始めに果物と砂糖をお願いしましょうか。

 それを水に漬けて培養すればもしかしたら……ですね、試してみないとわかりませんが。

 時間は本当にかかると思います、試行錯誤しながらなので1年以上は見ていただけると幸いですね。」


「それに関しては問題無い、今日も新しい料理をドワーフ族に作ってもらっているし人間領からも新しい調味料を仕入れる予定だ。

 それだけで充分料理の種類が増えるだろうし、マーメイド族も魚を持って帰ってきてくれる。

 皆が飽きるような事にはならないだろうし、心配しなくていいぞ。」


そう伝えるとノラは「安心しました、では仕事の合間を見て酵母の培養に取り掛かりますね。」と言ってドワーフ族の所へ走っていった。


仕事の合間とは言ったが、あの様子だと早速準備に取り掛かりそうだな……俺としては良いんだが仕事は大丈夫だろうか?


もしかすると石油精製施設も作り終えて、今はキノコの栽培だけになっているのかもしれない。


それなら別に手は空いてるだろうし問題は無いだろう、実際どうなってるかは分からないが……村長としてそれでいいのか悩んだが村が問題無く機能しているので良しとする。




本格的にやることが無くなった……見回りをしようかと思った矢先、マーメイド族が結構重そうな荷車を引っ張って車椅子でこちらに向かっている。


かなりしんどそうだけど大丈夫か?


「ふぅ……ふぅ……村長、良かった近くに居て……。

 人間領に頼まれていた商品を持って帰ってきましたよ……重かった……。」


「無理せず魔法陣の前で一度荷物を置いてケンタウロス族を呼べばよかったのに。

 でも持って帰ってきてくれてありがとう、支払いはどうしたんだ?」


「……その発想は無かったですね、今度からそうします。

 支払いはマーメイド族の報酬から天引きしてもらおうと思ったんですが、お近づきの印にということで今回は無料でいいとのことでした。

 今後ともご贔屓にと村長に伝えてくれとも言われてます。」


これで人間領に貸し一つか……何かで返さないといけないな。


だがキュウビの評価が正しければこの調味料はかなり上質なもののはず、贔屓にすれば貸しを返せないかな……。


でもそんなのじゃ向こうの損失を返すのは結構先になるだろう、やはり機会があれば別の形で返すとするか。


俺はマーメイド族から頼んでいた調味料を受け取り、ケンタウロス族を呼んでドワーフ族のところへ運んでもらう。


というか、マーメイド族の腕の力すごくないか……これ80キロくらいあるんだけど車椅子で運ぶってどういうことだ。


流石大海原で揉まれた種族と評するべきか、やはり俺基準で住民の身体能力を測ってはいけないな。




ドワーフ族に調味料を届けると、即座に味見を始めた。


調味料だけだとそんなに美味しくないと思うんだが、それにかつお節は削られてないから塊で届いてるし……あ、ちぎって齧っている。


かつお節って相当硬いはずなんだけど。


「ふむ、これは優しい味の料理が出来そうじゃな。

 それに村長と作ったうどんと相性が良さそうなのも分かった、早速作ってみるとしようかの。」


そう言って昆布を鍋に入れてかつお節を削り出汁を取り始める、味見だけで用途が分かるのはおかしいと思うんだが……ゲームを長年やっていると新しいゲームでも感覚で何とかプレイ出来るのと同じようなものなのだろうか。


出汁を取り終えて、試作段階らしいうどんを投入――かけうどんの完成だ。


「村長はこれに油揚げを乗せると言っていたな、確かにこれならいい味になると思うぞい。」


かけうどんがきつねうどんになった。


味見をしてくれとのことなので、麺と油揚げを一緒にいただく。



これは美味い、釜玉うどんも美味しかったが……このきつねうどんはそれ以上だ。


キュウビが言っていた通り、キチジロウは高品質な調味料を村に送ったのだろうな、こんなの贔屓にするに決まってるじゃないか。


「これは美味いぞ、大成功だ。」


「それは良かった、どれワシも一口……んむ、想像通りの味じゃな。

 人間領からどんどん仕入れてほしい、他の料理にも使いたいと思っておるからの。」


「分かった、マーメイド族にそのように伝えておくよ。

 必要な量をメモして俺に渡してくれ、代金と一緒にマーメイド族へそのメモを渡すから。」


「分かった、そのようにしよう。」


平和だから食べ物のことに集中できるな、俺はこういう生活を望んでいたんだ……最近戦いやトラブルが多すぎたから出来てなかっただけで。


きつねうどんも完成してキュウビとの約束も無事守れそうだ、贖罪の旅が終わるころにはドワーフ族がもっと美味しくしてくれているだろう。


そう安堵して外に出ると陽が落ちかけていた、前に怒られたのを思い出して俺は走って家に帰る。


「あと15分遅ければまた怒っていましたよ?」


3人から詰め寄られる……美味しいものが出来たし気を付けるから許してくれ。

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