第148話 村の女性陣が買い物に出かけたので、その間に思い付きで村に神殿を作ってみた。

「今日は我慢してください、お願いします。」


ドワーフ族とうどんの再現をすると伝えると、メアリーに止められた。


理由を聞くと、今日は村の女性ほぼ全員が魔族領で買い物に出かけるらしい――この前の神の神殿イベントで色々な物があって気になった人が多いみたいだ。


ホントは早めに行きたかったがシュテフィの件があって行けずじまい、ここ最近は落ち着ているので今日行くことになったらしい。


そんなに他種族が押し寄せて大丈夫かとも思ったが、魔族領もここ最近は村の住民を普通に受け入れてくれてるので問題無いだろう。


そういう事なら仕方ない、子どもの世話は誰かがしてやらないとダメだから男性陣で頑張ることにしよう。


それに貨幣を魔族領で使ういい機会だ、村にあるのはほぼ金貨ばかりなので使いきれないだろうが……使わないよりマシだろう。


女性陣が居ない間に、村で何も起こらないことを祈るしかないな。




「村長、ウルスラのオムツ替えて……。」


見回りをしていると、ギャン泣きしているウルスラを抱いて困り果てたクルトが助けを求めて来た。


どうもクルトは未だおむつ交換が苦手らしい、ドラゴン族のやり方も聞いたが難しくてダメだったそうだ。


ちなみに隣にはしょぼくれいてるオスカーも居る、親子揃ってダメだったのか……。


「分かったよ、そこの机にウルスラを寝かせてくれ。」


ちょうど広場だったのでやりやすい机の上でオムツを交換する、カールで大分慣れてるから楽勝だな。


「おぉ……村長凄い。」


「すごい手際だな、もっと簡単になればワシらも出来るんだが。」


前の世界ほどではないが、このオムツもかなり考えて作られているから簡単だと思うぞ……?


だがこればっかりは種族の苦手なことだから仕方ないかもしれない、ウーテもちまちました作業は苦手と言っていたからな。


子どもが産まれたら世話は俺がメインになるかもしれない、だがウーテも負けず嫌いなのか奥様方に育児に必要な技術を必死に教わりにいっているのを知っている。


もしかしたら出来るようになるかもな、女性のほうが少し得意かもしれないし。


ウルスラのオムツを交換し終えて、再度村の見回りへ。


しかし女性が居なくなっただけでかなり村が寂しく見えるな、それだけ女性の数が多くて働いてくれてたということだろう。


感謝しかないな、だが男性だけでも村は普通に機能しているように見えるので全員に感謝だ。


だが、この世界に連れてきてくれた神にももう少し感謝してもいいかもな……2発殴る気持ちは薄れていないけど。


今は暇だし、思い出した時に感謝くらい祈ってやってもいいかもしれないな。


そういう事はプラインエルフ族が一番詳しいだろう、ザスキアは居ないが男性に聞いても充分詳しいことを教えてくれるだろうし聞いてみるか。




「――ということをしたいんだが、何かいい方法はないか?」


「それは良いことだと思います、何よりプラインエルフ族のように毎日の仕来りもないので誰しも祈りやすいのが最大のメリットですね。

 それで方法ですが、やはり神を模った像を神殿に祀るのが一番かと。

 我々が里に居た時は神の樹がその神殿の代わりでしたので、この村に来てからは祈る神殿がありませんので食糧や大地に祈りを捧げてます。」


言ってくれればそれくらい作ったのに、だが宗教に口出しをしないと言ったのは俺だから頼みにくかったのかもしれないな。


簡易の神棚のようなものでいいかと思ったが、案外プラインエルフ族や他の種族も利用したいかもしれないので30人程度が入れる神殿を作ろうか。


「ありがとう、ちょっと思い立ったからその案をいただくよ。

 立地は少し悪くなるけど、もしよければ利用してくれ。」


プラインエルフ族の慣習も簡易になったし、利用する人はそこまでいないだろうけどな。


そう思っていると、話していたプラインエルフ族がものすごい笑顔を浮かべていた……どうしたんだ?


「ありがとうございます!

 ザスキア様が慣習を簡易化してから、少し不満の声が挙がっていまして……ですがまた元に戻るのは嫌だという声もあったんです。

 神殿が建つことで相互の中間の案が出来そうです、楽しみにしていますね!」


簡易化するのはいいが少々やりすぎたみたいだな、長く続いた慣習は調整が難しいのだろう……メアリーやカタリナも神への感謝は忘れていないから元々信心深い種族だろうからな。


いきなり簡易化されて神への感謝が疎かになっていると感じたのかもしれない、プラインエルフ族は利用する人も多そうだし、50人くらいは入れるようにしようか。


「そうだ、ついでにプラインエルフ族の空いている人で神殿の管理も任せていいか?

 こういう信仰に関しては一番秀でてる種族だと俺は思っているし、どうだろう?」


「大丈夫です、今はザスキア様も魔族領へ向かわれていますが私と同じ返事だと思いますよ。

 ザスキア様は村長がイベントで建設した神殿を見てくるとも言っていましたし、恐らく少し羨ましいのだと思うんですよね。」


そうだったのか、まぁザスキアは慣習を物凄く大事にしていたし仕方ないのかもしれない……若い世代に受け入れられなかっただけだ。


俺は改めてお礼を言ってその場を後にする、その後プラインエルフ族の居住区の近くにちょうどいいスペースを見つけた。


ケンタウロス族とミノタウロス族に声をかけて何をするか説明、資材をそのスペースに運んでもらい想像錬金術イマジンアルケミーで神殿を建設。


後は神の像だが……せっかくだしオレイカルコスで作るとするか。


傷もつかないし手入れにそこまで気をつかわなくていいだろう、ちょっと拭いてやれば光沢も出るし。


オレイカルコスを1m四方くらいの量をもらい、俺が見た神を模った像を神殿の最奥中心の台座に設置――うん、神殿っぽくなったんじゃないか?


だが何かが足りない……俺が想像する神殿と少し違うんだよな。


何が違うかと考えていると、思いついたものが1つ出てきた――ステンドグラスだ。


映画や写真でよく見た神殿や教会は最奥に大きなステンドグラスで模様や絵を描いているがそれがない、あれって視覚的な神々しさを出すには最適だったんだな。


だがこういう技術を持った種族を俺は知らない……近しい技術を持っているのはアラクネ族かドワーフ族だろうか。


何を使えば出来るかさえ分かれば想像錬金術イマジンアルケミーで作れるので、声をかけて聞いてみることに。


「それでしたらガラスを金属で着色すれば再現は出来るかと、ランク3のシュムックも使えば更に彩りが美しい物に仕上がるはずですよ。

 よろしければ私が使う金属を見繕って差し上げますわ。」


買い物に出かけていなかったアラクネ族に声をかけて材料を準備してもらう、ステンドグラスって金属なんかで着色していたんだな。


今にして思えば炭で無理やり色をつけて太陽熱温水器を作ったのは間違いだったんだろう……金属でガラスに色が着くなんて知らなかったし。


材料を積んでもらい、再び作った神殿へ。


まずはステンドグラスをはめ込む部分の壁を想像錬金術イマジンアルケミーでくり抜く、そしてそこにはめ込むようステンドグラスを思い浮かべる……おぉ、ちゃんと光るという事はこれで正解なんだな。


やはりこういう材料や方法は職人に聞くのが一番だ、そう思いながらステンドグラスを錬成。


絵心は全く無いので、俺が前の世界で住んでいた駅にあったステンドグラスを何となく再現することに。


おぼろげにしか覚えてないが、まぁこれで大丈夫だろう。


「おぉぉ……これはとても神々しい神殿ですな。

 大きさこそ魔族領の神殿には劣りますが、神々しさでは村の神殿が勝っているでしょう。」


最後まで一緒に居たケンタウロス族とミノタウロス族が感激している、そしてそのまま片膝をついて祈りだした。


普段信心深くない種族が祈りたくなるほどの神殿なら、完成度としては充分だろう。


俺が思いついたことなので一緒に祈る、こうやって自分の時間を使って何かに祈るのは初詣以来だな。


完成したとプラインエルフ族に伝えて神殿を見てもらうと、プラインエルフ族の男性陣だけで大騒ぎになり全員祈り出した。




夕方ごろに女性たちが帰ってきて神殿を見ると再び大騒ぎ、ザスキアはもちろん慣習を嫌がっていたメアリーやカタリナ、さらにはラウラまで涙を流しながら祈り出す始末だ。


ここまで喜ばれると思い立ってよかったと思う、でも明日はうどんを作るからな――村にあるものでも釜玉うどんが作れるのを思い出したから。

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