第147話 寿司が完成したら、そのままパーティーになった。

寿司をドワーフ族と再現しだして2日、妻たちに怒られた甲斐もあって無事に満足出来る寿司が出来た。


俺は味見担当、ドワーフ族の手際が良すぎて何もすることがなかった。


最初は回転寿司のレベルから、この時点でも充分だったがドワーフ族が納得しなかったので、俺も昔上司に連れて行ってもらった回らない寿司の味や触感を必死に思い出して今に至る。


まさかここまで再現することが出来るとは、しかもシュテフィのおかげで鮮度抜群の魚を寿司に出来るなんてこの上ない贅沢だぞ。


ちょうどマーメイド族が仕事から帰って魚を持って帰って来たので、今日は寿司パーティーをすることに。


結果は大好評、これでキュウビの約束の一つは果たせ……てないな。


油揚げを使う料理で寿司を提案した、つまり今俺が作るべきは握り寿司ではなくいなり寿司。


寿司といえば握りだという頭になってしまっていた……ドワーフ族に悪いことをしてしまったな。


ダメ元で頼んでみよう、再現出来なければまた後日ということで。


「すまん、魚を握らなくていいから酢飯を油揚げで包むことは出来るか?

 酢飯に色々具材が入っているとアクセントになっていいと思うんだが。」


やりきった表情のドワーフ族にこんなことを頼むのは気が引けるが、せっかくキュウビと約束したし完成度のより高い物を食べさせてやりたい。


「ふむ、それは面白そうじゃの。

 ちょうど酢飯は充分にあるし少し試作してこよう、ちょっと待っててくれんか。」


言葉で説明しただけで料理を再現するドワーフ族は本当にすごい、少し考えていたようだし頭の中で使う材料や味も想像出来ているのだろう。


ずっと同じペースで握り寿司が出てくる中、しばらくしていなり寿司もテーブルに並び始めた。


お米どれだけ炊いたんだろう……備蓄大丈夫かな。


これは後で聞いた話だが、お米やスープ等大量に消費する物は先に作ってシュテフィの能力で保存してもらっているらしい。


時間が止まっているから温かいまま自由に使えると、やはり村に誘ってよかったな。


そんなこんなで寿司パーティーを楽しんでると、魔王とクズノハが仲良く談笑しながら寿司を食べてるのが見えた。


来るのは聞いてなかったが、毎回俺に伝えるのも変な話だろうしそういう事もあるだろう。


あの様子を見るとクズノハに会いに来たみたいだし、進展してるといいけどな。


「あのお二人、真剣にお付き合いするようになったみたいですよ。」


メアリーが割と衝撃な報告をしてきた、お皿に10貫くらいお寿司を乗せて。


お行儀が悪い……と思ったがあれは前の世界の慣習だし、よく考えたら皿にたくさんの寿司を乗せてはいけないというのも聞いたことがないな。


だいたい1~2貫しか乗ってないだけで、大皿にはいっぱい乗ってたりするけど。


閑話休題。


「そうだったのか、知らなかったよ。」


「この間クズノハさんが単身でお城に行って、謁見の間でお返事をしたそうです。

 大臣からは種族や地位の関係で反対されてましたが、お二人の熱意と真剣さに負けたとか。」


クズノハがそこまでするとは、てっきり2人の時に返事をするのかと思っていたよ。


しかし無事にお付き合いを始めて何よりだ、2人とも幸せになってほしい。


種族の問題はあるが……そこはどうするんだろうな、魔族領の王だから妖狐一族が王になるのも難しそうだし。


だがあの2人ならうまく乗り越えていくことを信じる、まだ夫婦の契りを交わしてはないだろうから気が早い心配かもしれないが。


それより今は寿司を楽しむ時間だ、2人の邪魔をしては悪いし俺たちは俺たちで楽しむとしよう。




寿司パーティーが終わった後、お腹が苦しくなって動けなくなった……明らかに食べすぎだな。


調子に乗って何十貫も食べるんじゃなかった、正確な数は把握してないが過去最高に食べている。


「もう……開様は普段そこまで量を食べないのに張り切りすぎですよ?

 グレーテさんを呼んできて状態異常回復魔術を使ってもらいますから、大人しく座っててください。」


そう言ってメアリーはグレーテを呼びに行った、状態異常回復魔術は胃もたれや食べ過ぎにも効くのか……本来は冒険者に必要な魔術なのだろうが、村にも十分必要な魔術だな。


しかし寿司は美味しかった……マーメイド族の仕事のおかげで魚の心配はしなくてよくなったし定期的にパーティーをするか普通にメニューに追加したい。


苦しみながら考えてると、グレーテが来てくれて状態異常回復魔術をかけてくれた。


「おぉ、大分お腹がスッキリしたよ。」


「これからは気を付けてくださいね、お寿司は確かに美味しかったですけど。

 あれって村長が前に住んでた世界の料理なんですよね、他には何か無いんですか?」


グレーテがワクワクしながら俺の世界の料理について聞いてくる、無くはないが……次はうどんを作るつもりだったからな。


他にも皆にもっとウケそうなピザとかもあるんだが、まずはキュウビのご褒美を用意しておかないと。


「次はうどんという料理をドワーフ族と作ってみるよ、だがまずは人間領から試しに買ったものが届いてからだな。

 それがないと出汁が取れないから。」


「人間領の調味料、出汁、うどん……知らないものばかりで楽しみ!」


「冒険者をしてるなら人間領に行っているものだとばかり思っていたが、魔族領から出ていないのか?」


「出てないですね、人間領へ渡る手段が無いので。

 お互い連絡船は出し合ってないですし、交易船が来る以外特に交流もありませんから。

 そういえば村長、この間言っていた未開の地の村に冒険者ギルドを建てると言ってた件、設立が前向きに動き出したのでどこか村の場所を譲ってもらえると嬉しいのですが。」


そうだったのか、なら活動は魔族領だけで行われているという事なんだな。


それで仕事が成り立っているのなら、まだまだ未解明の問題もあるだろうし冒険者にはやっぱり夢があるんだな。


それはそれとして。


「この村に冒険者ギルドを作るのはいいが、冒険者の誘致や宿泊施設なんかも必要じゃないのか?」


「魔族領の冒険者では未開の地で生き残るのは並大抵の事では無いので、主に村の冒険者ギルドは戦闘力の練度を上げる方向で動く予定です。

 その実績はスラム街の住民の方々やミハエルさん等で実証されていますので大丈夫かと。

 そしてキュウビさんの地図が完成次第、魔族領と同じような冒険者ギルドの運営をしながら魔物や未踏破のダンジョンの攻略に向かってもらおうと考えていますね。」


最初は冒険者ギルドという建前で、実態は育成機関のようなものか。


それなら冒険者ギルドと宿泊施設を併設すれば問題無いだろう、お金の支払いなんかをどうするかはグレーテに決めてもらうとして。


「魔族領から実力のある冒険者が抜ける問題と、魔族領との連絡はどうやって取るんだ?

 そのあたりがしっかりしてないと魔族領でトラブルがあった時に危ないと思うんだが。」


「鍛錬期間は1つの季節を越えるまで、人数もSランクは2人まで、最大10人までと決めていますので大丈夫です。

 流石にいきなり大人数を見る規模の施設にはしたくないですし、いくら未開の地の村の知名度があると言っても信用しきってない冒険者も少なくないでしょうから。

 連絡は定期便で7日に1度マルチンさんに報告書を送ることにしています、向こうから要請があれば都度動くといった感じでしょうか。」


割としっかり考えられてそうだな、これなら施設を建てても問題無いだろう。


俺が場所を選びに行くぞと言うと、グレーテが「やった、私もちゃんとした仕事が出来る!」と喜んでいた。


グレーテは今まで状態異常回復魔術で住民を助けてくれてたんだから気にしなくていいのに、そもそもその仕事を振ったのは俺なんだから。


鍛錬所と食堂の中間あたりにそこそこなスペースがあったので、冒険者ギルドはここに建てることに決定。


この地で戦える冒険者が増えて、キュウビの地図が完成すれば詳細な探索依頼を俺が出してもいいかもしれないな。


後はキュウビが見つけれなかった住民の誘致とか、いろいろ依頼を考えていると案外便利な施設なんだな……だからこそ魔族領にもあるんだろうが。


冒険者ギルドの建物は今建てるわけじゃないらしく、後日ダークエルフ族に頼んで図面を描いてきてもらうらしい。


どういったものがいいかは建物の作りに詳しい人と、利用する人の声が大事だろうからな。


俺はその足で村の見回りを開始、途中ドワーフ族に小麦と塩の量を聞くと1年は持つくらいあるらしい……そんなに作ったっけな。


とりあえず明日からはうどんの作成に取り掛かるとしよう、似たような材料でピザの生地も作れそうだし一緒に作るとするか。

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