第142話 シュテフィがイザベルに興味を持ったので紹介した。

シュテフィを魔法陣ごと村に移動させた次の日。


村の見回りをしていると見慣れない種族が村をうろついていた、何だこの種族は……俺の知識ではノームっぽいが。


「あ、村長いいところに……私よ、シュテフィ。

 ノームを介して村を見て回っているところなの、のどかでいい村ね。

 ところでお願いがあるんだけど。」


ついこの間まで世界に大打撃を与えようとしていた人物から出る台詞とは到底思えないな、元々そんなに気性は荒くなかったのかもしれないが。


ところでお願いってなんだろうな、この状態で聞けるようなお願いなんて無いと思うんだが。


「内容によるぞ、現状でもある程度外部に干渉出来るのは分かってるし危険なことは聞くことが出来ない。」


一応契約魔術を行使するまで警戒しておかなければな、幻影からでも物理的に干渉出来るのが分かっている以上油断は出来ない。


「復活して何事も無く生きれる環境を自ら手放すほど馬鹿じゃないわよ。

 まぁ少し危険に聞こえるかもしれないけど……私を捕える前に黒魔術に精通した人物が居るはずだわ、その人と話がしたいの。」


イザベルと話がしたいのか、しかし言葉を聞く限り絶対黒魔術について話すよな……本人が前置きをしている通り危険に聞こえる。


そもそもここ最近イザベルは村で見かけないが、まだ滞在しているのだろうか?


「黒魔術の話をするならそのお願いは聞けないぞ、黒魔術に精通してる人物は別の土地の法を無理矢理無視してこの村に来てもらってるからな。

 シュテフィの言った通り危険に聞こえるし、聞いてやることは出来ない。」


「今更黒魔術でどうこうするつもりはないわ、私はその人物に興味があるだけ。

 私が封印される前の時代……今から千年以上は前に黒魔術は衰退の一途を辿っていたのに、この時代に精通しているなんて物凄い事だと思うのよ。

 それに結構な短期間で私の黒魔術を見抜いたと思うから、研究者だと思うのよね……その人にも有益な話を出来ると思うんだけど。」


そう言われて少し心が揺らぐ、イザベルには迷惑をかけたし最終的には俺たちの力で封じる事でやることを無くしてしまったからな。


とりあえずまだ村に居るか確認して、もし居たら本人にどうするか決めてもらおうか。


「その人物が今村に居れば本人に意思を確認する、もし既に帰っていたり本人が拒否したりしたら諦めてくれ。」


「それでいいわよ。」


シュテフィの会話も終わり村の見回りついでにイザベルの所在を確認しないとな、他にもやることはあるが……すぐにやることでもないし大丈夫か。




イザベルが今どうしているか住民に聞いていると、ミハエルの家と食堂を往復しているらしい。


まさかとは思うが……ミハエルの家で黒魔術の研究をしているんじゃないだろうな?


そう思って訪ねてみると案の定だった、ミハエルとイザベルは旧友らしくまんざらでもなさそうだが。


「イザベルに用事があるんだが、呼んでくれないか?」


玄関を開けてくれたミハエルにお願いしてイザベルを呼んでもらう、髪の毛とかボサボサじゃないか……ちゃんと身だしなみは整えたほうがいいぞ。


「何の用かしら、黒魔術の件も根本から解決したって聞いたんだけど。」


「あの黒魔術を展開しようとした本人がイザベルと話がしたいらしい、どうやら黒魔術は千年くらい前に衰退していってたらしくてな。

 今の時代に精通しているイザベルに興味があるみたいだ。」


俺が理由を話すとイザベルの目がキラキラと光り出したのが分かる、これは絶対話すという顔だ。


「道理で文献やらが少なすぎるし古い物ばっかりなわけよ、解読にどれだけ時間がかかったか!

 それを黒魔術が使えて全盛期を知ってるかもしれない人と話せるですって、研究者としてそんな機会逃すはずないでしょ!

 すぐに連れて行って、私も準備してくるから!」


そう言ってイザベルはとんでもないスピードで奥に走っていった、ミハエルから「埃が舞うから走らないでよ!」と怒られている。


あそこまで乗り気なら仕方ないな……念のためオスカーかシモーネに護衛をお願いして話をしてもらうことにするか。


イザベルは数分で支度を終えて早く連れてけとせがむ、護衛を付けることを説明して少し回り道をさせてもらうことに。


道中シモーネが広場でキュウビの影法師と話しているのが見えた、頼んでいた報告をしてくれてるみたいだな。


「シモーネ、キュウビとの話が終わったら声をかけてくれ。

 そこのベンチで座って待っているから。」


「あら村長、もうすぐ終わるから待っててちょうだいね。」


数分後、シモーネがキュウビと話し終えたので事情を説明して護衛についてもらうことに。


ちなみにシュテフィに勝てるかどうか尋ねると「愚問だわ、リムドブルムの妻が夫以外に後れを取るわけないでしょ?」と返された。


夫婦喧嘩ではシモーネが勝つって言ってたしな、もしかしたらオスカーより強いんじゃないだろうか……まさかな。


他愛もない話をしながら歩いているとシュテフィの魔法陣に到着、イザベルにシュテフィを紹介しようと振り向くと姿が無かった。


どこに行ったんだと周りを見渡すと、既に魔法陣の前に椅子を準備して座りながら紙とペンを持っている。


早すぎるだろ、そんなキャラじゃなかったじゃないか。


「あらあら、さすが研究者ね。」


そういうものなのだろうか、何かを研究したことなんてないからよくわからないけど。


シモーネに護衛を任せて俺は見回りの続きをするためこの場を離れる、一応まだ危険人物なんだから注意しておいてくれよ。




見回りをしてる途中に、そういえばこの間村に新しく来たアラクネ族たちは快適に過ごせているだろうかと思い、アラクネ族の居住区を訪ねた。


「あ、村長!

 珍しいね、ここに来るなんて!」


居住区を見て回ってるとティナに出迎えられる、確かにここに足を運ぶ機会はそんなにないかもしれないな……もっと公平に見回らなければ。


「新しく来たアラクネ族の様子が知りたくてな、皆は不自由なくやってるか?」


「うん、前の里より快適だって皆喜んでるよ!

 鍛冶をする人と装飾品加工の人、それに衣服類を作る人と別れて皆仕事もしてるかな?」


アラクネ族は鍛冶も出来るのか、ドワーフ族の鍛冶担当と意気投合しそうだな。


衣服は気になるが、糸に毒があると言われてるので諦めなければならない。


「それならよかった、村のためにも生産を頑張るよう伝えておいてくれ。」


「そういえばアラクネ族の糸に含まれている毒を抜くのに必要な薬草を探してって言われてるんだけど……心当たりないよね?」


そんなこと出来るのか、でもそのあたりは知識が無いからな。


「薬草の名前さえ分かれば他の人に聞いておくけど、分かるか?」


「ハイペリコンっていう草なんだけど、森に生えてる分じゃ足りなくって。

 わざわざ村長に頼むのも気が引けるし……それに大量に必要だから。」


ハイペリコンなら腐るほどある、なんたってポーションの素材だからな。


「倉庫に行けばいくらでもあるぞ、ダンジョンにも生えるようにしてあるから探せばあるはずだ。

 使ったらある程度補充しておいてくれると助かる、俺がポーションを作るのに必要だからな。」


ティナにそう伝えると「そうだったんだ、ありがと!」と倉庫に向かって走っていった。


しかし糸の毒抜きが出来るなら他の種族もアラクネ族の糸で作った衣服が着れるということだよな、丈夫そうだし作業服に便利そうだ。


物を見て普段着とは別に作ってもらおう。




見回りも終わり食事に向かっていると行商と出会った、いつも暖房器具を売ってくれている人とは違うけど。


人間領との関係が気になったので声をかけて尋ねると、徐々に関係は復興しつつあるらしい。


これはオスカーやシモーネを連れて無理矢理話さなくても、魔族領にお願いすればコンタクトを取れるかもしれない。


村も人間領と取引をしたいことを行商に伝える、帰り次第ギュンターに伝えてくれるとのことだ。


これで後俺がやることは穴埋め作業に駆り出されるくらいだな、それまではゆっくり羽を伸ばさせてもらうとするか。

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