第141話 シュテフィを魔法陣ごと村へ持って帰って来た。

シュテフィの反応が無くなって15分ほどしただろうか、今日は帰るかどうか3人で話し合ったがもう少し待ってみようという事に。


幸い食糧は少し多めに持ってきているので足りなくなることはないだろう。


他愛もない世間話やカールとウルスラの話で盛り上がっていると、シュテフィの声が聞こえてきた。


「ちょっと、人が驚きすぎて啞然となっているのに何呑気に世間話してるのよ。」


大分長い時間啞然となっていたんだな、世間話も含めると30分くらい経ってると思うんだが。


「それよりトマーテが本当にいくらでもあるかどうか、この目で見ないと信用出来ないわよ。

 無理矢理復活させて私を殺そうとしてる線も考えれるし、大きめの木箱一杯にトマーテを詰めてまたここに持ってきて見せてほしいの。

 もしそれが出来たら信用してあげる、村のために力を使う事を約束するわ。」


「シュテフィとやら、我らは其方の約束をどう信じればよい?

 お主は仮にも村と世界を危機に陥れようとした悪因子だ、何か楔が無ければ約束を信用することは難しいぞ。」


オスカーがシュテフィの約束を言質だけでなく確実に守らせようと提案する、俺としては言質だけでも良かったが流石に迂闊すぎるか。


しかし確実に約束を守らせるなんて契約魔術しか思いつかない、シュテフィがそんな案に乗ってくれるとは到底思えないぞ……。


「約束と言えば契約魔術でしょ、今は違うの?

 今回は私が悪いし、少々厳しくて罰が重くても文句言わないわ――あまり行き過ぎてると流石に口を出させてもらうけど。

 それと、私が契約魔術を結ぶのはそちらのドラゴン族2人のどちらか、私より強い奴じゃないとプライドが許さないし。」


太古の慣習に助けられるとは思わなかった、シュテフィから契約魔術を薦めてくるとは。


しかしこれで一安心だな、後はオスカーとシモーネがどういう契約を結ぶよう話をするかだが……。


「ふむ、契約魔術なら問題あるまい。

 では<村の不利益になる事をしない、破った場合2時間の耐えがたい激痛>でどうだ?

 何が不利益になるか分からない場合は村長や我ら、それに他の住民に聞くといい。」


「ま、妥当なところでしょうね。

 いいわ、その契約で――じゃあ箱いっぱいのトマーテを待ってるわ。」


この日のシュテフィとの話はこれで終了、村に帰ってトマトで箱をいっぱいにしなきゃな。


今日は休んで明日トマトの収穫と箱詰め、それからシュテフィの所へ持っていくとするか。


その日の夜に封印を解くために満月の月光が丸1日分必要なので月齢を確認……今日は新月なので2週間くらい先の話になるな。




次の日、見回りはメアリーに任せてカタリナと作業開始、1m四方くらいの木箱を作ってその中にどんどんトマトを詰めていく。


20分ほどしてトマトで木箱がいっぱいになった、これシュテフィが食べきれないならカルパッチョ風トマトサラダとかで消費するとしようか。


酒のつまみにもなるしおかずにも最適な前の世界で大好きなメニューの一つ、欠点があるとすればこの季節だと少し体が冷えることくらいだが。


それだけじゃなくてもトマトはいくらでも消費する方法があるから問題無いだろう、さてシュテフィの所へ行ってくる。


オスカーに木箱を持ってもらって再度シュテフィの魔法陣の前へ。


「シュテフィ、約束の木箱いっぱいのトマーテを持ってきたぞ。

 これで俺たちの事は信用してくれるか?」


木箱の蓋を開けて中身を見せる、するとシュテフィは「うわぁ……!」と感嘆の声を上げて喜んでいるようだ。


「すごいすごい、本当にトマーテがたくさんある!

 これなら私が死ぬこともないわ、他の種族を吸血して恨まれて殺される心配もないし!

 いいわ、貴方達を信用するわね――封印を解いて大丈夫よ。」


「封印を解くのはいいんだが、昨日月齢を確認したら新月だったんだよ。

 また来るのが面倒なんで魔法陣の周りをぶち抜いて村まで持って帰りたいんだが……日光や他の月齢の月光に当たるのは大丈夫か?」


もし駄目ならまた満月の前にここに来て村まで持って帰って来ないとダメだ、ここまで来るのに1日くらいはかかるから結構手間なんだよ。


「それは大丈夫だと思うわよ、この魔法陣を解析した時にダメなことなんて無かったし……そもそもこの魔法陣は私の体の封印と同期していて、何者にも破れないのを思い出したのよ。

 だから何をしようが私が封印から解かれるまで魔法陣は崩れないわ。」


「体の封印?」


「何年も魂が抜けた体を放っておいたら老化したり腐ったりしちゃうでしょ?

 だから時空を扱う能力の応用で時を止めてるの、それが魔法陣にも干渉しちゃってるわけ。」


待て、そんなことまで出来るのか。


シュテフィが村に居る限り食べ物の長期間保存が可能になるってことだよな、これは願っても無い能力の効果だぞ。


ますますシュテフィを上手く誘致出来て良かった、これで村の食糧事情が更に盤石な物になるな。


閑話休題。


とりあえず魔法陣は満月の月光以外を浴びても大丈夫だという事なので、当初の計画通りオスカーが周りの地面をぶち抜いて持って帰ることに。


「つくづく思うけど、貴方って規格外過ぎるわよね……。」


「誉め言葉として受け取っておくぞ。」


実際規格外だと思う、その解釈は間違ってないと思うぞ。




村に帰ってシュテフィをどこに置くかで少し揉めた、でかすぎてどこに置いても邪魔なんだよな。


「いいわよ、その辺の隅っこで……。」


シュテフィに気づかわれたので、ほぼ誰も通りかからない防壁の角に置かせてもらう。


満月の日には広場まで移動させて、全員で宴会をしながら復活を見ることになった。


滅多にない村での変わったイベントなので全員乗り気だな、俺もどうやって復活するか気になるので賛成。


「人を酒宴のダシに使わないでよ、というか封印が解けたら私も参加したいんだから2日目も開催してよね!」


「分かったよ、シュテフィの歓迎会もそのまますることにしよう。」


シュテフィも飲みたいだけじゃないか、トマト料理と酒をふんだんに用意しといてもらうからな。


とりあえずこれで穴埋め以外全ての問題が解決した、もう大きなトラブルは起きないでくれよ……これからはずっと平和に過ごさせてほしい。


手も空いたし人間領に顔を出したいな、シュテフィが復活したら挨拶に行ってマーメイド族や他の仕事もあればもらいたい。


ただ取引するだけじゃいい物を取引に出してもらえなさそうだからな、それに人間領にもお金を出せば巡り巡って魔族領の経済も回すかもしれないし。


今はそこまで取引をしてないと言っていたが、儲け話に敏感な商人が今までの客をそのままにしておくとも思えないからな。


そのあたりは商人を期待だ、俺は俺で人間領と取引をさせてもらおう……オスカーやシモーネを連れて行けば以前の闇討ちの件で立場が上の人と話をする機会が作れそうだし。


っと、人間領で思い出した。


キュウビにも異形の者の脅威は無くなったと報告しておかないと、後でシモーネに頼んで報告しといてもらうか。


平和は平和でやることはたくさんあるな、やることが何もないより充実してて楽しいからいいけど。


他にもやることがないか考えながら、ここ最近出来てなかった村の見回りへ向かった。

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