第140話 シュテフィを村に誘致するために話をしに向かった。
シュテフィの騒動も恐らくひと段落し、調査部隊も村に帰って来た。
各々起きた事を報告し合って、シュテフィの魂はノームから抜けて魔法陣へ還ったのも確認出来たらしい。
これで村と世界の危機はひと段落、後は世界に空いた穴を埋めるため資材準備部隊はしばらく世界中を回って土と岩を準備するらしい。
ミハエルも転移魔術のために参加する、まぁずっと村に帰って来れないのは寂しいだろうからな。
「ふと思ったんだが、クズノハの魔術刻紙で転移魔術を他の人が使うことは出来ないのか?」
「出来なくはないと思うけど……転移魔術に限らず魔法陣って通常描いてる時から魔術を使ってるのよ、この前のシュテフィの黒魔術は例外として。
だからまず魔法陣を完璧に記憶するところからスタートね、効果時間内に描けなきゃやり直しだし。」
そうだったのか、簡単そうに頼んでたが結構手間がかかってるんだな。
「それに転移魔術は魔族領の王家の秘術だし、頼まれても魔術刻紙へ使えるようにはしないわよ?
絶縁したわけじゃないし、一応王家の娘としての自覚もあるんだから。」
「確かにそうだったな、それなら仕方ない。」
軽率な質問だったかもしれない、散々秘術だと言われてきたがそうだとういう認識が甘かったな。
元々反則みたいな魔術だし、本当に必要な時以外は使わないようにしなければいけない……今回は必要という事で。
それからシュテフィの処遇について話し合いが行われた、大多数の意見はさっさと魔法陣を消してシュテフィの復活を阻止するべきだという意見。
実際世界を危機に陥れかけているのでその判断は妥当だとは思う、だが俺はシュテフィの能力が欲しい。
俺の世界にも干渉出来るなら加工食品の原材料を調べることが出来る、それをこの世界で再現出来たら食事の革命が起こせるからな。
ケチャップとかマヨネーズとか……ある程度分かっていても細かい原材料なんて覚えてないものもある。
後はお酒だな、今はビールとワイン、それに果実酒が主だった種類だが……他に増えると嬉しい。
だがシュテフィが危険なのも間違いない、どうしたら皆を納得させて村に誘致出来るか……。
「でもシュテフィさんって危険なことした割に、普通に暮らせばいいようなことが願いだったですよね?
誰彼構わず吸血されるのは困るですが、それ以外は私たちと変わらない生活を欲してたように思うです。」
話し合っている最中にラウラから助け舟とも取れる意見が出てきた、これに上手く乗っかることが出来たら納得させれるかもしれない。
「確かにそうだったな、吸血さえ自制させれれば村に誘致しても問題無いくらいだ。
別世界に干渉出来るということは俺の世界にも干渉出来るかもしれない、この村にない調味料や酒も原材料が分かれば再現出来るかもな。」
ラウラと俺の意見を聞いて、話し合いに参加している全員が悩み始めた。
ふっふっふ、皆が食と酒に弱い事なんて1年以上一緒に居れば把握しきっている――悩んでくれたならつけいる隙は充分あるぞ。
「村長、それ最初から思ってたんじゃない?」
シモーネに即座にツッコまれた、そんな察しが良くなくてもいいのにな。
「思ってなかったと言えば嘘になる、だが便利な能力なのは確かだろ?
村にプラスになるなら、シュテフィを上手く説得して誘致したほうが間違いなく得策だ。」
とりあえずそれっぽい事を言っておく、決して嘘を言っているわけじゃない。
「まぁ確かに……戦力で抑え込むことは可能なのが分かったから誘致しても大丈夫と言えば大丈夫だけど。
問題は吸血よね、魔物でもいいなら好きなだけ吸ってもらっていいんだけど。
種族を増やすだけなら性交でもいいって言ってたし、村の男性陣とウマが合えば産んでもらえばいいんじゃない?」
シモーネがものすごい意見を出してきた、だがそれで解決するなら誘致しても問題無いかもしれない。
「だが奴を開放するには満月の月光を丸1日分当てないとダメなのだろう、それはどうするのだ?」
「あなたの馬鹿力で魔法陣の周りを抉って外まで持っていけばいいでしょ。」
「なるほど、それもそうか。」
それでいいのか、究極の力技だな。
「だがとりあえず話を聞いてからだな、吸血の抑制が無理なら最初の話の通りシュテフィの存在を消す方向で。
魔法陣を消そうとして慌てていたし、対処自体は簡単だろう……近いうちに話を聞きに行ってみる。」
シュテフィともう一度話して今後の方針を決めようという事でその日は解散、食堂の外に出るとほくほく顔のマーメイド族とケンタウロス族が待っていた。
荷馬車に大量の魚を入れている、今日は魚尽くしだな。
話し合いから2日後、オスカーとシモーネと俺でシュテフィへ再度話を聞きに行くことに。
「寝てると言ったが起こせるのかな……概念だけの存在ってどうやって起こせばいいんだ。」
「ノームが居たから力を借りれば起こしてくれるかもしれんな、ワシらの願いを聞くかどうか分からんが……。」
まぁ何とかなるだろう、そんな気がする。
楽観的な気分のままシュテフィが居る場所へ到着、瘴気が出ていると聞いていたから不安だったがオスカーが能力で防いでくれているらしい。
炎を扱う能力だと思ったんだが、そんなことも出来るんだな。
「シュテフィ、起きてるか?」
「あら、案外早い訪問だったのね。
寝付けなくてずっと起きてたわ。」
もしかして寝れないんじゃないだろうか、概念だけの存在だし。
「ちょっと話がある、聞いてくれないだろうか?」
「私も聞きたいことがあるからいいわよ、他に何が知りたいのかしら?」
「封印を解いて俺が村長をしている村に来ないかと言ったらどうする?
前に言ってた食事と酒は提供出来る、条件は時空を超えて干渉する能力を村のために使ってもらうのと、有事の際の戦力になってくれればそれでいい。
吸血はその辺の魔物でいいならいくらでも、とのことだ……理性ある者への吸血は遠慮してほしい、ただし性交で子孫を増やす分には何も問題はないぞ。」
とりあえず村の話し合いで出た条件を提示してみる、さてどういう反応をするか。
「はぁ!?
そこのリムドブルムじゃなくて人間のあんたが村を治めてるですって、どういうことなのよそれ!?」
実力差を考えればそうなるよな、誰だってそう言うと思う――納得させるために、これまでの事の経緯や俺の事をシュテフィに説明した。
「何となく分かったかな、きちんと整理しきれてはないけどあんたが谷を一瞬で埋めてたのは事実だし納得はしたわ。
私の知りたいことはそれだったしもう大丈夫、それであんたへの返事だけど……お断りさせていただくことにする。」
「理由を聞いていいか?」
「吸血鬼の吸血は種族を増やすためだけじゃないのよ、知恵ある者から生きる力を貰うためにする行為でもあるの。
それは魔物から吸血しても得れないものよ、多分食べている物の違いでしょうね……その代わりになる植物もあるんだけど滅多に存在しないものだから。
食事や酒はあくまで嗜好品なのよ、吸血がメインの食事――それが出来ないなら私は生きていけないから。」
やりたい事を聞いて食事や酒と答えたのはそういう事だったのか、生きるための当たり前の行為だから少しおかしいとは思っていた。
だが理由があるなら仕方ない……しかし一つ気になることがある。
「その代わりになる植物って名前とかどんな物かとか分かるか?
探し出して村で栽培すれば村に来てくれるという認識でいるんだが。」
「植物の名前はトマーテ、山のどこかに自生しているのを探すしかなかったものだし氷の季節には枯れてしまっているから次を探すのが非常に苦労するわ。
当時吸血鬼一族が躍起になってもほとんど見つけれなかったし、かなりの年月が経って存在しているかどうかも怪しいわ。
一応特徴としては、食べごろには赤い実が成る植物で瑞々しくて……それでいて少し酸味があるわね。」
どう聞いてもトマトだった、ちなみに村で普通に食べられているし
「あら、トマーテなら村にいくらでもあるわよ?」
シモーネがツッコんだ、もっともったいぶっても良かった気もするけど。
「何ですって、トマーテがいくらでもあるってどういう事よ!?」
「そのままの意味だ、普通に村で収穫しているから住民皆で食している。
もちろんシュテフィが必要な分は、プラスで収穫することも可能だ。」
俺がシュテフィにそう伝えると黙ってしまった……ビックリしすぎたのだろうか?
数分待っても反応が無いので、俺たち3人はシュテフィから反応があるまで待つことにした……概念だけの存在で気絶しないでくれよ……。
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