第139話 別視点幕間:シュテフィの過去と現在。

私はシュテフィ、もう私自身何年前か忘れたくらい遥か昔に力ある者達に封印された吸血鬼。


当時は私に敵う奴なんて居なかったんだけど、小賢しい知恵と私を倒すためだけに作られた道具や武器で後れを取ってしまったわ。


そこまでやっても私を殺せず封印しか出来なかったのは滑稽だけど、甚大な被害を出した憎き相手の仇を取れないなんて哀れよね。


それに私の体と魂を分離してくれたんだもの、時空を扱う能力の応用で体の時間を止めて老化と腐敗を防ぎ封印を甘んじて受け入れた。


永久に何かを封じるなんて不可能……それも私のような実力者なら尚更よ、概念だけの存在になってるし魔法陣の経年劣化で封印が解けるのを待つとしましょうか。


――それからどれだけ時間が経っても封印が解けることはない、どういうことかしら?


体感的にもう千年くらい経ったと思うんだけど、そんなに魔法陣が劣化しないなんてことある?


何もしなくてもいいと思ってたからしてなかったけど、流石に何か行動を起こさないとずっとこのままの可能性もあるわよね……少し調べようかしら。




色々解析をした結果魔法陣は一切劣化していない、何故か。


私の体が真下にあって時間を止めてる効果が魔法陣にも干渉してるからよ、完全に誤算だわ……どうしようかしらこれ。


それなら直接封印を解けばいいと思っても、この魔法陣満月の月光を丸1日浴びせないとダメとか……なんでこんな地下に封印したのか疑問だったけどそういう事だったのね!


私が概念だけの存在になってもある程度外部に干渉出来るのを見通していたわけだ、あいつら本当に小賢しい……。


でもなってしまったものは仕方ない、魔法陣の劣化が期待できない以上封印を解く方向で動かないと一生このままだわ。


大分時間が経ったけど、まだノームとの主従関係って生きているのかしら……封印される前にたまたま見かけて従えていたのよね。


『ノーム、貴方達の主シュテフィよ。

 聞こえているなら私の声に答えなさい。』


ノームは地を司る精霊なので地下に居る以上非常に役立つ、主従関係を結んでおいてよかったわ……あ、返事があった。


『我らが主シュテフィ様、如何なされましたでしょうか。』


『私は今地下に封印されているわ、場所を特定してそこから地上を監視するための通路を掘りなさい、私の自由のために。』


『承知しました、一両日中にシュテフィ様の願いを全て完遂します。

 ……して、対価はどう支払われますでしょうか?』


これがノームとの主従関係で一番面倒なところだ、願いは全面的に受け入れてくれるが対価が無いと満足に動いてくれない。


幸い魔力とかで充分なので助かる、概念だけの存在になっても外部に魔力を送ることくらいは出来るから。


『いつも通り魔力を貴方達に送るわ。』


『承知しました、では今から行動を開始いたします。』


報酬さえ払えば従順に働くからいい精霊よね、まぁノームも魔力の供給が無ければ消滅してしまう存在だし……空気中にある魔力でも大丈夫だろうけど余剰分の魔力があると安心するのでしょう。


それからしばらくしてノームから報告を受ける、ここはドラゴン族が住む里のほぼ真下らしい……厄介な種族が真上に住んでるものね。


下位のドラゴン族なら私でも何とかなるんでしょうけど、上位のドラゴン族になると少し危ないかもしれない……これはまず戦力を散り散りにしつつ地上をえぐり取る必要がありそうだわ。


『ノーム、ドラゴン族の監視と定期報告、そして私が指定する場所に地上まで続く大穴を開けることをお願いするわ。

 それと貴方たちで一番魔力が高い者を一人貸してほしいの、大丈夫かしら?』


初めてこのようなお願いをする、精霊が一個体を契約者に貸し出すことなんてしてくれるのかしら……。


『報酬の上乗せがあれば可能です、大丈夫ですか?』


言ってみるものだ、もちろん大丈夫だと返事をしてノームの一個体を魔法陣の前に連れて来てもらう。


『今から私は貴方に干渉して私の能力を発動できるようにするわ、しばらくはそうなるだろうけど我慢してちょうだい。』


『仰せのままに。』


従順だと感心しつつ同時に感謝をする、これで黒魔術を展開しつつ地上に異世界の魔物を送り込んで戦力を分散することが出来るから。


それから指定した場所に穴が空いた報告を受け異世界の魔物を送り込む、そしてドラゴン族に動きがあったと報告を受けて一番近くの穴から徐々に魔法陣を描くため谷を生成するように指示した。


これで後は報告を聞いて魔物を送り込みつつ魔法陣が完成するのを待つだけ、私の復活も遠くないわね。


そう思って何年か経った頃、ノームから信じられない報告が入った。


『シュテフィ様、ドラゴン族が里から姿を消しました。』


ドラゴン族が居住場所を変えるなんてよっぽどの事……何か悪い予兆かと思ったけど特に何も感じることは出来ない。


だがこれは同時にチャンスでもある、今のうちにどんどん魔物を送り込んで邪魔する者を消しておかないとね!


でもこの別時空の魔物を召喚するのってかなり高コストなのよね……そこまで大量に呼べないのがネックだけどそんな簡単に討伐されないのが救い。


今まで送ったのは討伐されているかもしれないけど、被害は少なからず与えているだろうから計画通りよ。


私の計画は順調に進んでいる、このまま行けば数十年後には復活できるだろう……そう考えていた。




そしてつい先日。


『シュテフィ様、ノームが通る通路に複数の侵入者が確認出来ました。

 ドラゴン族、ウェアウルフ族、エルフ族の混成部隊かと。』


とんでもない報告が私の耳に飛び込んできた、ノームの通路を見つけるという事は並大抵の事ではない……つまり何かがあると確信して地上を調査したということ。


これは厄介ね、ひと悶着ありそうだわ――でも私だって外部に干渉出来るからひと捻りにしてやるわ。


『シュテフィ様、生成してる谷の近くに土と岩が準備されていたのですが……その周りにドラゴン族とウェアウルフ族、それに人間が集まっています。』


侵入から少しして別の報告が入る、あぁもうどうしてこんな一気に厄介ごとが舞い降りてくるのかしら。


でもドラゴン族とウェアウルフ族は共通している、この2種族は繋がってると見ていいわね……別目的があって部隊を分けているのかしら?


それに土と岩を準備しているですって、まさかこのとんでもない深さの谷を埋め立てるつもりなの?


おつむが足りないわね、まずはそちらを笑いに行ってあげましょう。


そう思って幻影を地上に送り込んで観察すると、人間が魔術を使用して谷を一気に埋め立てた。


……待って、この人間何をしたの?


脅威に思った私は反射的に魔術で攻撃をしていた、ウェアウルフ族とドラゴン族に防がれたけど。


まったく……とんでもない隠し玉があったものよね、しかしこの黒魔術の展開を読まれるなんて思っていなかったわ。


私が生きていた時から徐々に衰退の道を歩んでた技術なのに、よく見破ったわね。


『シュテフィ様、侵入者が近くまで来ております。』


ノームから新たな報告を受けて、とりあえず捨て台詞を吐いて地上の幻影は退散。


ドラゴン族が居るならある程度本気にならないと勝てないだろうし、もとより負けるつもりはないけど。


侵入者が魔法陣まで到着、ノームの個体を通じて戦闘を開始。


結果は秒殺、何あの強さ馬鹿じゃないの……というかリムドブルムよねあれ、勝てるわけないでしょ。


降参して魔法陣を確保され、地上の様子を見ると更に谷が埋め立てられてた……もうこれはこの時代の種族に完敗ね。


地上で色々質問されたので答えていると魔法陣を消されそうになる、私消えちゃうから消さないでよ!?


でも時が止まってるから干渉できないのよね、慌てた私が馬鹿みたい。


とにかくこの種族が生きてる間は何もする気が起きないので寝ると伝えた、何かしたいかと聞かれたけど……吸血鬼として普通に生活したいと思っている自分に少しびっくり。


封印される前は全世界を支配したいとか思ってたけど、敵しか生まれないし疲れるしあんまりメリット無いことに気付いたのよね。


まぁいいわ、侵入者も地上の人間も帰っていったしひと眠りさせてもらいましょ。


しかしあの人間は何だったのかしら、あんな魔術は知らないわね……また話す機会があれば教えてもらうとしましょうか。

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