第138話 谷と穴を埋めていたら、とんでもない存在が出現した。
村の住民たちに守られながら土と岩を見て、谷を数十メートル埋め立てる事を想像する……よし、光るな。
視界に入る範囲は無事埋め立てれてるようだな、谷が無くなって地面が出来ている。
「村長、成功ですね!」
「あぁ、皆も資材集めを頑張ってくれてありがとう。
まだ視界に入る範囲しか出来てないが先端から結構な距離を塞げたから、黒魔術の発動もかなり遅延しただろう。
向こう側にも資材は運んでいるんだろ、さっさと済ませて村に帰ろう。」
そう言ってドラゴン族に乗せてもらおうとしていると、突如ウェアウルフ族の叫び声が聞こえた。
「村長、危ない!」
その声が聞こえると同時にウェアウルフ族に突き飛ばされ、俺は地面へ転げ落ちた。
何が起きたんだ!?
ウェアウルフ族を見ると防御態勢を取っているが、何者かからの攻撃はドラゴン族が翼で防いでくれて無事だった……良かった。
ドラゴン族の翼ってやっぱり頑丈なんだな。
「チッ、途方もない埋め立てを笑いに来たらとんでもない魔術使いが居たものね。
おかげで計画が台無しじゃない。」
「何者だ!」
ウェアウルフ族が空に浮かぶ何者かに向かって叫んだ、それは俺も気になるところだ。
「貴方たちに名乗る義務はないわ、それより私の黒魔術をよくも遅延させてくれたわね。
まったく、地下に誰かも乗り込んで来たみたいだし……後でまとめて始末してあげるから首を洗って待ってなさい。」
そう言って空に浮かんでいた誰かは一瞬にして消えた、一体何だったのだろうか。
「あれは恐らく幻影ですね、今回起きている騒動の元凶と見て間違いないでしょう。」
「そうだろうな、しかしあそこまで明確に敵意を示されたのは生まれて初めてだ。
地上に恨みがあるか、すべてが憎いのか……もしくは何かに操られているかだろうか。
それよりこの面子を見てまとめて始末するという事は、相当な実力者だろう……地下調査部隊が心配になって来たな。」
「オスカー様とシモーネ様が居ます、万に一つも負けは無いでしょう。
私たちは私たちの成せることをして、この騒動を収めるべきではないかと進言します。」
調査部隊は村の精鋭を寄せ集めたようなものだし負けないと信じよう――今はこのドラゴン族の言う通り俺たちに出来ることをしなければならない。
「そうだな、じゃあ残りの谷も埋めれる限り埋めてしまおう。
こちらに邪魔が入らないうちに敵の目的を封じ込めてしまうのが一番だ。」
俺がそう言うと皆が賛同し移動が始まった、先ほどの襲撃を警戒して俺の周りを360度囲むようにドラゴン族が囲って飛んでいる。
そこまでしなくてもいいとは思うが、実際この中で俺が一番戦闘も守りも出来ないだろうし仕方ないな。
負担をかけてしまって済まない、と思いながら次の目的地へ進んだ。
結論から言うと谷のすべてに土と岩が置かれている、一部だと思ったんだが全部埋めるように準備してたんだな。
先端の谷の生成が進んでなくて良かったよ、そう思うと件の穴が谷の先端に見えた。
メアリーとイザベルの読みは当たっていたわけだ、これでますますこの問題が無視出来なくなったな。
「村長、一応穴を塞ぐ分の資材も用意しているのですが……塞げるでしょうか?」
「問題無いよ、ポーションも持ってきてるし魔力は満タンだ。
体の疲れも無いしすぐにでも埋めるよ。」
ドラゴン族から不安がられたが、移動中にポーションを飲んだので俺の体調はすこぶる快調だ。
さっき埋めたのと同じ要領で
「よし、これで準備した分の谷と穴は埋め終わったな。
さっき未知の存在に襲撃もされたし、さっさと退却しよう――村も心配だし早く帰りたい。」
「そうはいかないわよ、まったく……地下の連中を相手にしてたら一気にここまで塞がれるなんて――とんだ誤算だわ。」
俺が帰ろうと言った次の瞬間、先ほど襲撃してきた人物の声がした。
「お前の目的は一体なんだ、ここまで失敗したなら目論見は失敗したようなものだろう。
いい加減諦めてこんなことはやめたらどうだ。」
一応説得してみる、完全な敵意を見せられているし無駄だろうが……。
「ふん、そんなことするわけないでしょ――って言いたいんだけど。
何なのあの地下の連中、強すぎてどうにもこうにも出来ないわよ……私の存在を定義している魔法陣も確保されたし、降参だわ。」
良かった、地下調査部隊は無事に事を収めれたみたいだな……だがこいつの言葉を鵜吞みにするのも危ない気がするが。
「一体お前は何者で、どうしてこんなことをしたんだ?」
本当に降参したなら一度跳ねのけたこの問いに答えると思ってもう一度質問してみた。
オスカーとシモーネ達は負けてない、こいつの言葉が真実だと信じて。
「私はシュテフィ、遥か昔に封じられた吸血鬼よ。
ノームを従えていたから地下で魔法陣を守るように命じて、ノームで一番魔力の高い娘を通じて外界に干渉しているわ……あ、やめて魔法陣を消さないで!
今あなたたちの仲間であろう人物としゃべってるんだから!」
地下の部隊が干渉している何かと同期しているのだろうか、真剣な顔をして喋ってたのに慌てた表情に切り替わってちょっと面白かった。
「しかしまずは自身の封印を解くのが先なんじゃないか?
なんで地上にダメージを与える黒魔術なんか展開しようとしてたんだ……それにあのギガースやコカトリスなんかの異形の者はどこから出現させていた?」
最初の問いに答えてくれたのでそのまま疑問をぶつけてみる、今の話では異形の者は従えていない……その原因も潰さなければ完全な解決とは言えないからな。
「まったく、今の時代に生きてる者は質問が好きなのかしら?
いいわ、負けは負けだし答えてあげる……まず地上の侵略は封印を解くのに直結しているのよ。
この魔法陣に満月の月光を丸1日分浴びせないと封印は解けないから、ついでに私の邪魔をするのを防ぐために広範囲で破壊しようとしたんだけどそれが仇になったようね。
次にあなたたちが言ってる魔物は別世界の魔物よ、私は吸血鬼であると同時に時空を超えて何かに干渉する力があるから、それを使ったのよ。」
おいおい……随分とスケールのでかい話をしてくれたものだ、別時空に干渉出来るだって?
――そんな便利そうな能力、是非村に欲しいじゃないか。
だが今それを話しても絶っっっ対に他の住民から反対されるので、喉まで出かけた勧誘の言葉を飲み込む、まずはシュテフィの対応からだ。
「シュテフィは今後どうするつもりだ?
また封印を解くつもりならこの戦力以上で相手になるが。」
「私は封印されてる以上概念だけの存在よ、貴方たちが寿命を迎えて死に絶えてからもう一度挑戦させてもらうわ。
顕現すれば魔法陣の下に厳重に保存してある肉体に戻るし、今は負けてもあなた達が居ない未来で勝たせてもらうから。」
なるほど、放っておいても俺たちの子孫に影響か出るわけか……だがしばらくは大人しくなるんだろうな。
改めて皆で話し合って対応を決めるべきだろう。
「ちなみに、シュテフィは顕現したら何をやりたいんだ?」
「変なことを聞くのね、色々やりたいわよ?
食事にお酒に吸血に……吸血鬼が今の時代に生き残っているか分からないけど同胞も増やしていきたいわね。
性交をして産むことも出来るけど、吸血のほうが種族を選ばなくて手っ取り早いから。
そう言われると昔ほど悪事を働くつもりはないわね……ただ普通に生きたいだけかしら?」
吸血以外は概ね普通の生活をしたいだけか、村を見せればシュテフィから折れてくれる可能性があるかもしれないな。
「わかった、とりあえず質問はこれだけだな。
俺たちが生きている間はもう封印を解くなんて真似しようとするんじゃないぞ。」
「はいはい、分かったわよ……。
あなたたちの仲間も帰りたそうだし、200年くらい寝ることにするわ。」
寝る時間がおかしい、だが吸血鬼って長寿なイメージだし普通なのかもしれないな……というか概念だけの存在なのに寝るのか。
「これで終わりですかね、しかしあの言葉を信じていいんでしょうか?」
緊張が解けたのか、少し安心した声でウェアウルフ族が話しかけてくる。
「とりあえず信じるしかないだろ、攻撃もしてこなかったし魔法陣を消されかけた反応が演技とも思えない。
とりあえず異形の者も発生しないだろうし、ちょくちょく準備を進めて穴を塞げば大丈夫だろう。
一気に情報が飛び込んできて疲れたよ、皆も村に帰って休むぞ。」
地上で出来る全ての対応が終わった俺たちは村に向かって飛び立った、さて……どうやってシュテフィを村に誘致する説得をしたものかな。
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