第137話 谷を埋める準備が整ったので出発した。

「村長、目分量ではありますが谷を埋めるための土と岩の準備が完了しました。」


カールと見回りをしているとドラゴン族から声をかけられた、あの話し合いから着々と準備を進めてくれていたので思ったより早く準備が終わったみたいだ。


「分かった、まだ日も高いし今日のうちに出発して済ませてしまおう。

 部隊編成は問題無いだろうか?」


「すぐにでも出発出来る……と言いたいのですがお昼を食べてからでも問題無いでしょうか?

 力仕事が多くお腹を空かせている者が多いので、私もその一人ですが……。」


「それはもちろん大丈夫だぞ、それなら俺も腹ごしらえをして準備をするよ。

 食事が終わり次第広場に集合ということで。」


そう言ってドラゴン族と別れる、やっと黒魔術発動の遅延行動に移れるな。


村の危機だけでなく世界の危機だからな、早めに解決しておきたい問題ではあるから内心焦っていたが……魔法陣の完成には年単位で時間がかかるらしいから慌てることもなかったんだけど。


しかしどれくらいの土と岩が運ばれたんだろうな、村の住民はこういう事でやりすぎる節があるから不安ではある……まぁ地下世界まで空いてる谷だし多いに越したことはないんだろうが。


見回りもひと段落ついていたのでカールを連れて家に帰り、妻たちに今日谷の一部を埋めることを伝えて食事へ。


食堂には資材運搬や俺の護衛に付くであろうドラゴン族やウェアウルフ族が揃って食事をしている、全員じゃないにしてもかなり多いんじゃないだろうか。


「ここに居る全員が今日谷に向かうのか?」


少し疑問に思ったので席が隣になったウェアウルフ族に聞いてみる、明らかに過剰だと思うし村が手薄になりすぎると思うんだよな。


「えぇ、それにここにいる以外にも村長の護衛に回る住民は居ますよ?

 メアリーさんから村長の安全が第一だと念を押されてますから。」


「しかし、これだと村の護衛が手薄にならないか?

 地下世界の調査部隊も含めると、かなりの戦闘要員が村から抜けると思うんだが。」


「大丈夫ですよ、ウーテさんとクルトさんも居ますし。

 それにグレーテさんとマーメイド族が要石を使って魔術障壁を展開してくれるらしいので。

 ミハエルさんとグレーテさんの魔力が物凄いので、その辺の魔物じゃ手も足も出ないくらいの魔術障壁が作れると聞きましたよ。」


そういえばマーメイド族が村に来た時にそんなものを持ってきていたな、あの時は村の戦力なら必要ないと思ったがこんなところで役に立つとは。


オスカーの意見を聞いて要らないなんて思って済まなかった、ものすごい役に立ってるぞ。


というかミハエルは身体能力だけでなく魔力も成長してるんだな、一体どういう訓練をしているんだろう……ちらっとみた感じそんなに見た目は変わらないのに。


とりあえず村の防衛は安心していいという事なのでこの部隊で出発することにする、不安は不安なのでさっさと終わらせて早く帰ろう。




食事を終えて谷に向かう準備……と言っても魔力量が上昇する装飾品とポーションくらいのものだが。


一応ポーションは複数個持っていこうか、もしかしたら何回かに分けて想像錬金術イマジンアルケミーを使うことになるかもしれないし……誰かがケガをする可能性だってある。


準備を終えて広場へ向かうと部隊のほとんどが既に集合していた、待たせたようで済まない。


「村長、部隊の集合が完了しました。

 いつでも谷へ向かって出発出来ます。」


「よし、それじゃあ早速出発しよう。

 いくら魔術障壁があるとは言っても長い事村を手薄にするのは得策じゃないからな、さくっと終わらせて帰ってこよう。」


「「「「「わかりました!」」」」」


資材は既に運び終えているらしいので俺とウェアウルフ族がドラゴン族の背中に乗れば準備完了だ、ドラゴン族は飛び立って早々ものすごいスピードで飛んで谷へ向かっていく。


振り落とされる、怖い怖い怖い!


「村長、手綱を持ってください!」


同乗していたウェアウルフ族に言われて手綱を必死に握る、それでも物凄いGが体にかかるので耐えるので精一杯だ。


ウェアウルフ族が視界に入ったが、片手で手綱を持って俺の背中をもう片方の腕で支えてくれている……どういう力をしているんだろう。


飛ばした甲斐あってか、30分くらいで谷へ到着……転落死するかと思った。


「村長すみません……まさか振り落とされそうになるとは。」


あのスピードは一般人には到底耐えれないからな、今後は乗せてる人を考えてスピードを出してほしい。


村を長い事手薄にするのは良くないと言ったから急いでくれたんだろうし責めないけどな。


そして谷を見ると向こう側に壁のように積み上げられた土と岩が見えた……やっぱり集め過ぎてるじゃないか。


表面を埋めるだけならこんなに要らないだろうし、目に入る範囲の谷全てにこの土と岩が配備されている。


そりゃ準備に結構な時間がかかるわけだよ……。


「村長、足りなかったでしょうか……?」


項垂れてる俺を見て心配になったと思われるドラゴン族が声をかけてくる、違うぞ?


「いや、土と岩が多すぎると思ってな。

 表面だけでいいときちんと伝えてなかった俺が悪いんだけど。」


「いえ、それは聞いておりましたがある程度の深さは埋めないと崩れてしまうと思いまして。

 もし崩れるとこの行動も無意味になる上、地下世界の調査部隊に危害が及ぶと判断して多めに集めたのです。」


なるほど、そういう事だったのか。


確かに数十センチ埋めた程度じゃ雨や誰かが通ったので崩れるだろうし、調査部隊も確かに危ない。


余裕を持って数十メートル以上は埋める必要があるのか、それならこの量も納得だ。


「すまん、そういうことなら問題無い。

 早速想像錬金術イマジンアルケミーで埋めてしまおうか、大丈夫だとは思うが周囲の警戒を頼むぞ。」


「お任せください!」


ドラゴン族の一部は空の哨戒、後は俺の近くで魔物が襲ってこないか八方を見張ってくれている。


厳重過ぎる守りだが俺の戦闘力は皆無なのでありがたい……じゃあ早速見える範囲を想像錬金術イマジンアルケミーで埋めるとしようか。

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