第136話 谷を埋める準備はまだなので、俺の仕事を全うする。

部隊が地下の調査に向かって1週間、食糧を通路口に補給しにいってるドラゴン族からは2日に1回無くなっているので無事だろうとのこと。


調査部隊にケンタウロス族を編成したのは正解だったのだろう、地上の移動としては最高速度を出せるからな。


それに今回はタイガとレオも地下の調査に加わっている、これで万が一にも負けは無いだろうとオスカーが言っていた。


高いところが怖かったのか、大きめの籠に入ってドラゴン族が空を飛ぶと悲痛な鳴き声が聞こえて可哀想だったが……頑張ってくれ。


トラは村の子どもたちと一番仲がいいのでお留守番、他の2匹が居なくて少し寂しそうだが……おやつを少し多めにあげるから耐えてほしい。


土と岩はかなりの量が集まって最初に埋めるための谷へ随時運んでいるとのこと、準備が着々と進んでいるようで良かった。


しかし地下の調査に行ってるならウーテの吐き戻しがやばいんじゃないかと疑問に思ったが、クルトが付いていって炎で蒸発させているらしい。


能力の暴走を蒸発させれるクルトもだいぶ規格外だよな、ドラゴン族を他の種族と比べるのがおかしいんだろうけど。


皆から色々話を聞きながら見回りをしていると、結構な勢いで誰かがこちらに向かって走ってきている。


「村長っっ!

 ちょっとこちらへ来るのじゃ!」


こちらに向かってきているのはクズノハだった、勢いそのままに俺はクズノハに担がれて誰も居ない場所まで拉致された。


クズノハってこんなに力あったんだな、知らなかったよ。


「村長は魔王が我に抱いていた気持ちを知っておったのか!?」


「あぁ、知っていたよ。

 けどそれを俺が伝えるのは筋じゃないだろ、魔王の口から直接クズノハへ伝えるべきだと考えたんだ。」


どうやら魔王は無事クズノハへ気持ちと伝えれたらしい、良かったな。


「魔王が村長に伝えておったがと言って我は余計挙動不審になってしまったのじゃ……恥ずかしい。

 しかし……どうすればいいのじゃぁ……。」


「魔王は気持ちを伝えてきたんだろ、ならクズノハもきちんと気持ちを伝えればいい。

 村の関係とかは気にしなくていいさ、そこを何とかするのは俺の仕事だ。

 返事を保留にしたなら尚更しっかり考えてやってほしい、魔王という立場を背負ってクズノハへ思いを伝えるのは並大抵の決心じゃないと思うぞ。」


村の関係は少し不安だが、実際俺の仕事なのでクズノハが悩む理由にはしてほしくない。


「し、しかし……我は妖狐一族ぞ?

 魔王の正妻となるなら魔族を産まねばならぬ……じゃが我が産むのは妖狐一族じゃ。

 とてもじゃないが魔族領から歓迎されるとは思えぬのじゃよ……。」


「政治的な考えをするとそうなるだろうが、魔王がそのことを分かってないはずがないだろう。

 何か考えがあると俺は推測する、その考えが何かまでは流石に分からないけどな。」


だが、クズノハがそういう考えをするという事はまんざらでもないのかもしれない――脈がありそうだぞ魔王。


「うむぅ……もう少し考えてみるのじゃ。

 すまぬの村長、勢いでこんなとこまで連れてきて話を聞いてもらって。」


「構わないよ、しっかり悩んでクズノハの気持ちを伝えてやってくれ。

 俺で良ければまた相談に乗るから。」


クズノハは「うむ、ありがとうなのじゃ。」と言って家に向かっていった、落ち着いたようでよかった。


俺も見回りの続きをしなきゃな。




見回りもひと段落ついたので食堂で休憩、暖房器具が設置されてから一気に過ごしやすくなったな。


温かいところで冷えたビールを飲んで……炬燵があればもっといいんだがこれはこれで充分な贅沢だろう。


炬燵をなんとかして再現出来ないだろうか……何か使えそうな技術や素材は無いか考えていると「お、村長こちらでしたか。」と俺を呼ぶ声がした。


振り返ると行商が俺に向かって会釈をしている、声をかけて来たということはマーメイド族の仕事の日取りが決定したかな?


「今日は暖房器具の追加納品に参りました、それとギュンター様から言伝を承っております。

 マーメイド族の仕事は2日後、希望人数は派遣出来るだけ欲しいとのことでございますが大丈夫でしょうか?」


「マーメイド族はこれが初仕事だから問題無い、俺からもそのように伝えておくよ。

それと暖房器具はまた倉庫に入れておいてくれ、支払いはこれを飲んだらでいいか?」


「えぇもちろんです、おくつろぎのところ申し訳ございません。」


いや、昼過ぎから酒を飲んでる俺が全面的に悪いので謝ることはないぞ。


だが飲みたくなったものは仕方ない、谷はともかく穴を塞ぎに行くとなるとそこそこな日数こちらへ帰って来れなくなるだろうから、これくらいはさせてくれ。


ビールを飲み終え支払いをするため俺の家へ、書類を確認して貨幣の入った箱を取り出す。


「この箱に各貨幣が100枚ずつ入っている、こっちの箱は端数だ。

 ここから必要なだけ取ってくれ。」


俺がそう伝えると、行商は目を見開いて固まっている……どうしたんだ?


「村長……この箱は?」


「俺が貨幣を管理するのに便利かと思って作った試作品だ、村の皆には俺が使い勝手をしばらく確かめてから支給するつもりだけど。」


「村長、この箱のアイデアを売っていただけませんか!?

 貨幣管理は今まで商人や職人が1枚1枚数えるしかなかったのです、これは技術革新ですよ!」


そこまで言うほどのものでもないと思うが、商人の態度を見るに貨幣管理はかなり大変なのだろう。


しかしアイデアを売るとなるとなぁ……村が気軽に使えなくなるかもしれない、他にも気になることがあるし聞いてみるか。


「村で使う分を自由にしてくれるなら別に構わないぞ。

 それとアイデアを売るとなると、どのくらいの値段になるんだ?」


「村の皆様が使用する分には何も言いません、我らも村で作れるものを村へ売るつもりはありませんから。

それと値段ですが、この箱を量産して売り上げの一部を村長に渡すのが一番公平かと。

 どれくらい売れたかは私たちを信用してもらうしかないですが、しっかりと計算して村長にお支払いするつもりです。」


そこは信用しているから問題無い、しかし支払いはマージンか……そこまで売れるものでもなさそうだし経済混乱の件もあるからこれを飲んでいいかもしれないな。


「分かった、じゃあこの箱のアイデアを売るよ。

 また詳しい書類を作って持ってきてくれ、それに俺がサインか拇印をすれば契約成立ということで。」


「ありがとうございます!

 次の便までに作成してすぐにお持ちしますね、しかし契約書をご存知とは流石村長でございますね……まだそういう取引はされたことないと思っていたのですが。」


前の世界で腐るほどそういう書類を見てきたからな、というのは伏せておいた。


「そうだ、牛乳から作る食品も村で作れるようになったんだ。

 魔族領に無ければ売りに出したいと思っている、後で牧場を覗いてみてくれ。」


「牛乳から作る食品……興味がありますね!

 この村の食べ物が美味しくないわけがありませんから、是非寄らせていただきます!」


話をしながら暖房器具の支払いを済ませて商人は意気揚々と牧場へ向かっていった、支払いは箱で枚数を管理していたからか前よりだいぶ早く済んだ。


やっぱりこの箱は便利なんだな、後で希望者を募って必要分作って配ることにしよう。


その夜妻たちに商人との話をすると「契約書は絶対読ませてください!」と念を押された、そんなにがっつかなくてもいいと思うんだが。

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