第131話 異形の者が出る谷や穴の対応策が決まった。
ウーテの報告を受けた次の日、再び広場にて話し合いが行われることになった。
朝食を済ませてすぐの召集だったが集まってくれてありがたい、それとグレーテがイザベルを連れて来てくれている。
「魔族領で黒魔術の研究をしているイザベルよ。
まさかこんな強硬手段で連れて来られるとは思ってなかったわ、しかも何あの魔法陣……未開の地の村に一瞬で着くなんて……。」
イザベルがかなり挙動不審な態度を取りながら自己紹介をする、魔族がグレーテとイザベルだけだから不安なのだろうか。
それともドラゴンや他の種族に恐怖を感じているかもしれない、今日はタイガ・レオ・トラが全員俺にくっついてきてるし。
何かを訴えているようなので、後でラウラに通訳をしてもらうか。
「イザベルさん、無理やり連れてきてごめんなさい。
この村だけじゃなく世界全体の危機かもしれないって、村長の奥さんであるメアリーさんに言われてさ。」
グレーテがイザベルに謝っている、指示された通りに動いてくれたんだから気に病む必要はないぞ。
「よし、それじゃあイザベルも来てくれたことだし昨日あった事の報告も含めた話し合いを始めようか。」
今まで分かっていることとオスカー・ノラ・ウーテの報告を改めて全体に伝えて、各々意見を出し合ってもらう。
それをクズノハがメモに残し、後で議事録のように情報を纏める……まるで戦略会議だな。
あながち間違ってないかもしれないけど。
「イザベルさん、まだ断片的な地図しかなくて申し訳ないのですが……世界に大きな穴が空いていて、それを繋ぐ谷が六芒星を描く可能性を黒魔術の観点から見てどう思いますか?」
メアリーはイザベルに谷が広がることを記した地図を見せながら意見を仰ぐ、イザベルもそれを見ながら考え込んでいるようだ。
「これはまた壮大な妄想ね……と言いたいんだけど谷がそんな短期間で広がるなんてあり得ないし。
それに水を操るドラゴンが大量と言うほどの水を流しても溢れないほど深くて、瘴気が多少あるし生命力も魔力も感じ取れてる……何かあると見ていいわね。
シモーネさん……だったかしら、大まかな地方を覚えていると言ってたけど教えてくれないかしら。」
シモーネもメアリーとイザベルの輪に入り地方の名前を伝えている、俺は人間領しか名前が分からなかった。
魔族領以外には行ったことがないし当然と言えば当然だけど。
「村長、紙とペンを貸してもらえるかしら。」
「あぁ、ちょっと取ってくるから待っていてくれ。」
俺は現状やれることは無いのでイザベルに頼まれたことをこなすことにする……問題が大きすぎて頭がついていかない。
紙とペンを渡してしばらく話し合いが続く、俺もクズノハの隣でメモを見ながら話を理解しようと頑張ってはみている。
「なんじゃ村長、話し合いに混ざらんでよいのか?」
「俺が考え付くことは皆が既に意見を出してるし、俺は司会役に徹することにするよ。」
クズノハがメモを取りながら俺に話しかけてきた、実際今俺はやることが無いんだよな……。
俺の取り柄は
「では村長に一つ質問じゃ、この事態を収束させるにはどうすればいいと思う?」
「地下に潜んでいる何かの目論見を事前に封じるか、話し合いをしてお互い納得のいく形で事を収めるかだろ?
それは全員分かっているんじゃないか?」
「後者は難しいじゃろうな、完全な悪意を持って地下から何かをしておるからの。
じゃが前者について皆話し合っておるのは村長も分かるじゃろ、よく考えてどうすれば収束するか考えてみるのじゃ、我は村長が一番手っ取り早く解決出来ると思っておるぞ。」
クズノハがからかうような表情で俺を試している、そうは言っても皆この事態への対策だったり今出来ることだったり……色々意見を出しているけどな。
しかしメモを取るという客観的に話し合いを見ているクズノハが、俺が手っ取り早く解決出来ると言っている……
色々考えているとふと疑問点が一つ浮かんだ、だがこればっかりはイザベルに聞かないと分からない――真剣な表情で話しているけど少し聞いてみるか。
「イザベル、少しいいか?」
「何かしら、今谷の広がるスピードから何年後にこの黒魔術が発動するか計算してるところなんだけれど。」
「まさにそれについてなんだが、谷を表面だけでも埋めるとその黒魔術は発動しなくなるだろうか?」
そう、地下の何かがわざわざ地上まで谷や穴を露出しているのがおかしいんだ。
地上に露出させるというリスクを冒しているという事は、そうしなければいけない理由があるはず……イザベルならそれが分かるかもしれない。
「この黒魔術は月光を必要としているわ、魔法陣に月光が当たらないと発動しない……そしてシモーネさんから聞いた穴の開いた地方は同時刻に夜になるギリギリの範囲だと思うの。
発動すればその地表に何かしら悪影響が起きるのは間違いない、それが何かまではもう少し調べないと分からないわ……まぁ村長の言う通り谷の表面さえ埋めれば無効化出来るけど。」
クズノハが言っていたのはそういうことか、確かにこれは俺が一番早く解決出来るかもしれないな。
「開様、その考えは思いついていましたが私はあえて言いませんでした……開様の身を案じて他の解決の糸口があればと思って今話し合いを行っています。」
メアリーは俺が何を考えているのか分かったのだろう、俺がしようとしていることを止めるよう促してきた。
「だが未開の地を始め世界の危機なら俺の力を使うべきだ、アラクネ族のおかげで魔力量も増えているし。
あの神殿を
俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、他の住民は今まで命を懸けて村のために動いてくれることもあった……それなのに村長の俺が適役から離れて守られるのは少し、いや大分癪だ。
俺は今までで一番真剣な表情でメアリーに反論する。
「……分かりました。
ですが開様の体調を優先させていただきます、それと村の戦力を可能な限り護衛に付けますね。」
「分かってるよ、俺だって無理をするつもりはない。」
メアリーも俺の表情を見て折れてくれたのだろう、少し項垂れながらイザベルに「もう大丈夫です、埋めることにします。」と伝えた。
イザベルは「へ、埋めれるの?」とキョトンとしながら計算していた手を止める、無理に来てもらったのにこんなことになって済まない。
「でもイザベルさんに地方の大まかな場所を教えてもらえたのは良かったですよ。」
それは確かにそうだな、それだけでもイザベルが来てくれた価値はあるだろう。
「皆さんお疲れ様です、この問題は開様を主軸に谷を埋める方向で収束させることになりました――今からはその部隊の編成の話し合いをお願いします。」
メアリーが全体に部隊の編成を考えるよう呼びかける、司会役を取られてしまった。
「もう私は用済みかしら、魔族領を出たのって初めてだからもしよければ観光をしたいのだけど。」
「それは構わないぞ、メアリーもいいよな?」
「えぇ大丈夫ですよ、ここからは村の領分なので。
また後ほど何か聞くかもしれませんし、滞在していてくださるとやりやすいですから。」
イザベルは「じゃあまた後でね、一通り見終わったら食堂にでも居座ることにするわ。」と言ってふらりと歩いていった。
割と簡単な方法で解決しそうで良かったよ、だがポーションは多めに作っておかないといけないな……それに土の確保もミノタウロス族やケンタウロス族に頼まないと。
だがそれより問題がある。
「はぁ、言ったはいいもののメアリーやカール、それにウーテやカタリナと長期間離れるのは寂しいな。」
「何を言ってるんですか?
目標地点への移動こそ時間はかかりますが、ついてしまえばミハエルさんに転移魔術を展開してもらえば帰りはすぐですよ?」
「ホントだ、それなら寂しくないな。
何で早く言ってくれなかったんだ。」
「イザベルさんが居たので、転移魔術については無知のようでしたから。」
そういえばこれ魔族領王家の秘術だったな……安易に使いすぎかもしれないし緊急時以外は自重したほうがいいかもしれない。
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