第129話 どうやら黒魔術の知識が必要になりそうだ。

「なるほど、そんなことが起きていたのですね……。」


メアリーはシモーネとウーテから谷の調査での報告を聞いて考え込んでいる。


「どうしようかしら、未曾有の出来事が起きてるかもしれないわよね……。」


「私も長い事生きてきたけどこんな事は初めてだわ……。

 そういえば異形の者を倒している時にちょくちょく変な穴は見つけてたけど……もしかして地底に別の場所か何か住んでいる場所へ繋がっていたのかしら。」


メアリーはそれを聞いてさらに考え込む、色んなことに対してすぐに答えを出してきたメアリーがここまで悩んでいるのは珍しい……。


「シモーネ様、さすがにその穴の場所は覚えてないですよね……。」


「そうね、この世界各地を飛び回っていたから流石に正確な位置までは……。」


「そうですよね、正確な位置まで……って大まかな位置なら覚えてるんですか!?」


メアリーがシモーネの記憶力に驚いている、異形の者を倒していたのって相当昔のはずなのによく覚えてるな。


「えぇ、どの地方にあったかくらいは。

 空を飛んでて分かるくらい大きい穴だったから、探すのに苦労はしないと思うわよ?」


どの地方にあったかは覚えてるって……ほとんどしっかり覚えているようなものじゃないか。


「ちなみに何箇所くらいありましたか?

 正確な数字でなくてもいいので、教えていただけると幸いです。」


「そうねぇ、大体6か所くらいかしら?

 そこまで多いものではなかったと思うわ。」


「6か所で全部だとしたら……六芒星……魔術と関係……?

 谷が辺だとしてたらその先に穴が……でも……。」


メアリーがものすごいブツブツ言ってる、物騒なことを呟いてる気がするし傍から見ると少し怖い。


だが必死に考えてくれているんだからそんな事思ってはいけないよな。


「村長、魔族領に掛け合って魔術に詳しい人を紹介してもらってください。

 出来れば黒魔術に精通している方が望ましいです。」


考えるメアリーを見ていると急に頼みごとをされた、俺に出来ることなら何でもやろう。


「分かった、魔王に話して急いでもらうことにするよ。」


「いえ、魔王様ではなくマルチン様経由でお願いします。

 魔王様だとどうしてもアウトローな方はこちらに紹介出来ないと思うので。」


そういう人材を村に招くのは少し怖いな、でもメアリーが必要としているなら仕方ないか。


村の戦力を見れば何かしようとしてもすぐに諦めるだろうし、大丈夫だろう。


「わかった、マルチンに掛け合ってくる。」


俺はすぐに冒険者ギルドへ向かった、なんでこう物騒なことばかり起きるんだろうな……。




冒険者ギルドを訪ねると、運よくマルチンとすぐに会談することが出来た。


黒魔術に精通している人を紹介してほしいと頼むと、顔をしかめて悩んでいたが「村長の頼みなら仕方ありません、ですが悪用厳禁でお願いします。」と言って呼びに行ってくれた。


やはり黒魔術は魔族領では推奨されていない魔術なのだろう、俺も黒魔術と聞いていいイメージは持てないし。


だがそう言ったところとも繋がりがあるのはすごいな、流石冒険者ギルドだ。


そういえば悪用厳禁と言っていたけど、そういった知識を持った人を村に連れて行くのは大丈夫なのだろうか――もし前科があって魔族領を出られないなら俺たちがこっちに来るしかないよな。


それはマルチンが戻ってきたら聞いてみよう、と思っていた矢先にマルチンがフードを深く被った人物を連れて戻ってきた。


如何にもな見た目の人物を連れてきたな……。


「村長、この人物が恐らく魔族領で一番黒魔術に精通している人物です。

 ほら、自己紹介をしておけ。」


「もう、研究で忙しかったのに……私はイザベル、魔族領では禁止されている黒魔術を研究しているわ。

しっかし、あの輝かしいイベントを行った未開の地の村の村長が黒魔術なんて……何か悪い事でもするの?」


なるほど、推奨されていないどころか魔族領では黒魔術を禁止されているのか……そりゃ悪用厳禁と言うわけだ。


「よく禁止されている黒魔術を研究してて捕まらないな、うまく隠れてやっているのか?

 それと俺は悪いことをするつもりはない、ある事情で黒魔術の知識が必要になっただけだ。


「ふぅん……まぁそれはいいわ。

黒魔術は使用が禁止されているだけよ、研究自体はきちんと報告書を提出していれば問題無いの。

 だから私は研究しているだけ、使ってみたい衝動はあるけどそのあたりは必死に自制しているわ。」


禁止されているものを必死に自制して抑えているという時点でかなり危ない人物かもしれない……だが今は仕方ないか。


「ならイザベル、黒魔術の知識を未開の地の村に貸してほしい。

 次の定期便で村に来てくれないか?」


「それは無理よ、黒魔術の知識を魔族領外に出すのは禁じられているから。」


そうだったのか、それなら仕方ない……とも思ったが今未開の地で起きている問題の意見を聞くためにもイザベルには村に来てもらわないと困る。


それに谷に関係するかもしれない穴は未開の地ではなく世界のどこかだ、もし関係があればそれこそ世界規模の大問題になる。


「そこを何とか……はならないよな。

 分かった、なら魔王に許可をもらいに行ってくるよ。」


俺がそう言うとマルチンもイザベルもびっくりした顔をして俺を止めて来た。


「ダメですよ村長、いくら何でも黒魔術の知識を外に出すわけには!」


「そうよ、村長は黒魔術がどれだけ危険なものか分かってないから!」


「そうは言っても、これには事情があるからな。

 黒魔術が危険だというのも今の話を聞いてれば何となく分かる、だから魔王に判断を出してもらって許可を取るんだ。

 もし許可が出なければまた村に戻って別の案を考えるさ。」


マルチンもイザベルも「それなら……。」とわかってくれたようで、俺を止めるのをやめてくれた。


「イザベル、もしかしなくてもまた訪ねることになるだろうからどこに行けば会えるか教えてくれないか?」


「えぇ、分かったわ。」


イザベルはマルチンから紙とペンを借りて、研究施設までの道を書いた地図を手渡してくれた。


「マルチンもイザベルもありがとう、それじゃあな。」


俺は冒険者ギルドを後にして魔王城へ向かった、まさかこんな手間を食うとは思ってなかったが仕方ない。




城で手続きをし魔王との謁見まで少し待つ、受付の人は走って謁見の間に行っていたのでいつも通りそこまで待つことなく謁見出来るだろう。


そんな急がなくていいのにな……あ、呼ばれた。


「村長、この間のイベントは大成功じゃった……神殿も毎日参拝客が訪れて施設としても成功を収めておる、改めて礼を言うのじゃ。

 さて、今日は何の用じゃ?」


「それならよかったよ、俺も今度改めて神殿を見学させてもらうとするよ。

 今日はちょっと頼みにくい事があってな……人払いをしてもらっていいか?」


流石に禁止されていることを大臣や衛兵が居る前では頼みにくいからな。


「ふむ……分かったのじゃ。

 大臣と衛兵、下がるのじゃ。」


大臣と衛兵は一礼をして謁見の間の門まで下がってくれた、手間を掛けさせてすまない。


「さて、人払いも済んだのじゃ。

 他ならぬ村長の頼みじゃ、極力聞き入れる努力はするのじゃよ。」


俺がイザベルを村に招く許可とその経緯を説明する、それを聞いた魔王はものすごく考えている……やはり禁止されていることだからな。


「私がこんな事を言うのは何だが、バレずに済む方法はあるのじゃ……失敗しなければじゃが。

 グレーテに頼んで気配遮断スキルを使ってもらい、転移魔術の魔法陣をくぐって村まで行けばよいのじゃよ。」


まさか魔王から不正の提案をされるとは思っていなかった。


「だが、それを言うということは正式に許可を出すのは難しいという事か?」


「そうじゃな、禁止されていることを特別に認めるとなると相応の理由が必要じゃ。

 いくらメアリー殿の意見と言っても現状黒魔術が関わっていることは確定しておらぬ、曖昧な状態で許可を出すことは出来ぬのじゃよ。」


確かにそうだ、簡単に特例を出すと他の者からの不満は続々と出てくるだろう……そのあたりは慎重になるべきところだよな。


「分かった、今回は魔王の案をいただいてバレないようにするよ。

 報告はこちらでまとめておく、安易に魔族領に情報を入れると危なそうだから必要になれば提出するようにするよ。」


「気づかってくれてすまぬのじゃ、そのように頼むのじゃよ。

 それと村長、10日後に私は完全フリーの日を無理矢理作ったのじゃ……クズノハ殿に会いに行くのでそのように伝えておいてほしいのじゃ。」


「分かったよ、クズノハも魔王と出かけるのに抵抗は無かったから大丈夫だろう。

 応援しているよ、頑張ってくれ。」


「うむ、わかったのじゃ!」


そう言って魔王との謁見を終了し、大臣と衛兵に声をかけて元の配置に戻ってもらった。


さて、今から村に帰ってメアリーに報告しないと……連れて帰って来れなくて怒られたりしないよな?


俺は不安になりながら村に繋がっている魔法陣に向かって歩いていった。

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