第115話 マーメイド族の里を救助することになった。

「なんでマーメイド族を保護する流れになったんだ?」


俺がオスカーに聞くと、シモーネもウーテも少しバツが悪そうな顔をして口をつぐんだ……ウーテはともかくシモーネまでそうなるなんて珍しいな。


「ウーテの治療を洋上で行って無事に治療は終わったのだが……すぐ近くにマーメイド族の里があってな。

 それに気づかず治療を敢行し里を半壊させてしまったのだ……マーメイド族が魔力障壁を展開出来てなければもっとひどいことになっていた。」


完全にこっちが悪いじゃないか、そういうことなら仕方ないな。


「分かった、マーメイド族の保護を全面的に受け入れよう。

 しかしこの村には海水はない、淡水の水場なら十分に用意出来るが……。」


「私たちは淡水でも大丈夫です、陸上でも過ごせなくはないですが移動や戦闘となるとあまり……。

 あ、申し遅れましたが私はマーメイド族のアストリッドと申します。」


戦闘面は考慮しなくて大丈夫だぞ。


「アストリッド、保護は問題無いが里の立て直しはどうする?

 ここからマーメイド族の里までは大分離れているだろう、いつまで保護を受け入れればいいんだ?」


「お仕事をすれば村に住まわせてもらえると聞いたのですが……。」


「保護と言うより、それなら移住の話だな。

 それも特に問題は無い……と言いたいのだがこの村は見ての通り陸上に住む種族しか住んでいないんだ。

 移住となれば仕事をしてもらわないといけないんだが……何か出来ることはあるか?」


俺がそう伝えると、アストリッドはうーんと唸りながら悩みだしてしまった。


「やっぱりそうよね……だから保護って言ったんだけど。」


ウーテも最初は移住させてくれと話をされたんだな、だがこの村で出来る仕事が無いのが分かっていたので里の再建まで保護と説明したんだろう。


「あ、魔力障壁が張れます!

 ドラゴン族の流れ弾に当たってもかなりのダメージを吸収出来ますよ!」


アストリッドが思いついたように魔力障壁を推してきた、魅力的ではあるが……。


「この村はワシらドラゴン族、ウェアウルフ族、ミノタウロス族、ケンタウロス族にデモンタイガーも住んでおる。

 敵が村に辿り着くことはそうそう起こらんよ。」


オスカーが事実を告げると、アストリッドはがっくりと項垂れた。


だが何かおかしい。


「マーメイド族はそこまでして移住したいのか?

 里の再建は大変だろうが、俺たちに出来ることがあれば全面的に協力するぞ?」


ここまでして村の移住にこだわる意味がわからない、マーメイド族なら陸上より水中のほうが遥かに暮らしやすいだろうに。


「実は……私たちの里の近くにクラーケンとレヴィアタンの存在が確認されまして。

 あんな化け物の近くに住むのは不可能なので里は元々移住させるつもりだったんです、というか急ピッチで準備を進めていました。

 そこに先日のドラゴン族の皆さまの治療に巻き込まれまして……物資不足により自力で移住する力が足りないのでお世話になりたく……。」


泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ、とりあえずそういうことなら仕事は後回しだな。


そして確認しておくことがある。


「オスカーたちに聞いておきたい、クラーケンやレヴィアタンという魔物は討伐出来るのか?」


「問題なかろう、どちらも珍しい魔物ではあるがな。

 そもそも海という地の利は住んでる者の特権ではない、ワシやシモーネのように実力がかけ離れていなければウーテの独壇場よ。

 魔物ごときに後れを取るドラゴン族ではないわ。」


オスカーにそう言われてものすごいドヤ顔で鼻をフンスフンス慣らしているウーテ、ちょっと可愛い。


「しかし……クラーケンは群れているので1匹倒してもどれだけ数がいるか。

 普段は海底の砂や岩に擬態するので正確な数も把握できませんし、レヴィアタンは恐らく群れていないと思いますけど。」


アストリッドがクラーケンの簡単な生体情報を説明してくれた。


擬態する巨大な魔物が群れているのはかなり厄介だな……いくらウーテの能力が強いと言っても擬態されていてはどうしようもない。


海の水を全て操るわけにもいかないし、そんなことしたらそれこそ大災害だ。


だがその情報を聞いて、半壊状態になっているマーメイド族の里を放っておくわけにはいかなくなったな。


「オスカー・シモーネ・ウーテ。

 メアリーと他のドラゴン族、それにケンタウロス族とミノタウロス族を連れて行って大急ぎでマーメイド族の里に残っている住民と物資をこの村に移動させてくれ。

 メアリーの指示に従って行動し魔物が居れば各個撃退、マーメイド族の人命を優先して行動するように頼む。」


「心得た、すぐに部隊を編成して向かおう。

 緊急を要する故魔法陣を使用、及び魔族領へマーメイド族が認知されても構わぬか?」


「アストリッド、魔族に存在を知られるのは大丈夫なのか?」


「はい、それは大丈夫です。

 たまに船が難破してしまったり遭難してしまったりした魔族や人間を助けていたので、元々あの海域に住んでいるというのは知られてると思います。」


それなら問題無さそうだ、それを聞いたオスカー達は頷いて部隊の編成に向かう。


「アストリッドはここで待っててくれ、勝手に命令してしまった妻に謝ってからまた戻ってくるから。

 それと住居はどういったものがいいか案を考えていてくれないか、戻ってきたら試作してみるからさ。」


「は、はぁ……。」


分かってなさそうだが、メアリーに謝るのが先だ……多分怒られるだろうなぁ。


俺は急いで家に向かうとウーテが既にメアリーを呼んで外へ出てきている、鉢合わせになるのでここで待ってよう。


「開様、詳しい説明を聞いてよろしいですか?」


ちょっと怒ってる、ウーテはあの時間じゃ詳しい説明をしてないだろうな。


「こちらの不手際でマーメイド族の救助と魔物の討伐及び撃退を同時にすることになってな、絶対的な司令塔が居ればより安全に遂行できると判断した。

 知らないところで決まって申し訳ないが頼む、村とカールは俺がきっちり見ておくから。」


「そういう事でしたら仕方ないですね。

 部隊の編成を見て、不足している人材が居れば補充してもよろしいですか?」


「それは構わない、より成功率が上がる選択を頼む。」


「承りました、必ず成功させて帰ってきますね。」


妻を危険な場所に向かわせるのは夫失格な気もするが、メアリーの頭脳は誰しもが信頼を置いているから仕方ない。


討伐だけなら行かせなかったが、今回は命がかかっているからな。


さて、俺はアストリッドのところへ向かうか――あまり長い時間一人にしておくのも可哀想だし、食堂で住居の案を聞きながら軽く食事でもしよう。


そう思ってアストリッドのところに戻ると、誰も居なかった。


あれ?


「あ、そこにいたマーメイド族ならメアリーさんが連れて行かれましたよ。

 なんでも今から行う作戦に必要だとか。」


……頑張れ、アストリッド。


帰ってきたら宴会してやるからな。

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