第116話 別視点幕間:流されるままドラゴン族と一緒に見知らぬ村へ。

私はアストリッド、魔族領と人間領から少し離れた海域に住んでいるマーメイド族の一人。


ある日漁猟をしていたマーメイド族から、レヴィアタンとクラーケンが争っているという報告があってから里は大混乱に陥ってしまった。


祈りだす人、すべてを諦めた人、勝てないのが分かっているのに討伐しにいこうとする人……それでも族長が必死に呼びかけて何とか混乱は治まったわ。


里を移動する、族長がそう判断を下してからは皆の心が一つになって行動に移していく……里の物資のほとんどがひとまとめになるのに時間はさほどかからなかった。


物資をひとまとめにしてからは大議事堂が一般開放され、生活物資をある程度運び込んでそこで集団生活を送りつつ、魚漁師が次の里を興す場所を探しに大海原へ向かう。


幸いレヴィアタンとクラーケンは争ってはいるものの、そこまで広い範囲を移動しないのが分かっているのでここから離れることさえ出来れば問題は無いだろうとの見解が出ている。


大議事堂は里の中央にあるので、多少戦火が飛び火してきても岩や家屋で守られるので心配ないみたい。


そんな集団生活に慣れ始めて、魚漁師が次の里の土地を見つけて帰ってくるのを待っていたある日、海上から発せられたとんでもない咆哮が海の中まで響いた。


大議事堂の中に居ても聞こえてきた咆哮、何があったのかと警備の人が海上へ見に行く……私も外をちらっと見たけど大きな影が3つ見えた。


「ド、ド……ドラゴンだぁぁ!」


警備の人が物凄い勢いで戻ってきて皆に知らせた、当然皆はパニックになる。


ドラゴンの怒りなんて買った覚えは無いし、どうしてここに居るかも分からない。


ただ少なくともここからは離れないということは何となくわかる、ドラゴンなんて畏怖の象徴が理由も無くあんな咆哮をあげるわけがないもの。


神様、どうか里の皆が無事でありますように……あと新しい里の土地が早く見つかりますように……!


戦闘能力がない私は、ただひたすら神様に祈ることしか出来なかった。


それから程なくしてものすごい戦闘音が聞こえてきた、本当にここで戦闘をし始めちゃった……大丈夫かな。


なんて心配していたらドラゴンの戦闘で起きた衝撃で里の建物がいくつか倒壊してしまった、警備の人が状況と被害の確認で忙しく泳ぎ回っている。


「魔術を使えるものは魔術障壁の準備じゃ!」


族長からの指示が出た、私は魔術を使えるので魔術障壁を作る突貫部隊に参加しにいく。


回復魔術が得意なのに魔術障壁なんて作れるのだろうか……なんて思っていたら里にある要石に魔力を込めればいいだけらしい。


生まれて初めてこんなことになったから知らなかった、もしかしたら誰か教えてくれてたのかもしれないけど記憶には無いなぁ。


でも今は里の大ピンチ、レヴィアタンとクラーケンより危険だものね……ありったけの魔力を込めるぞ!




戦闘が終わったようだけど――結果としては物理的なダメージは抑えれた、でもその衝撃までは吸収できず里は半壊。


ドラゴンの力ってすごすぎる……衝撃だけで建物が壊れるってどういうこと!?


皆がもう終わりだと絶望してるところに、人間が泳いで里まで訪ねて来た。


「すまぬ、すぐ近くにマーメイド族の里があったとは思わず一族の治療を行ってしまった。

 見たところ里が大分壊れてしまったようだ……詫びをするにも今は手持ち無沙汰でな、一度我らが住む村まで来てくれないだろうか。」


たまたま近くに居た私が話しかけられた――この人たちさっきのドラゴン族なんだ、人間に変化出来るってどこかで聞いたことがある。


「あ、はい。

 ちょっと族長に聞いてくるのでお待ちください。」


そう言って族長に意見を乞いに行くと、今手が離せないから行ってきてくれと。


私が!?何故!?


話しかけられたからだよね、運が悪いです。


そう言ってドラゴン族に抱きかかえられたまま空を飛ぶ、高い高い怖い!


道中自己紹介をされたけど、海にも名を轟かせてる最強のドラゴン族であるオスカー様だとは思いもしなかった……ちょっとどころかかなり怖くて少し震えてしまう。


「寒いのか?」と言われたけど違います、怖いんです。


2つの意味で。


それと何か困ってることは無いかと言われたので、新しい里の場所を探していると説明した。


「なら、我らが住んでいる村に住むのはどうだ?」


ドラゴン族が住まわれてる村に、願ってもないですけど!


でも怖い!


「それは難しいんじゃないかしら、村でマーメイド族は出来る仕事って思いつかないけど……。」


横を飛んでるドラゴン族にそう言われて確かに……と思ってしまう、だって陸上だろうし。


それとこの方どうやら妊娠されてるらしいです、おめでとうございます。


「せめて保護だけでも、ダメでしょうか?」


「今回はこちらに非があるからな、そのあたりは村長がどう言おうと我らが口添えするから安心するといい。

 あの村長なら断らないと思うがな。」


オスカー様が村長じゃないってどういう事なんだろう、もっと強い種族なんだろうか?


なんて思いながら魔族領と山を越えた先にある村に到着。


村長と呼ばれる人が目の前に、どう見ても人間だけれど……この人間がドラゴン族を束ねてるの?


それどころか他の種族だって住んでる……こんな村見たことないよ。


村長と少し話をすると、保護は全面的に受け入れてもらえるらしいけど……やっぱり移住となると仕事が必要らしい。


そりゃそうだよね、ただでご飯がずっと食べられるわけがない。


そして移住したい理由を聞かれたのでレヴィアタンとクラーケンが里の近くに居たこと、オスカー様が行った治療で里が半壊し物資倉庫が潰れて物資不足なことを伝える。


すると村長がオスカー様に討伐出来るかどうかを聞いてる……え、討伐してくれるの?


それに妊娠されてるドラゴン族の方は水を操れるらしい、それは海では敵無しでしょう。


そのままの流れで討伐とマーメイド族の引っ越しを手伝う部隊が編成されることに――あれ?この村に住めるの?


村長に待っててくれと言われて待っていたけど、メアリーさんと言うエルフ族に連れて行かれることに。


そして先ほどのドラゴン族の方にお姫様抱っこをされる、美人で可愛くて照れてしまう。


この方はウーテさんと言うらしいです、メアリーさんがそう呼んでたので。


「村長が待ってろっておっしゃってましたが……。」


「マーメイド族で話が通じる方が必要です、開様からは不足している人材を補充していいと許可は取ってありますから。」


あ、私も部隊に入るんですね……何も出来ないですよ?


そしてそのまま見たことない魔法陣をくぐってあっという間に魔族領、そしてそのままマーメイド族が住む里の近くまで飛んできた。


ケンタウロス族とミノタウロス族の方々は魔族領の港で待機されてます。


「ではアストリッドさん、レヴィアタンとクラーケンの討伐に来たと里の皆さんに報告してきてください、その後発見された場所までの誘導をお願いします。」


メアリーさん、前者は大丈夫ですが後者が怖すぎます……ドラゴン族の皆さん、絶対守ってくださいね!?


報告を終えて誘導のため、海上から体が見えるように泳ぎながら誘導をする……まさかこんなことになるなんて思ってなかったよぉ……。


そして報告があった場所まで到着した、けど何かおかしい。


海が物凄い平和になってる、レヴィアタンとクラーケンが居たらこんなに魚が泳いでいるはずもない。


「すみませーん、レヴィアタンとクラーケンはこのあたりで争っていたんですが1体も見当たりません。

 それに海が至って平和になっています……どうしましょう?」


私がそう言うとオスカー様を筆頭にドラゴン族の皆さんが呆けた顔をする、戦えるのが楽しみだったのかな?


「メアリー殿、どう見る?」


オスカー様がメアリーさんに意見を聞いてる、メアリーさんはもしかしたら偉い人なのかもしれない。


「この辺りで治療のためウーテさんが全力を出されたのでしたら……それに恐怖して逃げたと考えるのが妥当かなと。

 アストリッドさん、擬態して隠れているだけという事は無いですか?」


「それはないと思います、擬態をしていたなら私が真っ先に襲われているので。」


だから怖かったんですよ?


「それなら、やはり恐怖して逃げたんでしょうね……どうしましょうかこれ。」


メアリーさんも困っている様子。


そりゃそうだよね、討伐するためにこんなとんでもない数のドラゴン族を率いてここまで来たんだもの。


「うん、とりあえずマーメイド族のお引越しを手伝いましょう。

 アストリッドさん、里に戻って経緯を説明して荷物を運び出してください。

 ドラゴン族の皆さんがそれを受け取ってそのまま村へ向かっていただきますので。」


ドラゴン族に引っ越しの手伝いって、本気ですかメアリーさん。


恐る恐るドラゴン族に目をやると「よっしゃ運ぶぞー!」とノリノリ、嘘でしょう?


私の中にあったドラゴン族のイメージが壊れていってるのが分かります。


そして物資も減っていたので、そこまで時間もかからず魔族領で待機されてたケンタウロス族とミノタウロス族の皆さんに荷物を渡し終えて村へ出発。


一族の皆ずっと呆けた顔をしてるなぁ、私もだけど。


村でどういったことになるのか、ちょっと不安……けど私たちを思って良くしてくれているんだろうしやれることは何でもやるぞ!


「レヴィアタンとクラーケンが居ないなら里を復興しても良かったのでは?」


そこ、思ってたけど言わなかったことを言わないでください……この戦力に口答え出来るわけないでしょう。


そうしている間にも、私たちと荷物を載せた荷車は来た時に通った魔法陣の方向へ向かっていった。

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