第114話 ドワーフ族とアラクネ族がケンカをしていた。
オスカー・シモーネ・ウーテの3人が治療に向かって2日が経った。
イベントまではまだ日にちがあるが、2日も帰って来ないとは思ってなかったので心配してしまう。
ウーテの身に何かあったのではないか、何か他のトラブルがあったのではないか……色んな思考をするが3人を信じて待つほかないだろう。
もしトラブルがあったとしても、あの規格外夫婦が居るんだからまず何かに負けて死ぬことはないだろうし。
それにウーテがいくら全力を出したからと言って、2人がやられるはずもないだろう――そうじゃなきゃ全力を受け止めるなんて提案はしないはずだ。
メアリーもカタリナも内心は心配しているのだろうが、普段通りの日常を送っているので俺もそうすることにする。
まずは見回り、最早散歩も兼ねた日課になっている。
決して悪いことじゃないんだけど、皆から歩き回ってるだけの村長と思われたりしてないだろうか……ドワーフ族に頼まれたら作物の錬成とかしてるから許してほしい。
村も大分広くなったので全体を見回るには一苦労だ、3分の1は田畑だけどここも見回りをするようにしているからな。
歩き疲れたので少し休憩、もう少し運動をして体力を付けたほうがいいかもしれない……前からずっと言ってる気がするな。
座っていると「村長ー!」と俺を呼ぶ声がする、その方向を見るとティナがこちらに向かって走ってきていた。
「どうしたんだティナ、俺に何か用事か?」
「イェンナ姉さんとドワーフ族がシュムックの事で喧嘩を始めちゃって……ちょっと見に来てくれないかしら?」
「分かった、すぐ行くよ。」
鉱石にしか興味のないドワーフ族がシュムックで喧嘩とは……一体どういうことだ?
ティナに付いていって鉱石とシュムックをひとまとめに置いてある倉庫へ。
「これは硬度からして切る・削る・磨く……色々なことが出来る、これがあればワシらの鍛冶に幅が出るんじゃ!
全部とは言わん、装飾品以外の分はドワーフ族に譲るべきじゃ!」
「ダメよ、シュムックは村長がアラクネ族に準備してくれたもの。
これほど上質なディアマントは見たことないし、オシャレ用の装飾品から有能な装飾品まで幅広く使えるの。
これを一番に扱えるのはアラクネ族よ、装飾品としての在庫は抱えさせていただきたいわ。」
鍛冶担当のドワーフ族とイェンナがものすごい剣幕でシュムックの取り分について話している……まさかこんなことが起きるとは。
「イェンナ姉さんがディアマントを運んでいるのをドワーフ族が見つけてそこからなの……。」
ティナが肩を落として溜息を吐いている、まずディアマントとは何だろうな……語呂的にダイヤモンドか?
そう思って覗いてみると、やはりダイヤモンドだった……そうなると工業用用途を即座に見抜いたドワーフ族はすごいな。
しかし装飾品としても一級品なのも間違いない、両者とも言い分は間違ってない以上上手く分配してやれば解決するはずだ。
だがとりあえず注意だ、仕事の事で真剣になるのは分かるがティナや魔族が居る前で喧嘩するのはいただけないぞ。
「こらそこ、ケンカをするな。
ティナから大体の話は聞いた、俺も参加するからどうすればいいか落ち着いて話し合うぞ。
2人とも食堂に移動だ、ティナも一緒に来てくれ。」
「村長ならドワーフ族の言い分を分かってくれるだろう、承知した。」
「アラクネ族のために用意してくれたんだもの、そんなことないわよ。」
はいはい、続きは食堂に移動してからな。
食堂に移動、厨房のドワーフ族に頼んで紅茶を入れてもらって一息。
その間に2人とも少しは落ち着いたみたいだ、これでちゃんと話が出来そうだな。
「さて、改めてさっきのケンカの話をしようか。
ディアマントというシュムックの使用用途、そしてドワーフ族とアラクネ族の取り分についてだったな。」
「そうじゃ、これがあれば技術の幅を広げることが出来るんじゃがアラクネ族が言っても聞かぬのじゃよ。」
「それは分かってるわ、でもディアマントは非常に人気なシュムックなのでそこまで多くの量は融通出来ないと何度も言ってるじゃない。」
ドワーフ族は量が欲しい、だがアラクネ族はそこまで多くは譲れない……と言った感じか。
「どちらの言い分も分かった、確かにこれは俺の世界でも装飾品として大人気のシュムックだったな、かなり高価なものだったのも間違いない。
だがそれは本当に綺麗な物だけだ、見た目が美しくないものはドワーフ族の言うように切ったり削ったり磨いたり、そういう用途で使われるもののほうが多かったのも事実だ。」
俺が居た世界でのディアマントの使用用途を説明すると、ドワーフ族もアラクネ族も真剣に聞き入っている。
まさか異世界に同じものがあるとは思ってなかったのだろうか。
「そこで提案だ。
ティナ、ディアマントの質をシュムックに利用する基準で5段階評価に分けてそれぞれ仕分けてくれ。
シュムックとして優れたものはアラクネ族へ、それ以外はドワーフ族へ配るんだ。」
「ですが村長、それだとディアマントの需要と供給が釣り合わないのですが……。」
「あえて供給を少なくして希少価値を持たせるんだ、ディアマントは高品質なら他の宝石には無い輝きを放つだろう?
いい物なら多少高くても顧客は必ず付く、それに自信を持って売りに出せるはずだ。」
俺がそう言うと「なるほど……。」とイェンナは考え込む、俺はあまり商売っ気が無いけど高い物には高いなりの理由があったのは前の世界で学んでいるからな。
「5段階に分けるのはいいけど、3段階目はどうするの?」
「3段階目は更に分けて、ドワーフ族向けとアラクネ族向けに分けてくれ。
量的にはドワーフ族が多めにディアマントを取ることになるだろうが、より良い物を作れるという意味ではアラクネ族にも十分価値がある仕訳け方のはずだし、ドワーフ族の技術発展にも繋がる。
ドワーフ族はそれを使ってアラクネ族にもっといい道具を作って提供してやれば、お互いが得をするだろ?」
「それはもちろんじゃ、同じ職人じゃしいい物を作ることに協力は惜しまんぞ。」
俺の提案に納得してくれたのか、ドワーフ族とイェンナ・ティナの3人はディアマントだけでなく他のシュムックの事について話しだしている。
ふぅ……とりあえずこれでこのケンカは解決かな?
メアリーみたいに頭がいいワケではないが、前の世界の知識が役立つことは多い……技術力を加速させすぎるとダメなんだろうが、幸い俺にそんな技術の知識は無いからな。
「よし、とりあえずこれで両者納得という事でいいか?」
「えぇ、ありがとうございました。
希少価値という概念は私にとって新しいことでしたので、これからもっと勉強していきますね。」
恐らく種類しか見てなかったのだろう、粗悪と言うほどではないが質の悪い物は商人ならいずれ見抜いてくるはずだし……ある程度早めに手を打ててよかったな。
「じゃあ俺はこれで、見回りに戻るぞ。」
3人は再び職人同士の会話をし始めたので、一足先に食堂を後にする。
見回りを続けていると、石油取扱技術者がこちらに来て採油から精油の安定したラインが完成したので囲いを作ってほしいと言ってきた。
ミノタウロス族とケンタウロス族に声をかけて材料を運んでもらい、図面通りに
これで石油も大丈夫だな、そういえば暖房器具を頼んでない……次に商人を見かけたら絶対頼まなければ。
氷の季節はもうすぐそこだからな、快適に氷の季節を乗り越えたい。
ダークエルフ族を見て思い出したが、キノコはどうなっているのだろうか――冬は鍋もやりたいからキノコがあると非常に助かるんだが。
何も言ってこないし食堂での食事にも使われていないから、まだ栽培途中なんだろうけど。
早く食べたいな。
キノコの事を考えながら見回りを終えて家に帰っていると、オスカー・シモーネ・ウーテの3人が空から帰ってくるのが見えた。
魔法陣を使わず空から帰って来たのか、しんどいだろうに……待て、誰かを抱えて飛んでいるぞ。
しばらくしてオスカーが俺の目の前に着陸する。
抱えていたのは人魚……マーメイドと言うのだろうか?
「村長、マーメイド族を保護してやってくれないか?」
とりあえず話を聞こう。
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