第113話 別視点幕間:能力の暴走を治療しに、いざ洋上へ。

私はウーテ、未開の地の村の村長の妻でありドラゴン族――ミズチというドラゴンで、水を操ることが出来るわ。


村長のことは最初何とも思ってなかったんだけど、私の能力を見せて無垢な笑顔で手を握られてから一気に意識しだしたなぁ……カタリナさんには見抜かれてたけど。


この村に来て色んな種族の過ごし方や能力、それに魔族領まで見ることが出来て私の知的好奇心はどんどん満たされている。


これからはどんなことが見られるのかという楽しみもあったが、村長の妻になったということで子どもが欲しいという欲求のほうがここ最近は強くなっていたわ。


でもその欲求も無事叶ったのだけれど……生きてきて今まで健康優良児だった私は悪阻で起こる吐き戻しで能力が暴走してしまった。


自分の体の事だから瞬時に察知して、必死に我慢して大量の水を出しても問題無い場所を探す。


しばらく飛ぶと、ものすごい深い谷を見つけたのでそこへ着陸して吐き戻す……我ながらとんでもない水量が吐き出し続ける。


何分くらい戻し続けただろうか――谷が水に溢れかえるかと思ったけどそんなことは無くて、気分も少し楽になった。


同時に思考も少しクリアになってきて、これが悪阻だと分かると同時にしばらく村で過ごせないことが明らかになって一人で泣き出す。


吐き戻す時に村に居たら間違いなく村は水害で滅んでしまう、でも吐き気なんていつ来るか分からないから何も村の事を出来ない。


村長の妻で妊娠しているとはいえ、そんな穀潰しのような事は許されないでしょう……いや、村の皆なら許してくれるかもしれない。


でも、ドラゴン族である私のプライドがそれを許さないわ。


そんなプライドと村長と過ごせないという事実と葛藤し、辛くなって更に泣いてしまう……早く帰らなきゃ皆を心配させてしまうのに。


しばらく泣いて吐き気も大分無くなった、とりあえず村に帰って色々報告しなきゃね……。




村長に妊娠と能力の暴走を伝えると、解決策が無いかシモーネおば様を呼んでくることになり村長が呼びに行った。


私はそういうのに無縁だったから分からないけど、確かにシモーネおば様なら知ってるかも。


その間にメアリーさんはグレーテさんを呼んできてくれて状態異常回復魔術を私にかけてくれた、体が一気に楽になる。


「過信しすぎないでくださいね、完全に悪阻が消えるわけじゃないですから。」


そうだったのね、知らなかった私は少し不安になる。


しばらくすると村長とシモーネおば様が家に入ってきて、解決策を告げてくれた。


それは能力を使って全力で戦う事、でもそんなことしたら村どころかこの辺り一帯が水害で沈んでしまう!


村長も危惧してシモーネおば様へ向かって叫んでいる、そりゃそうなるわよね。


話を詳しく聞くと、ここからは離れて洋上で戦うつもりらしい……それなら心配ないか。


魔族領と人間領には迷惑かけるけど、それが最善策なのでしょうね――その証拠にメアリーさんが意見を言わないから。


次の日にはいつ戦いをするかまで決定、というか今日出発。


クルトが私と一番実力が拮抗してるから適任だけど、ラウラさんが妊娠してるからあまり村から長い時間離れないほうがいいわよね。


ちょっとクルトと本気で戦いたかったな、恋愛対象にはならなかったけど幼馴染でありライバルだったから。


久しぶりに手合わせしたいがそれは叶わない……でもオスカーおじ様とシモーネおば様が私の全力を受けてくれるそうだ。


ちょっと楽しみ。


村を出発してまずは魔族領へ、こちらの事情で海に出ないよう魔王様に伝えると即座に魔族領全域へその通達を届けるよう大臣と衛兵さんへ指示してくれた。


ありがとう、魔王様。


次は人間領へも行かなきゃならないとのこと、闇討ちから魔族領を守ったとはいえ恨みしか買ってないだろうしちょっと不安。


するとシモーネおば様がキュウビさんから手紙を書いてもらっていたらしい、用意周到だなぁ。


人間領へ着いた、最初はものすごいパニックになったがオスカーおじ様が「御前様からの手紙だ。」と人間領の住民へ伝えると即座にお城へ通された。


領主様に手紙を渡すと、人間領もそれを認めてくれた……よかった。


これで2つの領の住民の命は守られた、心置きなく全力を出せることが分かるとちょっとウキウキしてくる。


だってドラゴン族が全力を出すことなんてほとんどないからね、私だって初めてだもの。


「2人とも、私の全力が危なかったらちゃんと反撃してきてよね?」


私だって成長はしている、ずっと子どもなわけじゃないので少し2人を煽ってみた。


「ほほぅ、ウーテも言うようになったな。

 同じドラゴン族とは言え、ワシら夫婦に反撃をさせるほどの攻撃が出来るか?」


「ふふっ、ウーテの成長を見せてもらおうかしら。」


ぐぬぬ、煽りが全然効いてないわね……むしろ近所の子どもの成長を見守るくらいの余裕っぷりだわ。


事実そうなんだけどさ。


絶対反撃させてやる、これは私の能力の暴走を抑えるための治療だけどなんか悔しくなってきた!


しばらく洋上を飛ぶと、四方すべてが水平線に囲まれた場所に到着。


「よし、ここなら充分だろう。

 ウーテよ……ワシらを煽るということはそれなりの自信があるのだろ?

 さぁ、全力で能力を使ってこい――すべてを受け止めてやる。」


オスカーおじ様とシモーネおば様が私の全力を受け止めるため構える――行くわよぉぉ!!


本気で全力のブレスを2人に向かって放つ、災害や水害なんてレベルじゃない水量が途轍もない勢いで2人を襲っていく。


……全力で能力を使うのって気持ちいい!


その水量をどうやって防ぐのかしら、2人も能力を使わないとどうしようも出来ないんじゃない?


私はしたり顔で2人を見る、すると私が放った水が2人の手刀の風圧で4分割された……噓でしょ?


「こんなものか?

 ブレスだけじゃない、地の利を生かした全力を出してみよ。」


オスカーおじ様に煽られる、言われなくたって!


能力を使って大気中の水と海の水を同時に2人に放つ、そこに私のブレスも!


全方位からの水撃、これなら反撃せざるを得ないでしょ!


すると2人はものすごい勢いで羽を羽搏かせ、私が操った水を吹き飛ばしていく……上半球と下半球の範囲を見事に分割し完全に防がれた。


「ずいぶん成長したじゃない、私たちには届かないけど。

 能力の使い方がまだまだ甘いわ、そう言っても使う機会のほうが少ないから仕方ないわね。」


シモーネおば様にも煽られた…むぅぅぅ!


能力の使い方って言ったって……水を操るってこれ以外にすることないわよ!?


「そうだな、治療としてはこれでいいが戦いとしては力任せに過ぎん……自分より戦い方の上手い奴なら格下に負ける可能性だってあるぞ?」


オスカーおじ様にだけは言われたくない台詞、力任せの権化みたいな存在でしょ!


……それだけ実力差があれば能力の使い方も関係ないのだろうけど。


力任せがダメってことを言いたいのかしら……ちょっと思いついたことをやってみようかしら?


私は再び大気中の水を2人の顔に集めて包み込んだ、空中で留まる水球の状態で。


突然の事だったのか2人は反応出来ずに暴れ出した、効いてる!


そこに再び全方位からの水撃と私のブレスを打ち込む……呼吸も正しい判断も出来ない状態で防ぎきる事が出来るかしら!?


さっきのような防御反応が出来ないのが分かったのか、オスカーおじ様が全身から熱を放出して水を蒸発させる……能力を使わせることが出来た!


その熱で顔を包んでいた水球も蒸発している、まぁ水だものね……圧倒的な熱には弱いわ。


「ふぅぅ……見事だった。

 まさか本当に能力を使わされるとはな……。」


オスカーおじ様かなり悔しそう、でも私としては2人を見返すことが出来て大満足。


「あの会話からさっきの水球を思いついたなら思考も上出来よ。

 戦いでは常に自身が優位であるよう、やれることをずっと思考しながら戦いなさいね。」


シモーネおば様から助言をもらう、そうよね……やれることは常にやるように考えなきゃ。


メアリーさんはそれを常にやっているのだろうか、そう考えるとあのキュウビすら凌駕する読みと思考を私も手に入れてみたいと思う。


すぐには無理かもしれない、手に入らないかもしれないけど能力を全力でぶつけても届かない相手もいることを2人に証明されたから頑張るしかないよね。


「それより、能力の暴走は無くなったか?

 もしまだ暴走しそうなら引き続き受け止めてやるが。」


オスカーおじ様に問われて自分の能力を軽く使ってみる、使ってみた感じ暴走する気配はない。


「ありがとう、もう大丈夫そうだわ。」


「それならよかったわ、体調不良もあるけど能力を使わず力だけが貯まっていくのが暴走の原因の1つだから。

 こうやって発散してやると改善されることがほとんどなのよ。」


それを聞いて納得する、村でも私の能力を使っているとはいえ全力とは程遠いものだったから。


なんだって使わないと貯まるわよね。


「よし、早めに終わったし帰るとするか……うん?

 なんだあれは。」


オスカーおじ様が海を見て何かに気づく。


シモーネおば様と私もオスカーおじ様と同じ方向に視線をやると、海の中から何か球体がはみ出ているのが見えた。


「魔力の壁ね……海の底に何か住んでいるのかしら?」


シモーネおば様がそうつぶやく、もしかしなくてもかなり生活の安全を乱してしまったんじゃないかしら……。


「まさか海の中に住んでる種族が居るなんて、この治療で迷惑をかけたかもしれない。

 私、謝罪に行ってくるわ。」


「ワシたちも行こう、ウーテ1人の責任では無いからな。」


そう言ってオスカーおじ様とシモーネおば様も付いてきてくれることに……ありがとう。


私たち3人はさっきの水球とは逆の要領で顔の周りから水を退けて海の中へ入り、住んでいるであろう種族へ謝罪に向かった。

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