第112話 思ったより早くウーテの治療が終わりそうだ。
ウーテの妊娠が分かった次の日の朝。
目を覚まして横に寝ているウーテを見ると、顔色も良さそうでスヤスヤと寝息を立てている。
グレーテの状態異常回復魔術が良く効いてるみたいだ、どれくらいの時間効くか未知数だと言っていたが今のところ大丈夫そうだな。
昨日は辛かっただろうしゆっくり寝かせておいてやろう、俺は起こさないようにベッドから体を起こし部屋を出る。
リビングに行くとメアリーとカタリナは既に目を覚ましていたようで、2人で談笑をしていた。
「おはようございます開様、ウーテさんの様子は?」
「今のところ大丈夫そうだ、顔色も良かったし楽そうに寝ているよ。」
「それならよかったわね、しかしドラゴン族の本気の戦闘が力の暴走を抑えるなんて思わなかったわ。」
それは確かに、しかしよく考えたらドラゴン族唯一の弱点かもしれない……受け止めてくれる相手が居ないとそれだけ世界を破壊してしまうからな。
まぁその弱点があるからと言って他の種族に負けるとは思えないけど、だって受け止めれないから。
俺はまだオスカーとシモーネのブレスしか見たことないが、オスカーは蔦を燃やしただけだから本気なわけがないし。
シモーネは電気だったけど生物が炭化するほどの高出力の電気だからな……あんなの受け止めれる種族居るのか?
「とりあえず2人は朝ご飯を食べてきていいぞ、俺は外で運動をしながらウーテを待って2人で行くから。」
「分かりました、ちょっと寂しいですが今は仕方ありませんね。
カタリナ、行きましょう。」
「はーい。
村長、次は私を妊娠させてね?」
この前やることはやったじゃないか、それで子どもが出来たかどうかはわからないけど。
2人を見送って、家の前で運動をしてると交易部隊が帰ってきているのが目に入った……あ、俺に気づいてこっちに向かってきている。
早すぎないか?
「村長、魔族領で一泊させていただいて今帰りました。
こちら、神殿建設イベントの詳しいことが書いた書類になります。」
「あ、ありがとう。
しかし陸路にしては帰りが早すぎると思うんだが……そんなに急いだのか?」
「定期便が走っている街道でしたら本気で走っても問題ないので、行きは半日と少しでした。
それから商人ギルドへ赴いて、資材の搬入と書類の受け取りを済ませて、その後は陽が落ちていましたし魔族領の食事が気になると皆の意見が合致したので、商人ギルドのご厚意でお食事と宿をお世話していただいたんです。
そして帰りは特に陸路を使う理由もないので転移魔術の魔法陣で帰ってきました。」
なるほどな……商人ギルドには今度お礼を言っておかなければならない。
それはまたギュンターとザビーネに会った時にすればいいとして、肝心の神殿建設イベントが何時になったか確認をするため書類に目を通す。
今から10日後か……ウーテの戦闘はどれくらいかかるんだろうな、シモーネに伝えて相談しなければな。
それと、イベントまでに間に合うなら早めに済ませるためにも魔族領と人間領に海に出るなと伝えなければならない。
「ともかくお疲れ様、ゆっくり休んで明日からでいいからいつもの仕事に戻ってくれ。
俺はちょっとこの書類を参考にやることが出来たから、これで失礼するぞ。」
「わかりました、では私たちもこれで失礼します。」
俺は書類を持ってシモーネの所へ向かう、イベントの時に俺が言う台詞もちらっと読んだが本当に普通の自己紹介で済んだみたいだ……よかった。
「シモーネ、交易部隊が帰って神殿建設イベントの開催日時が分かった。
今から10日後らしい、それまでにウーテの治療……というか戦いは終わるか?」
治療と言っていいのか分からず戦いと言い直してしまった、まぁどっちも間違いじゃないからいいんだろうけど。
「魔族領は私たちが道すがら通達するとして、それから人間領に向かって通達……そこから洋上に出るようになると思うから、そこから半日もかからないでしょうし1日と少しで終わるわ。
それまでにラウラさんは産まれそうにないわね……オスカーと私で受け止めるから問題は無いのだけれど。」
一方的にウーテの本気の攻撃を受けて無事で居られる確信を持てるシモーネ、やはりこの地上最強夫婦はこの世界でも規格外だな。
「だが、人間領へはどう言って伝える?
闇討ちの件があって魔族領とも関係は良好ではないだろうし、俺たちとはそもそも繋がりが無いぞ。」
「あら、簡単よ?
オスカーと私が闇討ちの時に会った人間を見つけてきちんと伝えるわ。」
最早それは脅しじゃないか。
「それはやめよう、キュウビの時にも言ったが俺は人間領とも出来るなら良好な関係を築きたいんだ。
何とか穏便に伝える手はないだろうか……。」
こんな時にキュウビに一筆何か書いてもらえればいいんだが、影法師がどこにいるかもわからないし……村のどこかに居るんだろうけど。
「仕方ないわね……村長はアラクネ族が来る前にキュウビの影法師と話したと言ってたわよね?
それならどこかに姿を隠して居るはず、私の能力で見つけるわ。」
影法師と言えど生命力や魔力があるのだろうかと思ったが、よく考えれば魔力が無いと影法師も維持できないよな。
家の外に出てキョロキョロするシモーネ、するとちょうど俺がキュウビと話した場所あたりに向かって歩いていったので俺もついていく。
「キュウビ、ちょっといいかしら。」
何も無いところに話しかけるシモーネ、傍から見るとちょっと怖い。
「うひょわあぁぁ!?
影法師は隠しておっただろ、なんでわかった!?」
シモーネが話しかけた途端にキュウビ影法師が姿を現す、相当驚いたのか腰を抜かしているが。
「あら、驚かせてしまったわ……戦闘中だったらごめんなさいね?
私の能力で魔力の塊を見つけたからわかったの、それより人間領に3日ほど海に出るなと一筆書いてほしいの、お願い出来ないかしら?」
やはり魔力を見つけたのか、シモーネから完全に隠れることは不可能かもしれない。
「戦闘中ではなかったが……シモーネはそんな芸当も出来るのか。
しかし人間領が海に出るなとはどういうことだ、贖罪とも関係なさそうだし理由によっては承服しかねるのだが。」
キュウビとしてはそう思うよな、人間領だって生きるために海に出ているのだから。
「村長とウーテの間に子どもが出来て、ウーテが悪阻を起こしているんだけど……能力が暴走して吐き戻しの際に災害レベルの水が発生するのよ。
能力の暴走を止めるには全力の戦闘が必要でね、地上だと甚大な被害が出るから洋上でそれをしようと思って……それに巻き込まないためなんだけど。」
「なんと、それはめでたい!
そういう事なら一筆書こう、紙とペンを持ってきてくれないか?」
「わかった、俺が取ってこよう。」
一瞬断られそうになったが理由を話して快諾してくれてよかった、俺は急いで紙とペンを取って戻ってくる。
「村長自らすまんな、改めて奥方の懐妊おめでとう。
すぐに書きあげるから少し待っててくれ。」
そう言ってキュウビの影法師がスラスラと字を書きあげる、キュウビ本人が見えないから分からないがどうやって操っているんだろうな。
機会があればクズノハに聞いてみようか。
「よし、出来たぞ。
もう他に用事はないだろうか?」
「あぁ、これで終わりだ。
旅の道中すまないな、そちらは変わったことはないか?」
ついでなので経過報告を聞いてくことにする、大事なことがあるかもしれないし。
「あったといえばあったが、直接村には関係ない。
とんでもないデカブツが出現したので、私が討伐しておいた……後はそれに襲われたのか分からぬが里が一つ潰されておったな。
生存者は0、種族の特定も死体の腐敗が進んでいたので分からなかった。」
ちょっと聞いたつもりがかなり重い報告が帰って来た、しかし充分な戦闘能力がないとそういうことも起こりえるのかもしれない。
「またギガースが出現したのかしら、この間ダークエルフ族の所にも出現したのに……あまりに頻度が多すぎるわね。
キュウビ、またそのデカブツを見つけたら村の誰でもいいから報告してちょうだい。
その際に村から見てどの方角かも一緒に、それと周りに何か変わったことが無いかの確認も。」
シモーネがキュウビにどんどん追加の指示を与えている、だが何十年も発見されてなかった魔物らしいし大事なことだな。
「まったく罪人だからとこき使いおって……まぁついでだし構わんよ。」
「すまん、頼むぞ。」
キュウビと会話を終え影法師も消える、前と同じ場所だしここにずっと居るのだろうか。
「さて、一筆書いてもらったしオスカーとウーテに伝えてすぐ出発するわ。
魔族領には私たちが通達しておくから、村長はいつも通りに過ごしていて構わないわよ。
神殿建設イベントまでには必ず帰ってくるから。」
「分かった、よろしく頼む。」
しばらくしてオスカー・シモーネ・ウーテの3人を見送る……無事に帰ってきてくれよ。
そしていつもの元気なウーテに戻ってくれ、そう願いながら俺は村の見回りに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます