第111話 ウーテの体調不良の原因が分かったが、まだトラブルがあった。
急に出ていったウーテが帰ってくるのを待ったが、陽が落ちそうになっても帰って来ない。
よっぽど具合が悪かったのだろうか、心配だがメアリーもカタリナも帰ってきているので一度家に入ることに。
「ウーテさん、大丈夫なんですかね?」
「分からん、話してる時は普通だったんだが……本当に急に顔色が悪くなって出ていったんだよ。」
「ウーテは他に何か体の変化について言ってなかったの?
もしかしたら悪阻かもしれないし……急に出ていくのは分からないけど。」
カタリナがウーテの変化について聞いてくる、そう言われても特に何も言ってなかったような気がするが……いや、一つだけ言ってたな。
「匂いに敏感になったと言っていたな、本人曰く鼻の通りが良くなっただけだろうと。」
それを聞いたメアリーが何かに気づいたような反応をした、どうしたんだろう。
「私も妊娠中に村の奥様方と話をしていたんですが、妊娠初期に感じる匂いがきつくなったと言っていた方が居ましたよ。
もしかしたら本当に妊娠していて、悪阻なのかもしれませんね。」
それを聞いたカタリナとそう言ったメアリー本人は笑顔になって嬉しそうだ、それが本当なら俺も嬉しいんだが肝心のウーテが帰って来ないんだよな……。
3人で話して1時間ほど経ったころ、玄関が開く音がしたので俺は急いで玄関へ向かった。
そこにはまだ顔色の悪いウーテが立っていた。
「おかえりウーテ、本当に大丈夫か?」
「村長……嬉しい報告と悲しい報告があるんだけど、どっちから聞きたい……?」
嬉しさと悲しさが入り混じった表情で話しかけてくるウーテ。
「嬉しい報告から聞こう。」
「私、無事妊娠した……と思うわ。
多分悪阻だと思う、こんな苦しかったのね。」
俺を追いかけて来たメアリーとカタリナもウーテが妊娠したと聞いて、ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。
俺もやっと家族が増える嬉しさと、ウーテに子どもを授けてやれた喜びからガッツポーズをした。
「おめでとうウーテ、俺も本当に嬉しいよ。
これ以上ない嬉しい報告だが、悲しい報告って何なんだ?」
俺が悲しい報告を聞こうとすると、体をビクッと跳ねさせた後少し震え始めるウーテ……心なしか少し泣きそうである。
「私……しばらく村長と一緒に暮らせない。
村にも迷惑が掛かるから村からも出て、離れた場所で悪阻が治まるのを待つわ。」
それを聞いた俺たち3人は同時に「どうして!?」と聞く、悪阻なんて妊娠した人のほとんどに発生する症状だ、迷惑だなんてことはないのに。
「私、水を操るでしょ?
今まで吐き戻しなんて経験したことないから分からなかったんだけど、吐いちゃうと私の力が暴走してとんでもない水量を戻しちゃうの……。
あの時急に出ていったのは、明らかにまずいと感じたから慌てて出ていったのよ。」
「そうだったのか……しかしグレーテの魔術を使ってもらえばある程度はマシになるんじゃないか?」
「マシにはなります、ですが悪阻が完全に無くなるわけじゃないですから……。
おめでたいことですが、ウーテさんの力が暴走して村を水害に巻き込むのはウーテさんも嫌でしょうし……仕方ないのかもしれません。」
メアリーから悲しい現実を突きつけられる、かなりの期間ウーテは独りで暮らさなきゃならないのは可哀想だし俺だって嫌だぞ。
「他のドラゴン族に力の抑え方とか聞けないかしら?」
カタリナからいいアイデアが出る、そうしてみよう。
「ウーテ、どうしても無理そうならまた出て行っていいからギリギリまで村に居てくれないか?
解決策があればそれでいい、もし見つからなければ俺をそこに連れて行ってくれ。」
「それはダメよ、いくら村長の頼みでもそれは聞けないわ。
長い期間村長が村を空けるなんてダメだし、魔族領のイベントだってあるでしょ?」
ウーテが必死に俺がついて行こうとするのを止める、そりゃずっと一緒に居てやりたいが俺だって自分の立場は分かっているつもりだ。
そんなつもりでついていくわけじゃない。
「まぁそれは戻ってきたら話すさ、とりあえず俺はドラゴン族のところへ行って何かないか聞いてくるよ。」
そう言い残して俺はドラゴン族の居住区へ向かっていった、シモーネに聞けば何か分かるかもしれない……それと本当に妊娠したかどうかも確認してもらおう。
今までメアリーもラウラの妊娠も見極めてもらっていたしな、恐らく能力で生命力が2つ見えたりしているんだろう。
もしかしたら何か別の病気かもしれないからな。
「シモーネ、少し遅い時間に突然済まない。
ウーテが妊娠したらしいんだが、力が暴走して吐き戻しの水分量が水害レベルらしくってな……何とかしてやれないか?
それと本当に妊娠か診てやってほしいのもある、出来れば一緒に来てほしい。」
「わかったわ、すぐ行きましょう。」
俺の話を聞いたシモーネはすぐに身支度を整えて俺の家まで走ってくれた、俺はついていけないのが分かっているので担がれている。
地面がものすごい勢いで進んでいってちょっと怖い。
「ウーテ、どこに居るの?」
俺の家に着いたがウーテの姿が見当たらない、まさか我慢出来なくなってまた離れていってしまったのか?
「シモーネさん、ウーテなら家の中よ。
メアリーがグレーテを呼んできてくれて、今は状態異常回復魔術で楽になってる。」
それならよかった、ありがとうメアリー。
「シモーネおば様……。」
ウーテはドラゴン族の力で村に迷惑をかけるのが辛いのか、シモーネから視線を逸らして俯いてしまった。
「妊娠は本当にしてるみたいね、他の病気ではなさそうだわ。
ドラゴン族の力が暴走するのはたまにあるのよ、そのドラゴン族の属性に関する体調不良が出た時なんかは特にね。
でも大丈夫、症状を抑える方法はあるわよ。」
それを聞いたウーテの表情はパァァッと明るくなり「ホント!?」と嬉しそうにシモーネに尋ねている。
「シモーネ様、薬ではなく……方法とは?」
メアリーが疑問に思ったのがシモーネに質問する、そういえば症状を抑えるのに方法とはどういう事だろう――マッサージとか?
「そうね、あまり不安にさせたくないからドラゴン族の前以外では言いたくなかったんだけど……村長との子どもだし仕方ないわね。
ウーテ、能力を使って全力で誰かと戦いなさい……それがドラゴン族の力の暴走を抑える方法よ。」
「待て、ドラゴン族が全力で戦うって……この辺りは無事で済むのか!?」
方法を聞いた俺は驚いて叫んでしまう、オスカーとシモーネが規格外だけかもしれないがドラゴン族はそれでもこの村では一番戦闘力が高い。
それに能力を使うという事は、ウーテは全力で水を操るという事だ……吐き戻しの水害レベルじゃない水量や水圧が周りを襲うだろう。
「もちろん村からは遠く離れるわ……そうね、魔族領からも人間領からも離れた洋上で戦えば問題ないでしょう。
魔族領と人間領には戦いが終わるまでその近くに近づかないことを告知しなければなりません、知らずに漁に出て戦いの余波に巻き込まれたら大事故ですから。」
それくらいなら伝えれば何とかしてくれるだろう、だがもしかしたら漁師の補填を考えなければいけないな……もしそうなれば村で持つとするか。
「でも私と実力が拮抗しているドラゴン族って……。」
「そうね、クルトが適任なんだけど……ラウラさんが心配ね。」
そうか、ウーテが勝ちすぎても負けすぎてもダメなのか。
さすがにもうすぐ産まれるであろうラウラを置いて、本気で戦いに生かせるのは少し気が引けるな。
「ウーテ、もう少し我慢出来る?」
「グレーテさんの状態異常回復魔術次第だと思うわ、どれくらい効果が続くか……。」
「一度かければ1日は持つはずです、ドラゴン族にその効果時間が適用されるかは未知数ですけど……。」
「ならウーテ、しばらくはグレーテさんに状態異常回復魔術をかけてもらいながら過ごしなさい。
もうすぐ神殿建設イベントがあるから、その日時次第でオスカーと私があなたの全力を受け止めてあげるわ。
ラウラさんの出産が無事に終わってたらクルトを向かわせるけど。」
ものすごい物騒な話をしているが、俺も無関係じゃないしドラゴン族の事をよくわかっているわけじゃないからシモーネの案に乗るしかない。
メアリーも何か考えている風だが、何も口に出さないということはシモーネの案が最適解なのだろうな。
「分かったわ、でも我慢出来なくなったらまた村を出て治まるまで帰って来ないけどいいかしら。」
「それは構わないが、安全に吐き戻しが出来る場所があるのか?」
「多分安全だと思うわ、北にある山の近くにものすごい深い谷があって……そこなら溢れずに済んでるから。」
それならいいが……可能性は低いがその谷に何かが住んでないことを祈るしかないな。
神の神殿建設イベントがいつになるか次第だということで今日は解散。
「ごめんね皆、迷惑かけちゃって。」
ウーテがしゅんとしてしまっている、家族なんだからそんなこと気にするんじゃないぞ。
交易部隊が早めに帰ってくるといいな、ウーテを少しでも早く楽にしてやりたい……俺が想像しない早さで移動して明日帰ってきてくれてるとかあるといいんだけどな。
流石にそれはないか、そう思いながら俺はベッドでウーテと眠りについた。
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