第109話 神の神殿建設イベントで問題が発生したが、ドワーフ族が頼もしすぎた。
稔の季節になってそこそこ月日が経った、朝晩は少し冷え込みだしている。
もうすぐ氷の季節だろうか、食糧には何も問題は無いが暖房器具が無いので一番辛い季節だな。
ただケンタウロス族の作ってくれた防寒具は非常に性能が良く、着ている間はちょっとやそっとじゃ寒くない。
むしろ少し汗ばむくらいだな、それ以外の箇所は冷えるけど。
石油はもうすぐ魔族領の流通に乗せれるくらいの量が精油出来るようになるらしい、今は村が使用する分の備蓄と採油から精油ラインの最終チェック段階とのことだ。
魔族領では石油を使用する文化があるし、買えるだけ石油を使う暖房器具を買ってもいいかもな。
この村に居る種族は石油を使っていた節が無いし、恐らくどうすればいいか分からないだろう。
炬燵があれば一番なんだが、火を使わず温かくなる素材も電気も無いので諦めるしかないよな……この村に唯一ある電気はシモーネのブレスだからな。
あんな危険なものは敵の殲滅にしか使えない、大人しく防寒具と魔族領からの暖房器具を使って乗り越えることにしよう。
暖房器具があるだけで去年より格段に過ごしやすくなるだろうしな、今度行商が来たら暖房器具を持ってきてもらおう。
そういえば魔族領での神殿建設イベントがもうすぐだろうな、企画担当者からそろそろいつ開催するか通達が来ても良さそうだが。
なんて考えながら見回りをしていると、噂をすればなんとやら――企画担当者がこちらに来ているのが目に入った。
「村長、ちょうどいいところに。
神殿建設イベントについてお話したいことがあるのですがお時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫だ、外で話すのもなんだし俺の家に来てくれ。」
企画担当者を家に招き入れ、紅茶を入れて話を聞く準備をする。
「話ではそろそろ開催だったよな、日時が決定したのか?」
「日時は近いうちなのですが、まだ決定はしておりません。
少しトラブルがあって……大変不躾なお願いなのですが、建設資材を魔族領に卸していただけないでしょうか?」
あれだけ大規模だからな、資材も相当な量を使うだろう……恐らく魔族領で準備しきれなかったんだろうな。
「準備出来ないものもあるかもしれないが、何が足りないかまとめてある資料はないか?」
「それはこちらに。
お恥ずかしい限りですが、書いてあるもののほとんどが足りない状況になっております……。」
資料に目をやると、木材・セメント・鉄・石・レンガ等々……様々なものが不足している。
不足量を見る限り恐らく3分の2以上は魔族領で準備出来るが、それ以上が準備出来ないものだろう。
「レンガは使ったことないからな、ドワーフ族に相談してみなければ分からない。
後の物は問題無く卸せるはずだ、輸送は陸路で間に合うか?」
「あぁよかった、魔王様から助言をいただけてなければ大変なことになるところでした……。
明確な納期は設けませんが、氷の季節が終わるまでには卸していただけると幸いです。
氷の季節は辛い季節ですから、この神殿建設イベントで盛り上げて活気づかせようというのが目的でして。」
「わかった、氷の季節に入るまでには魔族領に卸すようにするよ。
あとはレンガだな、ドワーフ族に聞きに行くから一緒に来てくれ、レンガがどういったものか説明してくれると助かる。」
「わかりました、お供いたしますね。」
入れた紅茶を飲み干し、企画担当者とドワーフ族のところへ向かっているとイェンナに声をかけられた。
「村長、少しいいかしら。
この間魔力上昇の装飾品がもう1つ欲しいと言ってたでしょう、やっと同じ効果のものが出来たから持ってきたわ。」
「すまない、手間を掛けさせたな。
ワガママを聞いてもらった形だし、何か希望があればまた後で伝えてくれ。」
「えぇ、わかったわ。」
気づかってくれたのだろうか、今回はネックレスではなくブレスレットを渡してくれた……
「村長、魔力上昇の装飾品とは……冒険者でもされるのですか?」
企画担当者が先ほどのやり取りを見て疑問に思ったのか、疑問を投げかけてきた。
「違う違う、
神に転移させられた時に多少の魔力はもらえたみたいだが、あの神殿くらい大きなものになると生命力を消費してしまうから、それを回避するためにアラクネ族に魔力上昇の装飾品を頼んでたんだよ。」
「なんと、そうだったのですね……事情を知らなかったとはいえ村長を危険に晒してしまい申し訳ございません。
そちらの装飾品は商人ギルドで補填したほうがよろしいでしょうか?」
「補填は気にしなくて大丈夫だ、それにこれは表にも出てない性能をしているから商人ギルドが払うなんて言ったらギュンターから大目玉を食らうぞ?」
本当の事だが冗談のように言うと、ものすごい真に受けたのか企画担当者の顔が少し青ざめて震え出した。
脅すつもりはなかったんだが、本当に気にしなくていいからな?
話しているうちにドワーフ族の工房へ到着。
「おーい、セメント制作担当のドワーフ族はいるか?」
「おぉ、どうしたのじゃ村長……そちらの魔族は?」
「お初にお目にかかります、魔族領の商人ギルドで企画担当としているザビーネと申します。
この度は神の神殿建設イベントで使用する材料が不足しており未開の地の村から卸してもらおうと商談に参りました、レンガの説明をしてほしいとのことだったのですが。」
この人ザビーネって名前だったのか。
「レンガか、この村では使わんからあまり作っておらんが多少なら在庫はあるぞ?
どれくらい必要なんじゃ?」
ドワーフ族とザビーネが書類を見ながら話しだし、俺はあまり見ることのなかったこの倉庫を見渡している。
見慣れない石材や資材が色々あるな、いつの間にこんなものを作ってたのだろうか……つくづくドワーフ族の技術力の高さには驚かされる。
「村長、こりゃ少しレンガの製作に力を入れなきゃならんな。
他の材料は足りるが、もしかしたらセメントの在庫は少しの間手薄になるかもしれんな。」
「少しの間ってどれくらいだ?」
「短くて3日、長くて1週間くらいじゃの。」
「えっ、そんな短期間でこの不足量を作れるんですか!?」
この会話に驚いたのはザビーネ、そりゃ驚くよな……俺だって驚いてる。
「まぁ何とかなるじゃろ、ワシらドワーフ族は楽しくてこの仕事をしておる。
ワシは石に携わる仕事が好きなんじゃ、村長やザビーネだって趣味で好きなことをしておると没頭するじゃろう?」
この世界に来て趣味という趣味は無いが、まぁその気持ちは分かる……前の世界じゃゲームしてたら朝になってるとかあったし。
「いくら趣味で楽しいとはいえ、仕事が早すぎる気もするのですが……。」
「まぁそこは慣れじゃ、ワシと他のドワーフ族が得意なだけじゃよ。
任せておけ、いい質のレンガを不足分ワシらが作ってやるからの。」
これほど頼りになる言葉はないな、レンガもセメントも解決したし……鉄は倉庫を新設するほど余ってるから大丈夫、木材は足りなければその辺の森を少し
「とりあえずこれで不足分の資材は解決したな、レンガ以外は準備出来次第魔族領へ持っていくようにする。
レンガは量が揃ってからだな、ミノタウロス族とケンタウロス族に向かってもらうから道案内はよろしく頼むよ。」
「わかりました、その時までには開催日時を決定しておきますのでミノタウロス族とケンタウロス族の方に伝えておきますね。
その時に必要な書類もお渡ししておきます。」
「そうしてくれると助かる、俺もそれに合わせて準備をするから。」
材料不足も解決したのでザビーネは魔族領へ戻ることに、だがアラクネ族の店に立ち寄るみたいだ。
俺のネックレスやブレスレットをチラチラ見ていたし、どうも綺麗な装飾品が気になる様子だ……あそこにあるのはいい効果が付いてる超高級品だけどな。
オシャレ用も少しは村で売ったほうがいいかもしれないな、ここは要相談だ。
「高すぎますよー!?」
ザビーネの叫び声が聞こえた、やっぱりオシャレ用も置くことにしよう。
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