第108話 アラクネ族が希望の品を届けてくれた。

「あら村長、ティナはどうされたのですか?」


ほんの1時間くらい前には更地だったはずの所に工房が建っていて驚いてる俺に、イェンナが話しかけてくる。


「あぁ、ティナならシュムックの原石が高品質で興奮してな。

 まだ工房が出来てないだろうということで、ドワーフ族の工房を借りて加工し始めたぞ。」


「あの子ったら……高品質なのはいいけどまずは私たちに見せてくれないと。

 加工は私たちのほうが上手なのに……後でお説教しなきゃ。」


それくらいで怒らないでやってほしい、それにいくらでも採れるだろうから練習にもなっていいだろう。


「採掘にしても加工にしても道具はドワーフ族かミノタウロス族に言えば貸してくれるだろう、必要なら自分たちのものを作ってもらうといいぞ。

 俺が作るより希望通りの形や材質のものを作ってくれるはずだ。

 それとティナから聞いたが、付属効果の付いた装飾品が作れるらしいな、もし魔力量の上昇効果があるものが出来たら譲ってほしいんだ。」


「シュムックを見てみないとわかりませんが、ティナがそれを話したということは本当に高品質なのでしょうね。

 シュムックの加工は私たちの仕事ですし、もちろんお譲りします。

 それ以外に出来た装飾品やシュムックはどうしましょうか?」


「村の女性たちが欲しいものがあれば配ってやってくれ、後は魔族領から行商が来るんだがそこに売るのもいいだろう。

 価値に関してはまずは俺が商人ギルドか行商と直接交渉をする、その後必要な数を卸すようにすれば問題ないが品質は少し落としたものを頼む。

 高品質なものは村でアラクネ族が直接売るようにしよう、そのほうがそれを目当てで来る人が増えるからな。」


「あまりそのようなことはしたことないですが……頑張りますね!」


いきなりここまで仕事を振って大丈夫かどうか分からないが、装飾品に付属効果があるならやる価値は充分にある。


アラクネ族にしか出来ない仕事でもあるし、商売をしている種族から教えてもらうようになればコミュニケーションにもなるだろう。


「仕事は把握出来ました、ちょっとティナとお話したいので案内していただけますか?」


「あぁ、こっちだ。

 あまり怒らないでやってくれよ?」


イェンナに言われてティナのいる工房へ案内する、笑顔が少し怖い。


ティナを見つけて怒ろうとしたが、高品質のシュムックが目に入ったのかイェンナもそのまま職人の顔になってティナと何か話し始める。


「アラクネ族がここまで職人気質だとは知らなかったのぅ、ワシらと話が合いそうじゃ。」


ドワーフ族がそう言いながら鍛冶仕事をしている、俺も戦闘が得意なイメージしかなかったから意外だな。


とりあえずアラクネ族はこれで大丈夫だろう、村の案内は落ち着いたらやるようにするか。




アラクネ族が村にやってきて3週間、装飾品もどんどん出来上がって少しずつ魔族領にも流通していくようになった。


ギュンターとも話をして、値段設定の相談にも乗ってもらったので概ねその通りに卸したり売ったりしている。


高品質なシュムックを使用しているからと言って必ず強い付属効果が付くわけではないらしく、効果が弱い物はオシャレ用に安く卸すようにした。


そちらは貴族やお金持ちに好評らしく、あればあるだけ卸してほしいらしい。


付属効果が高い物は冒険者に、こちらはオシャレ用の数倍の値段でも買いたいという商人が何人か来ていた。


あまりに競争率が高いようなら、商人ギルドにお願いしてオークション形式で売ってもいいかもしれない。


最高クラスの品質のものは、俺が言った通りアラクネ族が工房に看板を立てて売ってくれている。


客足はそこまでだが、効果を体感した後値段を聞いて愕然とする冒険者や商人が後を絶たないらしい……少々高すぎただろうか?


だが村に出来た新しい特産物だし、今まで出回ってない以上効果が高い物を流通させすぎるのは良くないからこれでいいだろう。


こういうのもあるというのを知ってもらって、頑張って働いたり冒険者ギルドのクエストをこなしたりして経済を回した後に買ってもらいたい。


「村長、頼まれていた魔力量が上昇する装飾品が出来ましたよ!」


商人や冒険者の往来を眺めていると、ティナがこちらに向かって走って来た。


「ありがとう、これで想像錬金術イマジンアルケミーの弱点が少し克服出来るよ。」


「ふふん、少しなんてものじゃないですよ?

 この村に来てものすごいいい暮らしをさせてもらってますから、村長にはまだ表に出したことのないレベルの効果が付いたものを持ってきました!」


そんないい物じゃなくてよかったのに、だが気をつかってくれたのだろうしありがたく受け取る。


ネックレスというのものつけやすくていいなと思って眺めていると、早く付けてくれとティナに急かされたので付ける。


「おぉ……?

 体の中の何かが増えたのが感じ取れる、これが魔力量の上昇か?」


「私たちも少々魔力を持っているので試してみたのですが、恐らくそれは倍化ですね!

 工房で直売しているものでも5割上昇が一番だと思うので、本当に最高級品ですよ!」


それを聞いて吹き出してしまう、表に出ている最大効果の更に倍の効果があるものなんてもらっていいのだろうか?


少し申し訳なさそうにティナを見るが、褒めてほしそうに目をキラキラさせてこちらを見ているので受け取ることにしよう。


「ありがとうティナ、アラクネ族を村に招いてよかったよ。

 イェンナや他のアラクネ族にもお礼を伝えておいてくれ。」


「えへへ、どういたしまして!

 お姉さん達にも伝えておくわ、大事に使ってね!」


そう言って工房へ走っていったティナを見送る、しかし倍化か……今までの倍の物を作っても生命力が失われないのは大きい。


そう考えてふと不安がよぎった。


魔族領で行われる神の神殿建設イベント、あの神殿を一気に作ったとして俺は生命力を削られずに済むのだろうか。


いくらこのネックレスで魔力が倍化しているとはいえ、あそこまで大規模な物を作ったことは今までないんだよな……。


そのあたりの事情は魔族領には伝えてないので知らないだろうし、今更断ることも出来ない……だがあんな大規模な物を試しに作ってもし生命力が大幅に削られてしまったら俺が困る。


本番でそのようになっても困るんだけど。


まだまだ魔力上昇の効果がある装飾品をもらうしかないだろうか、でも商品を俺のためだけに取ってしまうのは気が引ける。


だが村のためでもあるからいいのかもしれない……いやしかし。


色々な悩みながら家に帰り、家でも椅子に座ったまま唸りながら悩んでしまっていた。


「開様、どうしたのですか?」


メアリーに心配されたので、どうして悩んでいるのかを説明する。


「確かに通常の開様の魔力のみで、神殿の建設のために想像錬金術イマジンアルケミーを使うと恐らく良くて気絶……最悪生命力を大幅に削られて寿命が削れますね、失念しておりました。

 倍化であっても怪しい気がしますが、後1つだけアラクネ族から魔力上昇の装飾品を譲ってもらえば解決すると思いますよ?」


「後1つで足りるだろうか、俺も何かしらの修行をして魔力を増やしておけば良かったよ……。」


「開様はそのようなことをするより、他にやるべきことがありましたから。

 それに1つで足りると思いますよ――想像錬金術イマジンアルケミーでその2つを掛け合わせてエンチャント付与をすれば更に倍以上の効果が見込めるのでは?」


そういえばあったなそんな効果、スキルを使う当事者が忘れてしまっていたよ。


「ありがとうメアリー、何とかなりそうな気がしてきた。」


「お役に立ててよかったです。」


やっぱり困った時はメアリーに相談だな。


ふと思いついてメアリー相談室を作ろうと冗談で言うと本気で嫌がられてしまった……ごめんって。

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