第105話 別視点幕間:企画担当者の苦悩。

私はザビーネ、魔族領の首都にある商人ギルドで働いている企画担当です。


今は未開の地の村の村長がお願いしてきた、神を祀る神殿の建設イベントの企画が私の仕事。


村長から魔王様にお願いなされて、魔王様から商人ギルドに命じられた大事な仕事……きっちり成功させてみせましょう!


ある程度企画を練って書類を作り村長と2度相談をして、未開の地の村に住まれている種族の方々の協力も得られそうなので驚嘆と感動のイベントにすることが出来そうです。


何よりドラゴン族の方々が協力してくれるのは大きいですね、しかも楽しみにしてくださっているとは。


畏怖の象徴であるドラゴン族ですが、意外と茶目っ気があるのかもしれません。


村長がギュンター様にどれくらい儲けるか聞いた時は私も気になりました、魔王様と村長からのお願いという重大案件ですが、経理の事は全く触らないので知る機会がなかったんですよね。


そしてギュンター様から通常通り建築するより2倍前後と……多分もっと儲けていると思うので愕然としてしまいました。


商人ギルドの利益にも重大じゃないですか、私こんな大きい仕事任されちゃっていいんですかね!?


緊張で少し頭痛がしてきました……でも任されたお仕事ですから頑張りますよ!




それから企画を練る間も無く材料調達に走ることに、材料調達をする部署もあるのですがこれだけ大規模な神殿の材料となると、その部署だけじゃ追いつけないので私も手伝うことに。


慣れない仕事なので時間がかかってしまいました……ですが助かったよと言われたので良かったです。


少し時間が取れて企画書とにらめっこをしようとしたら、魔王様自ら私を訪ねて来られました。


「おぉザビーネ、神の神殿建設イベントの企画はどうなっておる?」


「これは魔王様、企画が完成しても材料が無ければ失敗に終わりますので先にそちらの手伝いに行っていたのです。

 これから更なる企画の練り直しをして、より良いイベントにするよう努めます。」


何か悪い事をしたのかと怖かったが、イベントの企画の様子が気になったようですね。


「それは当然じゃな、城を除けば首都で2番目に大きい建物じゃ……材料も相当な量必要じゃからの。

 もし足りなければ未開の地の村からもある程度購入出来るはずじゃ、検討するとよいぞ。」


「お心遣いありがとうございます、もし納入が間に合わないようでしたら掛け合ってみるよう部署にお伝えしておきますね。」


未開の地の村って名前なのに、魔族領で使えるような材料もあるのは少しびっくり。


もっとのどかな雰囲気だと思っていたんだけど、栄えているのかしらね?


「それはそうと、村長がドラゴン族に乗って登場する場面があるじゃろ?

 その時の台詞を私も考えてみたのだ、この紙に書いてみたのじゃが是非使ってみてくれんか?」


「まさか魔王様自ら企画のアイデアを出してくださるとは、拝見させていただきますね!」


魔王様が政務以外の仕事に手を出すなんて初めてのことかもしれない、これは是非とも使わせてもらわなければと思い紙を見る。


……。


これは……使えないのでは?


「どうじゃ、政務の傍らと寝る前の時間を使って考えてみたのじゃが。

 これだけ大規模なイベントでドラゴン族に乗って登場するのじゃし、普通にするよりかっこいいほうがいいじゃろ!」


魔王様ってこんなお方でしたっけ!?


幼い容姿からは想像も出来ないほど、仕事には毅然とした態度で向かうお方だと思っていたのですが!


一応これもお仕事ですので、こういう少年向けの小説にあるようなものを大衆の前で読み上げるのはお控えしたほうがいいと思うのです。


何より、未開の地の村の村長が嫌がりそうな。


でも魔王様の手前、そんな事は口が裂けても言えない平民魔族の私。


「素晴らしい案だと思います、私にはどれも素晴らしいもので決めかねてしまいますね……。

 そうだ、未開の地の村へ赴いて村長と一緒に話し合ってきますよ!」


「おぉ、それはいい考えじゃな。

 複数案を出したことじゃし、村長にも選んでもらったほうがいい案が出るかもしれぬ。

 奥方は皆頭が切れるしの、最適な答えを出してくれるはずじゃ!」


恐らく最適解はこの中に存在しません魔王様。


そんな心の声を押し殺し、魔王様を見送った後急いで未開の地の村へ向かう手続きを行う。


もっと企画を練りたかったのに、こんな状態でもう一度話し合いをするなんて思ってなかったわ。


定期便に乗って未開の地の村へ。


それほど栄えた村ではないけれど、すごく清潔で広くてのどかな村……時たま何で出来ているか分からないものが目に映るけど。


村長の家を住民に尋ねると親切に教えてくれた、ありがとうございます。


玄関をノックして家に入れてもらう、とりあえず話を分かってもらうために魔王様の考えた台詞だけを足した企画書を村長に渡した。


まずは普通にダメ出しをされる、思いついていたことはあったけどそうじゃないことも言ってくれたので普通に参考になるなぁ。


村ではイベントをやっているのだろうか、それとも村長が前に暮らしていた世界ではこういうイベントがたくさんあったのかもしれない。


無知ではこういうアイデアは出ない、神様に選ばれるってすごいなぁ。


そして魔王様が考えた台詞を見たのか、ものすごい難しい顔になっている……そりゃそうなりますよね。


早く断ってくれていいんですよ、と目で訴えていると奥様と相談されるとのことで待つことに。


20分くらいして奥様と一緒に戻ってこられた、可愛さとかっこよさを一緒にしたような美人さんだ……女の私でも見とれてしまう。


そして奥様からも更なる企画の指摘と改善点を伝えられた、この村の方々は皆頭がいいのでしょうか……ちょっと企画担当として自信を無くします。


でも参考にも勉強にもなるのでしっかりメモを取らせてもらう、今後の仕事に活かせそうだし。


残すは魔王様の考えた台詞のみ、ここはどう指摘されるのでしょう。


「あと村長が登場する際に読む台詞なんだけど、この選択肢からの決定はあり得ないです。

 この村の村長であり、私を含めて3人の夫である村長にこのような台詞を大衆の前で読ませるのは許可出来ません。」


奥様から一刀両断。


良かった、これでイベントがきれいに進行できる……事の顛末を説明し、村長にも奥様にも理解していただけた。


魔王様に説明する際に奥様の名前を使っていいとのこと、これは非常にありがたいですね。


次回は開催日時を決めた時に伝えに来ると言ってお暇する。




ギルドに戻ってギュンター様に魔王様にすぐ報告したほうがいいかと相談すると、気になって訪ねて来られるだろうしその時でいいだろうとのこと。


そうして企画書の修正をしていると、帰って来たその日の内に魔王様が訪ねて来られた。


「ザビーネ、戻っておったか。

 私の考えた台詞、村長と相談したのじゃろ?

 どれがいいと言っておったかの、私としては3番目の台詞がお気に入りなのじゃが……。」


「魔王様申し訳ございません、私もどれも素晴らしい台詞だと推してきたのですが……。

 村長の奥様が普通の自己紹介のほうが領民に不要な不安を与えないだろうと仰って、お断りされてしまったのです。」


前半は嘘だけど後半は本当、魔王様の顔も立てないとね。


「なんと、そうじゃったのか……。

 確かにドラゴン族もいきなり登場するし混乱はあるかもしれぬの……残念じゃが仕方ないの。」


良かった、割と簡単に諦めてくださった。


「よし、では他の案を考えてくるのじゃ!」


そう言って魔王様はギルドを飛び出していった……次来られるまでに仕事を終わらせないと間に合わないかもしれないと思い必死に企画と向かい合う。


夜通しギルドに残って仕事をしていると、誰かがお城に進言してくださったのか魔王様外出禁止令が出たと発表された。


魔王様……ドンマイですが私は仕事に集中出来て嬉しいので政務を頑張ってくださいね。

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