第106話 アラクネ族が村にやってきた。

キュウビの影法師からアラクネ族が村に向かっていると連絡が入ってから1週間と少しが経った。


少し遅いので心配になったが、徒歩で野営をしつつ戦闘もしながらとなると時間がかかっても仕方ないらしい。


レオとトラが様子を見に行ってこようかという態度で顔を覗かせてきたが、キュウビの報告を聞く限り戦闘面の心配は無さそうなので大丈夫だと伝えた。


2匹はそれを聞いて子どもたちが遊んでいる所へ駆け出していく、オヤツを抜いてからヤンチャしすぎることも無くなったしいい子守り役で助かっている。


いずれカールもお世話になるんだろうな、怖がらないか心配だが村の子どもは怖がってないしきっと大丈夫だろう。


カールと散歩しようと思ったが、仕事として村を見回りたかったので奥様方に預けて見回りをする。


ここ最近は特に問題があるわけではないが、定期的にしておかないと意見や改善点を見落とすことになってしまうからな。


特に石油を取り扱う施設はちょくちょくチェックをしてないと、何か危険なことがあるかもしれない。


覗いてみると、簡単な採油・精油を行うところまで施設が完成していた。


「村長、ちょうどいいところに。」


中に入った俺に気づいた石油取扱技術者が声をかけてくる、名前を聞いてないのが地味に不便だけど完全に聞くタイミングを逃してしまっているんだよな。


「まだまだ施設の改良と増設が必要になりますが、採油と精油が出来るようになりまして。

 この間の耐火仕様の素材を使わせていただいて思いついたんです、この施設を丸ごとテントのように囲う事を許可していただけませんか?」


「それは大丈夫だ、だが増設時に不便にならないか?」


全てを囲ってしまうと確かに安全面は格段に上昇する、だが決められた範囲しか使えなくなるので改良や増設時にとても不便になりそうだ。


「いえ、これは私も悪いのですが石油の取扱は安全が第一です……もし何かが起きたら大事故に繋がりますから。

 ましてや私は魔族領から派遣されている身、未開の地の村でそのようなことを起こすことなど許されるはずがありません、増設や改良は知恵を振り絞って何とかしますので。」


木で施設を作り出した時は本当に大丈夫かと思ったが、本当はしっかりした人で安心した。


「わかった、それなら任せるよ。

 だがもし図面を描けるなら相談してくれ、想像錬金術イマジンアルケミーで作れば囲いの移動から拡張まで思いのままだから。」


よく考えたら俺が作れたら一番だ、石油の取扱に関しては知識が無いから今まで任せていたが囲いくらいなら図面があれば作れそうだし。


俺がそう伝えると技術者は「ありがとうございます、近日中に図面と必要な材料を書いてお渡しします!」と言って作業場へ走っていった。


鉄もセメントも山ほどあるだろうし、そんなに急がなくても大丈夫だぞ。


石油取扱施設から外に出ると、森側の門から「うわぁぁぁぁ!」というただ事じゃないような叫び声が聞こえた。


音を出す余裕も無く叫び声をあげるなんてただ事じゃないぞ、何があったんだ!?


「見張りの人の声だろうな、無事で居てくれよ……!」


俺は急いで門へ向かって走っていった。




「どうした、何があったんだ!」


俺が到着すると他の住民も何人か集まってきていた、叫び声を聞いて集まったのだろう。


すると櫓の上で見張りをしていたウェアウルフ族が降りてきて「すみません、お騒がせして。」と謝っている、何もなかったのか?


「いえ、いきなり目線に顔が現れてびっくりしてしまったんですよ……。」


櫓の上に居てそんなことがあれば誰でも驚くと思うんだが?


「恐らくあれはアラクネ族ですね、村を訪ねてきたんでしょうが入っていいかどうかわからず壁を登って様子を見ようとしたら、私と目が合ったんだと思います。」


なるほど、そういえば壁を登れると言っていた……でも結構な高さがある村の壁をそんな普通に登るくらいすごいんだな。


「そのアラクネ族はどこへ行った?

 伝え忘れていたがキュウビから連絡があってな、試しに村に住みたいと言ってこちらに向かっていたんだよ。」


「それなら壁の後ろにいると思います、走っていくような姿は見えなかったはずなので。」


そう聞いて村の外へ出てみると「どうしようどうしよう……。」と壁際でオロオロしているアラクネ族たちが見えた。


「君たちがキュウビの言ってたアラクネ族だよな?

 見張りを驚かせたのは事故だろうし、村に入って話を聞かせてくれ。」


「い、いいんですか……?」


「構わないよ、そりゃ普通に入ってくれたら何事も無かったけど不安と警戒心があったんだろ?

 特に罰したりするつもりはないからさ。」


何とか諭してアラクネ族を村に招き入れる、戦闘は強いと聞いていたがそうとは思えない性格だなぁ。


うちの戦闘能力が高い住民が血気盛んなだけかもしれない。


「今日から村に住むことになるアラクネ族だ、皆仲良くしてやってくれよ。」


「「「「「はーい。」」」」」


皆にそう伝えると、アラクネ族が「本当にいいんですか?」と小声で聞いてきた。


俺は頷いてその質問に答える、さっきのは事故だったんだから気にするなよ?


そういえば宝石の好みを調査するのすっかり忘れてたな、まぁ試作してもらって見せてからでも遅くないだろう。




まずはお腹が空いているだろうし食堂へ招く、出てきた料理を見て驚いて食べてもう一度驚いていた。


「美味しい……こんな料理を頂いて大丈夫なのですか?」


「もちろんだ、アラクネ族は装飾品を作るのが得意だと聞いているからそれを仕事にしてもらうつもりでいる。

 仕事さえしてくれた食事は村が提供するから安心してくれ。」


「装飾品を作れるのですか!?

 この村ではシュムックが採掘出来るのですね、素晴らしいです!」


シュムックとは何だろうと考えたが、綺麗に光る小さな石だとキュウビから聞いているので恐らく宝石を意味する言葉だと思う。


「採掘できる場所はあるが、そこには鉱石や石炭も一緒にあるんだ。

 最初はその鉱夫についていってどれがシュムックか教えてやってくれないか?」


「それはもちろん大丈夫です、何なら私たちでも道具さえあれば採掘することは出来るのでそれでもいいですよ!」


なるほど、そういうことも出来るのか……よく考えたら当然だよな。


誰かが採ってこないと装飾品を作ることは出来ないし。


「それはドワーフ族とミノタウロス族と相談してくれ。

 俺はちょっとやることがあるから少し出るよ、また迎えに来るから食べ終わってもここで待っててくれ。」


「わかりました。」


そして食堂を出てダンジョンコアに宝石が採掘出来るようにしてもらう、これで俺が知ってる宝石は取れるようになるはずだ。


先にドワーフ族とミノタウロス族に新しく宝石が採掘出来るようになったことと、アラクネ族がそれを求めているから教えてもらって仕分けするように伝える。


両種族に了承を得れたので、食堂に戻るとアラクネ族は食事を終えていた。


「お、食べ終わってるな。

 まずは住居の希望を聞かせてくれ、その希望通りにすぐ用意するから。」


「私たちは見ての通り下半身が蜘蛛のようなものでして、そこさえ通る入り口があれば他の種族が暮らしているような住居で問題ありませんよ。

 寝具はハンモックのようなものがあれば嬉しいですが、贅沢は言いません。」


思ったより簡単だな、壁を登る能力があるし高いところに住むイメージだったが。


希望は聞いたので村の範囲を少し広げ、そこに希望通りの住居を想像錬金術イマジンアルケミーで作る。


「出来たぞ、これでいいか一応確認してくれ。」


俺が話しかけても反応が無いので振り返ると、アラクネ族は想像錬金術イマジンアルケミーに驚いたのか気絶してしまっていた。


いかん、最初は大体こうなるんだった……誰かー、アラクネ族を運ぶのを手伝ってくれー……。

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