第101話 魔族領へ神の神殿建設について話し合いに行ったら、思っていたのと違った。

今日は魔族領の商人ギルドに呼ばれている日。


昼ご飯を食べて一人商人ギルドへ向かった、メアリーかウーテあたりが付いてくるかなと思ったが今日はやめておくらしい。


少し寂しいが危ないわけでもないし別にいいか。


予定より少し早く到着したが「こちらでお待ちください。」と応接室に通されたので、ギュンターが来るまで待つことにする。


やっぱりここで出される紅茶美味しいな、たまに村に来る商人から買う紅茶と種類が違うのだろうか?


こっちのほうが俺の好みだ、もし融通してもらえるならこっちを売りに来てもらいたいな。


「村長、お待たせしました。」


紅茶を飲んでいると、ギュンターの声がしたので振り向くと魔王と知らない魔族の顔が見える。


「こちらは商人ギルドに属している企画担当の者です、魔王様は今回行われる神の神殿建設イベントの企画の立案者なのでご参加いただきました。」


「待て、何だ神の神殿建設イベントって。

 普通に立地関係や外装や内装の相談じゃないのか?」


「それはギュンターが建築設計の技術者に話を通して案が提出されておる。

 村長に見せてやってくれ。」


魔王がギュンターにそう言うと、数枚の紙が机に広げられる。


それらに目を通すとあの神にはもったいないくらいの立派な神殿だ、よくあの石像一つでここまで立派なものを思いついて書き上げることが出来るな。


デザイナーや建築設計の技術はすごい、俺はそういう人たちが考えたものを模倣することしか出来ないので羨ましくもある。


よく見ると丁寧に材料までしっかりと書いてあるな、これを基に材料を注文してこの図面を見ながら作っていくのか。


こういうのは初めて見たので少し真剣に見てしまう。


「どうじゃ、立派じゃろう?

 最初は簡単なものでいいと村長は言っておったが、ここは本当の神がいると証明するため大々的にしてはどうかと私が言ったのじゃよ。」


「それは良いんだが、今信仰している神はどうするんだ?

 宗教団体やそれに属する教会だってあるだろう、そういう人たちの迷惑になるんじゃないのか?」


「そのあたりは大丈夫です、むしろ歓迎されていますね。

 もちろん今回の件で教団の枢機卿に相談はしたのですが、どうやら口伝で伝わっている神が今魔族領で知られている神しか居ないのでそれを崇拝しているだけで、唯一神という考えはないみたいです。

 神は貴賤の別無く等しく崇め、多くの救いと恵みを分けていただきたいとか。」


大臣があんなこと言ってたから心配だったが、そういうことなら迷惑も掛からないし大丈夫そうだ。


「それならいいんだ。

 しかし建物だけ立派にしても、神のいる証明にはならないだろ。

 俺は居ると断言出来るが、多くの人からしたら偶像崇拝だ……証明は出来ないと思うぞ?」


「ここからは私が説明いたしますね。」


そう言ったのは商人ギルドの企画担当の魔族。


「建設予定地は先ほど渡した紙に書いていたとおりで、そこに材料を全て集めます……ここまでは通常の建築と変わらない工程ですね。

 ですが、この時点で魔族領の領民のほとんどを集めて、村長の想像錬金術イマジンアルケミーで神殿の建築を一瞬で終わらせるのを領民に披露するのです。」


別に神殿を想像錬金術イマジンアルケミーで建築を終わらせるのは問題ない、だが魔族領の領民をほとんど集めるって……大勢の人前に出るのは得意じゃないんだが。


「そして、神殿の建築を終了し影に隠れていただいてる村長がドラゴン族に乗ってその他の種族の方々と共に登場していただきます。

 神のごとき御業と他種族を束ねる存在……これで神の証明が出来ると思い企画いたしました。」


やりたいことは分かった、確かに俺の要望に応えた上で何か出店でもやれば商人ギルドの儲けにもなるいい企画だと思う。


だが問題があるな。


「短期間で俺の要望に最大限応えてくれるいい案だと思う、けどこれをすぐに引き受けることは出来ない。

 まず村の住民は見世物じゃない、俺の一存で決めれることじゃないのは分かってくれ。

 そしてもう一つ、俺が大勢の前で何かをするという事が得意じゃないんだ……失敗でもしたらこの企画が台無しになる可能性もある。」


「その点は大丈夫じゃ、あくまでまだ企画段階……住民の許可が必要なのは織り込み済みじゃからもし駄目だと言われたらまた企画を練り直してもらうのじゃよ。

 それに村長には簡単な一言を言ってもらうだけの予定じゃし、その一言もこの企画担当に考えてもらうから心配しなくてよいのじゃ。」


住民の許可が出なければ別企画、俺の負担もそこまで無いなら大丈夫かな?


「企画書と神殿の設計図を一度持って帰っていいか?

 これを参考に村で話し合ってみる、いい返事は出来ないかもしれないが。」


「はい、そちらは写しなので村長にお渡しして大丈夫ですが……魔族への情報流出だけは最大限注意していただけると幸いです。」


確かに、話を聞く限り大規模なものだからな……もし流出したら相当な損害が出てしまうかもしれないし注意しよう。


「それは気を付ける、あと一つ気になる点があるんだが。

 もしこの企画で進行するようになって、土木関係の人たちの仕事を今度こそ奪うことになると思うんだがそれは大丈夫なのか?」


「そこはご安心を、もしこの企画が頓挫しても建設予定地に変更はございません。

 その土地代の売り上げが、今回土木関係の技術者に入るようになっておりますので。」


それなら大丈夫そうだ、場所を見る限り栄えてる場所や城へのアクセスもいいしかなりいい土地だ……よくこんな場所をここまで広い面積確保したものだよ。


住民に迷惑がかかってないか心配だが、そこは魔族領が進めた話だろうし大丈夫だと信じることにする。


「わかった、なら一度村に持ち帰って話をしてみるよ。

 結論がまとまればまた報告しに来るから、場所は商人ギルドで大丈夫か?」


「大丈夫です、お待ちしておりますぞ。」


今日の魔族領での話し合いはこれで終わり……俺の予想ではオスカーとシモーネあたりが怒って拒否すると思う。


最強の種族だからこそプライドは高いはずだ、こんな見世物みたいなことに賛同はしないだろうな……。




「面白いではないか、ワシが村長を乗せよう!

 シモーネはメアリー殿を、ウーテはカタリナ殿を乗せて他のドラゴン族も何人か飛ばせると映えるだろうな!」


この企画のキモはドラゴン族だろうと思い、まずはオスカーに話を通してみると……まさかのノリノリ。


嘘だろ。


「いいのか、ドラゴン族が見世物のような扱いだとも取れるが。」


「この村の素晴らしさと村長の力を見せつけるにはいい機会だろう、ドラゴン族がその手助けを出来るなら助力は惜しまぬぞ?」


そこまで慕ってくれるのは嬉しい、けどかなりびっくりしている。


「わかった、ドラゴン族は参加してくれるということで……俺は他の種族にも聞いてみるよ。

 もしかしたら嫌がる種族もいるかもしれないからな。」


「うむ、わかったぞ。」


そう言ってオスカーの家を後にする、広場に行くとちょうど様々な種族が集まっていたので今回の企画について話してみた。


結果、全種族参加したいとのこと。


みんなお祭りみたいなことが好きなのかもしれない、宴会みたいに飲み食い出来なくてもそういうのが好きなら何かイベント事を増やしてもいいのかもな。


とりあえずこの企画は問題無いと返事出来そうだな、後は俺が失敗しなければいいだけか……。


大勢の前で何かしゃべるなんてしたことないから本当に失敗しそうで怖いな……考えただけで胃が痛い。


だが住民に話した以上仕方ないな、腹をくくって返事をするか。

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