第98話 メアリーの意外な一面を知ることが出来た。

キュウビがメアリーと話したいと言っていたのでそれをメアリーに伝えると「嫌な予感はしますが……まぁいいですよ。」と渋々了承。


嫌な予感ってなんだろうな、今夜来ることを伝え早めに晩御飯とお風呂を済ませる。


しばらくすると、玄関をノックする音が聞こえた。


「村長、キュウビだが入ってよいか?」


「いいぞ、入ってくれ。」


キュウビが訪ねてきたので招き入れる、長くなるかもしれないので晩御飯の時にティーセットとお茶をもらってきておいた。


冷えるかもと思ったが、カタリナが保温も出来るらしいのでしてもらっている、生活魔術は本当に便利だ。


「キュウビさん、私に話とはなんでしょう?」


メアリーが先にキュウビへ質問をする。


「メアリー殿の思考に興味が湧いて、少し話がしたくなったのだ。

 どのような体験をして、どのような人生を歩めばあの闇討ちを読み切るような思考になるか……是非聞きたいのだ。」


言われてみれば、それは俺も気になるな。


プラインエルフ族の里ではそのような考えとは無縁だったろうし、旅をしてても戦略というよりかはテクニックや知識なんかが優先されるだろう。


メアリーのような思考をする旅人はかなり稀だと思う……野生相手に戦術は通用しないだろうし。


質問されたメアリーは少し困った顔をして考え込む、特に理由はないけどそういう考えが出来るとかなのだろうか。


「その質問をされるということは、違和感が拭えないということですよね。」


しばらく考えて口を開くメアリー、違和感ってどういうことだ?


「そういうことだ、この前の私の暴挙を完全に止めたようなものは戦略の読みではない……未来予知や予言に等しいと私は思うのだが。」


キュウビに指摘されて、メアリーがすごいだけだと思っていたことに違和感が出てきた。


もしかすると、本当に未来予知や予言が出来るのか……?


「ふふ、キュウビさんは面白い考え方をするのですね。

 私にそのような能力は無いですよ、ただ人より臆病な気質があるだけです。」


「臆病なだけでは説明がつかないと思うのだが?」


「いえ、これは神に誓って本当です。

 人より頭の回転は早いのは認めますが、それとこの気質であのようなことが出来るようになったんですよ。」


キュウビもびっくりした顔をしてるが、普段のメアリーからは感じることも出来ない気質を本人の口から聞かされた俺が一番びっくりしていると思うぞ。


でもよく考えれば危険なことからは極力避けていた場面もあったな、そういうことなのだろうか。


「うぅむ……納得いかんがそこまで言われると本当なのだろうな。

 そこまでの頭脳があってなお臆病とは、にわかには信じがたいが。」


「生き残るために恐怖心は重要だと自負しているので、それが影響しているかもしれませんね。

 里を飛び出して旅に出て、開様と出会って夫婦になり色々な方と知り合って人脈も確立している……この状況を失うのが私は何より怖いのです。

 だからこそ、脳が焼き切れるような感覚があるまで思考を働かせあの闇討ちに備えましたから。」


簡単に言ってるように思っていたが、そこまで必死に考えていたんだな。


でも無理はしないでくれよ、メアリーの体調が悪くなるのは俺が心配するから。


「恐怖心が重要、か……。

 力も知恵も持ってそのようなものとは過去の実験の時以外無縁だと感じていたが、それに負けたということは重要なのだろう。

 私も地図作成と誘致の旅の際に参考にさせてもらう、常に恐怖心を持って動くとしよう。」


「キュウビさんのような方が私くらい恐怖心を持って行動すれば、ドラゴン族以外は敵無しだと思います。

 近いうちに償いの旅へ出発すると聞きました、人間領との繋がりのためにも生きて帰ってくださいね?」


「私も人間領には再び顔を出したい、何としても生きてこの償いの旅を完遂するさ。」


それからはしばらく2人で他愛もない話をして、キュウビもそろそろ寝るということで帰ることに。


「そういえば、キュウビはどこで寝泊まりするんだ?

 もし当てがないなら俺の家でもいいぞ。」


「気づかいはありがたいが、後ろからものすごい形相で村長を睨んでる2人が怖いから遠慮しておくよ。

 それに当てがないわけではない、クズノハのところへお邪魔させてもらうさ。」


そう言って笑いながら帰っていくキュウビ、後ろを振り返ると本当にものすごい形相でカタリナとウーテが睨んでいた。


「今日は私たちの夜の相手をしてもらうんだから!

 メアリー、いいわよね?」


「大丈夫ですよ。

開様、頑張ってカールの家族を増やしてくださいね?」


そこそこな頻度で相手をしているはずなんだが、授かるまではやることをやるしかないからなぁ。




朝。


カタリナとウーテの寝室で目を覚ます、2人はまだ寝ているようだ。


顔を洗いに外に出ようとすると、メアリーとカールは既に目を覚ましている。


「おはようございます、開様。

 カールに授乳したら朝食に行こうと思うのですが、ご一緒にどうですか?」


「もちろんいいぞ、俺も朝の運動と身支度を整えたら戻るから。」


軽く運動をして顔を洗い着替え、それらが終わるころにはカールの授乳も終わっていた。


ベビーカーに乗せて2人で食堂へ向かう、中から泣き声がするんだが……また何かトラブルがあったのか?


「この村の食事がうますぎる……旅に出たくなくなったぞ……。」


「何を言うのじゃ、おぬしは贖罪のために旅に出ねばならぬだろう……。」


キュウビが村から離れたくないと駄々をこねている、自分から啖呵を切って行きたくないというのはどうかと思う。


クズノハも呆れ顔でキュウビを見ているじゃないか。


「キュウビさん、この村の食事を二度と食べれなくなるのは怖くないですか?」


メアリーがにこやかにキュウビへ話しかける、キュウビは尻尾と耳をピーンと立ててメアリーへ頭を向けた。


「怖い、怖いぞ……この食事が二度と食べれないのは駄目だ。」


「では死なずに償いを完遂しなければいけませんね。

それが終わるまでキュウビさんは罪人扱いですから、もし償いをしないとなれば牢屋を作製しそこへ入れなければなりません、食事の質も落ちてしまいますよ?

あなたの能力ならそこまで長い期間はかからないと思います、終わったその時には開様がきっと今よりすごいご馳走を用意するようドワーフ族に頼んでくれるでしょう。」


そんなこと言ったつもりはないけど、まぁそれくらいはいいか。


そのころには他の種族も増えてるだろうし、地図も手に入るからな……それくらいはしてやらないと可哀想だろう。


「誠だな!?

 よし、償いの旅は頑張って早く終わらせよう――絶対今よりうまいご馳走を食べるまで死なんぞ!」


うん、やる気になってくれるならそれでいい。


俺だって牢屋なんかを作ってそこに人を入れるのは嫌だからな。


そんな会話をしながら食事を受け取ると、カタリナとウーテも合流し、4人で食事を食べることに。


とりあえずキュウビがクズノハと打ち解けて、村が抱えているトラブルは全て解決してくれただろう。


またしばらくは平和な日常が送れる、そのありがたみを嚙みしめながら4人で談笑しつつ食事を食べ始めた。

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