第99話 俺の知らないところで、色んな話が進んでいたらしい。

今日はキュウビが償いの旅へ旅立つ日。


見送りくらいはしてやろうと思って外に出ると、門の前に俺と同じ考えをしているであろう住民が集まっていた。


キュウビはそれに捕まり談笑している、一応罪人なんだけどもう皆そのあたり気にしてないよな。


「キュウビ、色んな人に見送りをしてもらえてよかったな。」


「村長か、嬉しいやら悲しいやらだ。

 無事に帰っても成功しなければ旨い飯は食えないなどと脅されておる、他に作物の種や特産品もきちんと持って帰ってこいとも言われたな。」


「うん、その辺は俺と概ね意見が一致しているからよろしく頼むぞ。」


「村長まで!?」


キュウビは俺の意見がショックだったのか、肩を落とす。


償いの旅なんていうのはただの大義名分だ、本命は地図や新しい住民、作物の種なんかだぞ。


伝えてなかったからな、今伝えたからよろしく。


このやり取りで皆から笑われながら村を発ったキュウビ、成功して無事に帰ってきてくれることを祈ってるぞ。




見送りも終わって朝食を取り、村の見回りへ。


石油取扱技術者とダークエルフ族が作ってる施設は、大分完成へ近づいてきたらしい。


「そろそろ原油を採油して工程のテストをしてみてもよさそうです!」


「その前に耐火性のある資材で施設を作り直すから、木製は危険すぎるだろう。」


俺がそう言うと、ハッとした顔をして慌てだす技術者……本当に大丈夫なのか?


施設をぐるっと見回り、セメントと鉄を使って今完成しているものを想像錬金術イマジンアルケミーで作り直す。


「これで大丈夫だろう、他に足りないものはセメントや鉄を使ってくれて構わないから。

 他の資材が欲しいなら、倉庫に見に行くかドワーフ族に相談してみてくれ。」


「分かりました、ありがとうございます!」


そう言って作業の続きにかかる技術者とダークエルフ族、よろしく頼むぞ。


次は久しぶりに鍛錬所、変わらずこの村に居る種族の腕利き達が鍛錬を続けている。


スラム街の住民も、俺が見ても分かるくらい動きも力も強くなっていそうだ……グレーテが認めないということはまだダメなのだろうか?


「なぁグレーテ、あの人たちはまだSランクになれないのか?」


少し気になったので聞いてみる。


「魔族領の冒険者ギルドなら間違いなくなれると思いますよ。

 ですが今、この村に冒険者ギルドを設立しようって話が私たちの中でありまして……そこに所属したいということでずっと鍛錬を続けているんです。」


そんな話初めて聞いたし、魔族領の冒険者ギルドとは話をしなくて大丈夫なのだろうか。


でもメアリーは施設をどんどん作って満足度を上げるべきだと言っていたな、治安維持が少し大変になりそうだがそのあたりは話を詰めればいいだろう。


「また詳しい話を聞かせてくれ、協力できることがあれば俺も力を貸すからさ。」


「ありがとうございます、その時はよろしくお願いしますね!」


もう少し早く頼ってほしかったけど、今知ることが出来たしいいだろう――他にも俺が知らないところで色んな話が進んでいる気がするな。


村がいい方向に向くものなら俺は反対するつもりはないから、どんどん話してほしい。


鍛錬所から出ようとすると、ミハエルが出口に立って難しそうな顔をしている。


「どうしたんだ、そんな顔して。」


「どうもこうも無いわよ、キュウビの件。

 本当にあれでよかったの?」


どうやら俺を待っていたようだ。


「契約魔術を破れば死、失敗しても死……キュウビに残されている道はあの償いの旅を成功させるしかない。

 それにこの村に逆らっても絶対に勝てない戦力差がある、その上で償いの旅に出発したなら俺は信じるつもりだぞ。」


「それもそうか……村長言ってたもんね、恨みはどこかで断ち切らなきゃいけないって。

 後悔や恨みが消えるわけじゃないけど、クズノハも受け入れたし私も受け入れる努力をしなきゃならないのかな。」


簡単に出来ることではないだろうが、問題さえ起こさなければ個人的にどう思っていようが止める気はないぞ。


「考えすぎないほうがいい、普通に暮らして美味しい物食べて誰かの役に立つ……そういう生活をしていたら気も紛れるさ。」


「そうね、そうさせてもらうわ。

 私だって白兵戦の勘も大分戻ったし、体も鍛えることが出来たからそっちで役に立つことにする。

 魔術に関してはもう生活魔術がメインになってしまっているけど……。」


少し残念そうなミハエルを見て、少し思いついたことがある。


「クズノハが作ってる魔術刻紙に、魔族領から来ている冒険者の攻撃魔術を付与してもらって使えばまた元に戻ったりはしないのか?」


俺の言葉を聞いたミハエルは、目をキラキラさせて俺を見ている。


「そうだよ、元に戻らなくてもあれを使えば私にも攻撃魔術が使える!

 私の魔力量なら中級魔術でもそれなりの威力が出せる自信があるし、上級魔術があれば万々歳だわ!

 ありがとう村長、早速クズノハと冒険者に頼んでみる!」


いい笑顔で走り去っていくミハエル、元気になってくれてよかった。


クズノハは大変になるかもしれないが、心の中で応援しておくことにする。




一通り村の見回りも終わったのでカールのお世話をする、家に居なかったので村の奥様方のところへ行くと案の定メアリーが預けて狩りに行っていた。


カールを引き取って、抱っこしながら椅子に座り日光浴をしていると、急に影が出来たので何事かと空を見上げるとラウラが飛んでこっちに来ていた。


妊娠してるんだろ、そんな飛び回って大丈夫なのか?


「開様とカール君が2人きりなんて珍しいですね、メアリー姉はどうしたんです?」


「メアリーは狩りに行っているよ、俺も今カールを引き取って日光浴していたところだ。」


「なるほどです。」と言いながらラウラは着陸、そして両手を出してカールを抱かせてくれというジェスチャーをしてきた。


俺はゆっくりとカールをラウラの両手に、ラウラはゆっくりとカールを抱き上げた。


「うわぁ……初めて赤ちゃんを抱いたですがなんかこう……癒されるですね。」


ラウラも妊娠しているんだから、もうじき我が子で毎日癒されるようになるぞ。


そうしてラウラと2人でカールを眺めながら日光浴していると、魔族領の城に勤める衛兵が村を歩いてるのが見えた。


何か言伝だろうかと思い、ラウラにカールを少し頼んで衛兵に近づいていく。


「衛兵さん、何か言伝があるなら俺が聞くよ。」


「おぉ、これは村長!

 ちょうど村長に用事があったのです、頼まれていた神殿の話をしたいと土木と建築設計の親方から言伝を頼まれまして。

 3日後のお昼過ぎに商人ギルドへ顔を出してもらうことは可能でしょうか?」


「特に予定も入ってないし大丈夫だ、その時間に商人ギルドへ行くことにするよ。」


「ありがとうございます、親方へは伝えておきますのでその日はよろしくお願いします。」


俺は小規模な教会くらいを考えていたんだが、神殿ってどういうことだ?


俺の知らないところで、話がものすごい大きなことになってる気がするぞ……3日後きちんと説明しなきゃならないな。

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