第91話 別視点幕間:メアリー殿から指示を受け、魔族領へ。

ワシはオスカー、ドラゴン族を束ねるドラゴンの始祖リムドブルム。


1年ほど前にドラゴン族の里からこの村へ移住したのだが、変わったことがたまに起きる程度で平和そのもの、食事も酒も上質と文句無しの住み心地。


村の住民もドラゴン族を見て畏怖するわけでもなく、同じ村の住民として対等に付き合ってくれるのも心地良い、いずれこの村はもっと大きくなるだろうな。


この間はギガースが出現したと聞いて討伐してきたが、少しタフな程度でワシと村の住民の敵ではなかったな……そういえばあれは食えるのだろうか?


なんて思い出したものの、あれを討伐してそこそこの日にちが経過しておる……もう腐敗が始まって食えたものでもないだろう。


もったいないことをした気がする、だがあの時はダークエルフ族の人命がかかっていたし仕方ないか。


そんな平和を今日も楽しんでいた矢先、村長の妻であるメアリー殿がワシの家を訪ねて来た。


「オスカー様、急ぎの頼みをお願いしたいです……お時間よろしいでしょうか?」


「大丈夫だ、話してくれ。」


1人で訪ねてくること自体珍しいうえ、急ぎの用事とはこれまた珍しい……それに真剣な表情。


何かトラブルがあったんだろう。


「魔族領が危機に脅かされてます。

 確定したわけではありませんが、キュウビが人間領と繋がりを持ち今夜か明日の夜に闇討ちを仕掛けてくる可能性があるので戦線を敷いて防衛したいんですよ。

 シモーネ様を含むドラゴン族と夜目の利くウェアウルフ族で部隊を組んで、これに当たってくれませんか?」


村長とメアリー殿が魔族領の会議に行ったのは知っておったが、まさかそんな話題になっておったとは。


しかもキュウビと来たか、どのような力を持っておるか興味がある……手ごたえがあればよいがな。


「承知した、すぐに部隊を編成し魔族領に向かおう。」


この村に居れば強そうな者と戦えるのもよいな、最近は村の住民もドラゴン族といい勝負をするようになっておるし。


だが、ワシはまだまだ他の者に負けてやるつもりはない。


「ありがとうございます、ですが出発前にドワーフ族のところへ寄ってください。

 キュウビが使役する管狐を封印する入れ物と札を用意してもらっているので。

 油揚げもありますが、その入れ物に入れておけば管狐が油揚げを求めて入っていく仕掛けです、75匹入った時点で封印してください。」


「承知した、では編成が終わり次第それを受け取って魔族領の防衛に移ろう。

 戦線の展開は首都の海沿いでよいな?」


「えぇ、それで構いません。

 ですが開様は村の住民が殺戮をするのを良しとしていません、基本は威嚇のみで可能なら対話での解決……もし生命の危機を感じれば本格的な攻撃を。

 ではご武運をお祈りしてます、よろしくお願いします。」


任せておけ、ワシが居ればキュウビだろうが何だろうが遅れはとらぬ。


「シモーネ、聞こえていただろう。

 他のドラゴン族にも伝えてくれ、哨戒に必要な人数以外は魔族領防衛に向かうぞ。」


「分かりました。」


シモーネも最近は大人しくなったが、昔はワシと並んで異形の者を倒して回ったものよ……こいつも元来戦闘は好きなのだろうな。


戦いに行くというのに笑っていたのがその証拠、やはりワシが背中を預けれるのはシモーネだけだ。


だが、今回は洋上での戦闘になるだろう――能力的にウーテも連れて行ったほうがいいだろうな……村長には悪いが。


ドラゴン族への伝達は任せて、ワシはウーテに声を掛けに行くとしよう。


村長の家に行くと、プラインエルフ族のカタリナ殿とウーテの2人だった、村長たちはまだ帰ってなかったようだな。


「ウーテ、魔族領と人間領が戦闘を起こすかもしれんとのことだ。

 それにキュウビが噛んでる可能性がある、もし戦闘になるなら洋上だ――部隊に加わってくれ。」


ワシがそう言うと、ウーテはあからさまに不機嫌な顔をする……村長と離れたくないのだろう。


すまんが、村長の人脈を守ると思って。


「はぁ……魔族領が噛んでるなら断れないか。

 わかりました、すぐに準備して行きますね。」


「ミハエルさんは連れていかないんですか?

 ラウラさんは妊娠してるので無理ですから、急遽別動隊になった時の連絡に思念が使えそうですよ、それにキュウビ絡みなら彼女は断らないでしょう。」


「その進言ありがたく受け入れよう、声をかけてみることにする。」


カタリナ殿もメアリー殿に負けず劣らず頭の切れる者よな、力任せに敵を消し飛ばしてきたワシはそう言ったことが得意ではない。


参謀が欲しいところではるが……ローガー殿かシモーネに任せるとするか。


ワシは最前線ですべての攻撃を防ぎ、相手を消し飛ばしてみせよう。


いや、消し飛ばしてはダメだったな……。


村長の家を後にして、ミハエル殿に声をかけると「絶対行きます、私の人生を狂わせた張本人だし。」と言ってすぐさま準備を終えついてきた。


少し歩いてウェアウルフ族とシモーネに合流、もう編成は終わっているらしい。


手際がいい、ではドワーフ族のところへ行って管狐とやらを封印する道具を受け取るとしよう。


向かっている途中にメアリー殿から声をかけられた、他に何かあったのか?


「開様から伝言です、本格的な攻撃でも極力相手の命を奪うことにはならないように。

 それと可能ならキュウビを捕えてくれと、相応の裁きを受けてもらうそうです。」


「心得た、そのようにしよう。」


命を奪わぬ戦闘は力加減が難しそうだが、村長の頼みなら仕方あるまい。




ドワーフ族とクズノハ殿から道具を受け取り、編成した部隊を率いて魔族領へ。


海側へ向かっている途中に何事かと魔族領の住民から注目されたが、迷惑は掛けぬからと説明して通らせてもらった。


「ふと思ったのだが、いつまでここに待機すればいいのだろうか。

 話によると今日の夜か明日の夜に攻めてくるかもしれない、だろう……もし攻めて来なかった場合やそれ以降に攻めてきた場合はどうするのだろうか。」


確かに、そこまで指示を受けていなかったな。


「では、3日目以降は部隊を小分けにして村へ帰るとしましょう。

 もし攻めてきたら残った部隊の1つが村まで報告、その後戻って出撃――後は村長かメアリー殿の指示に従って、待機か撤退を決めることにするわ。」


シモーネが案を出してくれる、確かにそれなら不平不満も出にくく対応がしやすい。


ワシとしては攻めてきてくれたほうがキュウビと力比べを出来るのでありがたい、まぁこれは不謹慎な考えだろうが。


そして戦線を敷いて初日の夜。


ウェアウルフ族は夜目が利くのを活かして見張りをしてくれている、夜の海など漆黒の限りだが何か見えるのだろうか。


ワシには分からん……こればかりは仕方ない。


本当に来るのだろうかと、半信半疑で待機していると見張りのウェアウルフ族が声を上げる。


「……何か来ます!

 船ですね……武装をしているように見えます、それが15隻ほど!」


来たか!


これでキュウビが人間領に居ることが確定した、絶対に攻め落としたいだろう……もちろん来ておるだろうな?


「人間領が攻めて来たぞ、ドラゴン族の誇りに掛けて後れを取ることなどないよう力の差を見せつけてやれ!」


ワシの言葉と同時に、すべてのドラゴン族が人間の姿からドラゴンの姿へ。


さぁ、絶対勝利と信じたキュウビと人間の出鼻をくじいてやろうではないか!

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