第90話 メアリーが作戦を解説してくれたが、驚くだけしか出来なかった。
現在、メアリーが考えている全貌を聞くために広場のベンチに座っている。
「どれから話しましょうか。」と口元を手で押さえながら考えているメアリー……最初から話してくれたほうが助かる。
「そもそもおかしいと思ったのは、石油の取引を止められると聞いたところなのか?」
「そうですね、どう考えてもおかしいですから……値上げに応じてまで買ってくれる上客ですよ?
貨幣文化は魔族領と交流を図り始めて理解しつつある状態ですが、人間領が理由も無しに取引を止めるメリットは存在しません。」
そうだよな、そこはわかる。
「なら何が目的か、これも話した通り魔族領を疲弊させること。
その先は魔族領を侵略し何かを奪おうとしている……ここまでは想像がつきますよね?」
「すぐには想像出来ないが、少し時間をくれたら多分たどり着ける。」
既に怪しい、ヒント無しでたどり着くのはもしかしたら無理かもしれないが強がってみる。
「そこまで考えて、先代魔王様が居ないことに気づいたのです。
そしてそれを誰も疑問に思っていない、まぁそこは信用がある人物が理由を付けての不参加なのですから何も言わなかったのかもしれませんが。
キュウビが人間領についていたとして話すと、先代魔王様が操られたタイミングはミハエルさんを助けて魔族領に一時帰った時でしょうね、以前からずっと影法師を潜ませて情報収集をさせていたのでしょう。」
確かに、転移魔術は王家の秘術だと言っていたからな……そんな簡単に話題に出るわけでもないだろう、実際魔族領は使ってるところを見たことがない。
話題に上がったのはミハエルが家族揃って話した時か、俺との謁見の時か。
「でも待てよ、クズノハが来た時ミハエルは戦争の件で先代魔王を問い詰めに行っただろ?」
「自分の事ですから、本当と嘘を織り交ぜて話をしたのでしょう。
戦争の件での詳細な事実は知られたくないでしょうから、文献はそれより前に処分してるでしょうし話術で切り抜けられますよ。」
なるほど、ここまでは何とか理解出来た――だが。
「メアリーがせっかく考えた作戦を知ってもらうために発言するっていうのは、一体どういうことなんだ?」
「この作戦を知ったキュウビの思考は、未開の地の村というところから魔族領は石油を買える状態にあり、ここで石油の輸出を止めてもダメージにならない……それどころか疲弊させて攻め入る作戦が頓挫してしまう――となるでしょう。」
それはそうなる、だからそうならないように対策をするだろう。
「ですが魔族領は未開の地の村の助言を受けて、氷の季節まで何もされないと考えている……ならば十分に時間があると考えていて、なおかつ準備が整ってないうちに不意打ちをすれば成功率は極めて高くなる、ここまでがキュウビの思考ですね。
そしてその不意打ちは早ければ早いほうがいいですから、今日か明日の夜――闇討ちで人間領が攻めてくるでしょう。」
「つまりメアリーはそこまで読んで、わざと解決策らしいことを言ってあの場全員の信用を勝ち取り、その闇討ちの対策のため村の皆に頼みごとをしてたのか?」
「そういうことです、迎撃部隊はオスカー様・シモーネ様率いるドラゴン族と夜目の利くウェアウルフ族を主軸にとお願いしています。
あ、こちらからの攻撃は威嚇のみ、可能なら対話での解決……もし生命の危機を感じた場合のみ本格的な攻撃をと伝えてますがよろしいでしょうか?」
ここまで用意周到だとツッコミどころがないな、メアリーが居なければ上手くいったかもしれないのにとキュウビが少し可哀想に思えてくる。
「本格的な攻撃も極力命を奪わないようにしてやってくれ。
人間領でキュウビがどういう位置に付いているかどうか知らないが、攻めてくる人間はキュウビに担がれて攻めているだろうから。
それと可能ならキュウビを捕えるように伝えてくれ、色々やりすぎたし裁きを受けるべきだろう。」
「わかりました、準備が出来次第すぐ出発してくださいと伝えているので……開様の指示を追加で伝えてきますね。
それとこれらの作戦はあくまでキュウビが居た時の保険です、居なければ特に大きなことも無く講和で終わるでしょうから。」
そう言ってメアリーはオスカーの所へ走っていった、これは魔族領に頼まれているわけでもない……それどころか魔族領を餌に使っているようなものだから多少本格的な攻撃も仕方ないだろう。
この話を聞いて俺も色々考えたが、一番被害が少なくなる考えは思いつかなかった……メアリーはそこまで考えてこの作戦を立てているのだろうな。
俺としては罪もない人に危害を加える可能性があるので不本意ではあるが、メアリーの顔を立てるとするか。
もしキュウビが居なければ、氷の季節に攻めてきてガチガチに戦力を固めた魔族領と戦う羽目になるだけだろうし。
圧倒的な力で威嚇して降参させるのが一番だろうな、普通の人間がドラゴン族に敵意を向けられてまともで居られるとは思えない。
とりあえずやれることは終わったみたいだし、何かあるまで普段通りの生活をするとしようか。
俺は前線に赴いたドラゴン族とウェアウルフ族の無事を祈りながら、陽が沈む前に村の見回りをすることにした。
色々見て回っていると、ダークエルフ族が切り倒した木に何かを打ち付けている……何をしてるんだ?
「キノコを栽培するため、種ゴマを打ち付けてキノコの原木を作っているんですよ。
やっと栽培する場所の準備が出来たので!」
もうすぐキノコが食べれるんだな、新しい食材は村の住民も喜ぶだろうし、俺もキノコが好きだから素直に嬉しい。
今日は戦争や戦略なんかで頭をフル回転させて疲れたので、こういう話題はものすごく癒しになる。
「どんなキノコが育つ予定なんだ?」
「シイタケ、エリンギ、シメジ、エノキダケ……他にもいろいろありますよ!」
ご丁寧に名前まで前の世界と一緒だった、これは色々な料理に使えそうだな。
ドワーフ族も喜ぶぞ、バターと炒めればキノコはいい酒のつまみになるし人気が出そうだ。
いつもこういう感じだったはずなのに、今日1日でものすごい懐かしく感じる……それくらい濃い内容の1日だったな。
俺は疲れを感じながらもカールを迎えに行き、家に帰る途中にメアリーと合流したのでその足でお風呂へ向かった。
お風呂はいい、1日の疲れをさっぱり落としてくれるな。
風呂上がりに軽く一杯のビールを飲んで、家に帰り床に就いた――キュウビの件が杞憂であってくれと願いながら。
後、明日は寝床に入ってから思い出した石油取扱技術者のところに行こう。
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