第86話 俺とメアリーの子どもの名前が決定した。

子どもが無事産まれ、メアリーが目を覚ますのを隣で待ちながらロッキングチェアに座って1時間ほどだろうか。


いろいろ考えていると、大事なことを忘れていたことに気づく。


赤ちゃんのための準備を何もしていない、オムツや服なんかはケンタウロス族に頼んだが……おもちゃや赤ちゃんのベッドが何もないのだ。


これは非常にまずい、メアリーを起こして想像錬金術イマジンアルケミーで急いで作ってこようかと思うが――今しがたお産を終えたばかりのメアリーを起こすのはいささかはばかられる。


お産直後の女性の体は、交通事故でケガした時と同じくらいの身体ダメージがあると聞いたことがあるからな、さすがにそんな状態のメアリーを起こして赤ちゃんの面倒を見ててくれとは言いづらい。


どうしたものかと悩んでいると、メアリーにポーションを飲ませてやるからと言っていたのを思い出した。


気休め程度かもしれないが……色んな人に回復力をびっくりされたし、もしかしたら効くかもしれないと思って赤ちゃんを抱いたまま倉庫へ取りに行くことにする。


赤ちゃんを起こさないようにゆっくりと倉庫へ向かい、ポーションを取って戻るとメアリーが目を覚ましていた。


「開様、どこへ行かれてたのですか?」


戻ってくると、メアリーが目を覚ましていた。


「倉庫にポーションを取りに行ってたんだ、これを飲んでメアリーが少しでも楽になればと思ってな。

 気休めかもしれないけど飲んでみてくれ。」


メアリーは「わかりました。」と言ってポーションを受け取り、ゆっくりと飲み干した。


「おや……?

 開様、これはいいですよ!」


メアリーの顔色がみるみる良くなっていく、声色も活気づいているな。


「お産の疲れや痛みがきれいさっぱり無くなりました、それどころか健康で元気そのものです!」


めちゃくちゃ元気になったメアリー、効果があってよかった。


「元気になってくれてよかった、でも無理はしないようにな。

 早速で悪いんだが、ちょっと赤ちゃんを見ててくれないか?

 ベッドとかおもちゃの準備を何もしてないのに気づいてな、取り急ぎベッドを作るため材料を運んでくるから。」


「そういえばそうでしたね、開様も忙しかったですから。

 赤ちゃんは任せてくれて大丈夫ですよ。」


メアリーに赤ちゃんを抱いてもらい、ケンタウロス族のところへ行ってオムツ・服・布団を分けてもらう。


「私たちが運びますよ。」と言ってくれたのでお言葉に甘え、そのまま倉庫へ行ってベッドの材料も一緒に運んでもらった。


甘えてすまない。


「元気そうで可愛い赤ちゃんですねぇ!」


一通り運んでもらってケンタウロス族に赤ちゃんをお披露目する、運んでもらう途中見たいって言ったから喜んで見せることに。


赤ちゃんって可愛いよなぁ、前の世界ではそんなことほとんど思わなかったのに我が子となるとここまで印象が変わるのかと思う。


しかし、よく考えたらこの村に住んでる子どもは可愛いと思ってたな、もしかしたら子ども自体をあまり見なかったからそう思っていただけかもしれない。


メアリーとケンタウロス族が赤ちゃんを抱いて談笑している間に、俺はベビーベッドを想像錬金術イマジンアルケミーで作ることに。


我が子に最初に送るものを手軽に済ませていいのかと思ったが、下手に手作りをして寝てる途中に壊れてしまっても危険だからな。


今までどんなものを作っても不都合なく使えてた想像錬金術イマジンアルケミーに軍配が上がった、安全性は大事なのである。


サクッとベビーベッドを作り、ケンタウロス族にもらった布団を敷いて完成。


「よし、出来たぞ。

 赤ちゃんをベッドに寝かせてみてくれ。」


メアリーを呼び、赤ちゃんをベッドに寝かせてもらう。


「可愛いですねぇ……。」


「そうですねぇ……。」


2人とも赤ちゃんにメロメロ状態だ、いや俺もそうなんだけどな……可愛いよなぁ。


「ところでメアリーさん、ついさっきお産が終わったんですよね?

 めちゃくちゃ元気ですが、何をされたんですか?」


「開様が作ったポーションを飲んだんですよ、飲んですぐにもうばっちり元気に!」


それを聞いたケンタウロス族が驚きの顔をする。


「村長のポーション、お産直後のダメージにも効果があったんですか!?

 グレーテさんは悪阻を緩和出来て、村長はお産直後のダメージを回復出来て……この村での出産は世界一安全で快適かもしれませんよ。」


そこまで言うか、でもそう言われて嬉しい気持ちもある。


繁栄していく上で大切な子作りが安全で快適なのは大事なことだよな、住みやすい村になってくれているのは村長としてとても嬉しいんだ。


「ところで、赤ちゃんのお名前は決めたんですか?」


「いや、まだだ。

 これからメアリーと話して決めようと思っているよ。」


「あら、それなら私はお邪魔でしたね。

 存分に村長とメアリー様の赤ちゃんも堪能させていただきましたし、これで失礼します。」


そう言ってケンタウロス族は帰っていった、いろいろ運んでくれてありがとな。


「では早速ですが、私たちの子どもの名前を考えましょうか。

 ある程度候補も考えていたので、それを聞いてもらってからでもいいですか?」


もちろんだ、俺も色々考えてたんだがいい案が思い浮かばなくてな……メアリーの候補を聞かせてもらっていいか?




そうして話し合って数時間、赤ちゃんはずっと眠っているが陽はとっぷりと落ちてしまった。


「では、私たちの子どもの名前はカールに決定ということでいいですか?」


「あぁ、色々考えたがそれがいい。

 俺が前に居た世界でもその名前の人が世界的な平和賞を受賞してたし、この村を平和にするという意味も込められてるから。」


「カール、これから目いっぱい愛情を注ぐから元気に育ってね。」


ベッドで寝ているカールに話しかけるメアリー、すっかり母の顔になっている。


名前を呼ぶと目を覚まし、大声で泣きだしてしまった……気に入らなかったのか!?


「オムツの取り換えとお腹が空いたのですかね、一度授乳してからずっと寝ていたので。」


よく考えたらまだ産まれたばかり、言葉を理解出来るはずもないよな。


そうして手際よくオムツを取り替え、授乳するメアリー……初めてのはずなのにえらく手際がいいんだな。


疑問に思い聞いてみると、ケンタウロス族やウェアウルフ族のところで練習させてもらっていたらしい。


今度俺もその練習に行くことにしよう、父親としてオムツの取り換えが出来ないのはダメだと思うし。


だが魔族領の会議にも参加しないといけないしな……まぁ参加するのを伝えてその日程以外は練習させてもらうとするか。




次の日の朝、カールをメアリーにお願いして魔族領に顔を出した。


城まで行って謁見受付の人に声をかけ、会議の日程を聞く――3日後の昼に会議が行われるらしい。


参加する旨を伝えて村に戻ると、ケンタウロス族が歩いていたのでオムツの取り換えを教えてくれと言うとオムツを作っている場所に連れて来られた。


そこに木で作った赤ちゃんの人形があったので、親切丁寧に教えてもらう……案外難しいんだな。


これを手際よくやっていたメアリーはたくさん練習したんだろうな、俺もちゃんと出来るようにならないと。


「村長もすっかりお父さんですね。」


カールが産まれたのを見て実感が湧いたから、メアリーより親としての意識は低いのは確かだけどな……俺も立派に父親をやりたい。


昼食前まで練習をして、今日のところは家に帰る。


カールも寝ていたので久しぶりにメアリーと一緒に食堂へ行くことに、お腹も小さくなってポーションで元気になったメアリーは、久々に小走りをして嬉しそうに食堂へ向かっていた。


明日からは狩りにも参加するらしい、元気になったのはいいが本当に無理はするなよ?


食堂でカタリナとウーテとも合流し、祝いの言葉を受けながら食事を共にした。


2人も子どもが欲しいって?


……することはしてるし、授かりものだから待ちなさい。

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