第87話 また魔族領の会議に参加したが、大変なことになりそうだ。

魔族領で行われる会議の前日。


プールも完成したしセメントの在庫も充分、当初の予定通りこの村の住居の基礎を大幅に強化することにする。


でも、鉄筋コンクリートって鉄で骨組みのようなものを組んで板で仕切り、そこにコンクリートを流し込むんだっけ……鉄の在庫も必要だったな。


ドワーフ族に聞いてこよう、足りなかったらまた今度にするか。


「鉄の在庫なら腐るほどあるぞい、ダンジョンから無限に採掘してくれるから仕方なく銑鉄して……ほれ、あの倉庫いっぱい全部鉄じゃ。」


待て、俺の知らない倉庫が建ってるしこの中身が全部鉄だと!?


呼んでくれれば倉庫の増設くらいしたのに、自分たちで解決出来るならそれでもいいけどな。


しかしこれを見る限り、魔族に売ってる武器や農具の分を差し引いても充分な量があるだろう、ありがたく使わせてもらうことにする。


ミノタウロス族とケンタウロス族を呼んで鉄を運んでもらい、鉄筋コンクリートの基礎を使った家を思い浮かべる……よし大丈夫そうだな。


まずは手初めに俺の家からだ、想像錬金術イマジンアルケミーを発動させる前にメアリーとカールは外に出てもらった。


そして発動、材料が減って家も変わらずそのまま……よし成功だな。


念のため内装にも変化がないか見ておく、特に変わったところも不備も見当たらない――この調子でどんどんやっていこうか。


俺は大きめのショルダーバッグにポーションを詰め込み、村にある住居や倉庫にどんどん鉄筋コンクリートを設置していく。


休憩をところどころ挟みながら、2時間と少しで今村にある建物すべてに基礎の追加が出来た。


これだけやってもコンクリートは在庫の半分とちょっとしか使ってないな、鉄はそれ以上に余っている。


しばらくは生産速度を落としても間に合うだろう、ドワーフ族にいつものペースに戻してもらわなくては。


「ご苦労様、余った鉄とコンクリートは倉庫に戻しておいてくれ。

 俺はドワーフ族に素材の生産速度の調整について話してくるから。」


「分かりました。」


そう言ってケンタウロス族とミノタウロス族の2人と別れ、ドワーフ族とコンクリートの生産速度を落としても大丈夫だと伝える。


これで地震が来ても簡単に建物は倒壊しないだろう、とりあえず一安心だ。


日が暮れるまでもう少し時間があるな、またオムツの取り換えの練習に参加させてもらうか。




日が暮れるまで練習をし、今日はここまでということで解散。


家に帰るとメアリーとカールが居ない、どこかに出かけてるのだろうか……そう考えて1時間ほどすると2人とも帰って来た、どこに行ってたんだ?


「すみません、お伝えしてなかったですね。

 私は狩りへ参加して、その後ブランクを取り戻すため鍛錬所にいたんです。

 その間カールはウェアウルフ族の奥様方へ一時預けていたんですよ、鍛錬を終えてカールを迎えに行って今現在ですね。」


そうだったのか、狩りに行くとは聞いていたが鍛錬所は知らなかったな。


俺も少し疲れてるしメアリーも汗をかいてるだろう、3人でお風呂に行くことにしようか。


お風呂と食事を終えて就寝、カタリナとウーテが相手をしてほしそうだったが、明日は魔族領で会議があるので断らせてもらった。


埋め合わせは絶対するから、今日は許してくれ。




次の日。


俺は魔族領の城に来て会議に参加している……なぜかメアリーも一緒に来ているが。


「私は魔族領に来たことがないので顔見せも兼ねてです、それに私は開様の補佐ですから!

 今日の会議で何か助言出来ることがあればと思いまして、内容は聞かないとわかりませんけど。」


俺も内容は知らないんだよな、事前に資料が欲しいが国家機密なこともあるだろうし簡単に資料を外部に渡すことも出来ないんだろう。


「村長も急だったが参加してくれて助かるのじゃ、そちらは村長の奥方のメアリーさんじゃったの。

 妊娠しておったと聞いてたのじゃが。」


「あぁ、つい先日産まれてな。

 元々妻である前に俺の補佐役だから、今日は会議に参加してもらっている。」


俺がそう言うと全員がどよめきだした。


「お産直後でここまで元気なのはものすごいですな……。」


「俺が作ったポーションが効いてな、それで元気なんだよ。」


「なるほど、流石未開の地の村の村長……。」なんて感心されている、ちょっとむずがゆい。


「まぁこの話はそれくらいにして、会議を始めるのじゃ。

 会議が終わった後、世間話に付き合ってもらうがの。」


それは構わないぞ、でも俺が呼ばれる時ってことはまた何か困ったことでもあったんだろうか。


応えてあげることが出来ればいいんだけどな。


「つい1週間ほど前じゃが、外務を担当している大臣から通達があってな。

 人間領から石油を輸入しておったのじゃが、向こうが今後輸出を一切行わないと言ってきての……こんなことは初めてで困ってるのじゃよ。

 何か代替案があればと思って村長に来てもらったのじゃが……何かあるかの?

 もちろん代替案についての支払いはきちんと行うのじゃ。」


なんてナイスタイミングだ、これで遠慮なく技術者を村に派遣してもらうことが出来るぞ。


「村で石油はいくらでも採油出来るから、魔族領に流すことは出来る。

 だがその見返りとして石油を取り扱える技術者を村に派遣してくれないか?

 現状俺の想像錬金術イマジンアルケミーでしか使い道が無くてな、燃料にするにもどうすればいいか知識が無いんだよ。」


俺がそう言うと魔王と大臣全員が俺に寄り添ってきた、なんだどうした。


「村に行ったときは石油を取り扱ってるように見えなかったのはそういうことじゃったか!

 すぐに石油取扱技術者を村に向かわせる準備をさせよう、その者に任せておけば石油に関しては何でもしてくれるはずじゃからの!」


それはありがたい、精油なんかも俺の想像錬金術イマジンアルケミーで出来るんだろうがどのくらいの量をすればいいか全く見当もつかないし。


魔王に指示された大臣と衛兵が技術者を呼びに行き、会議は一時中断。


「まさか代替案どころか石油そのものがあるとは思わなかったのじゃ。

 しかしよく石油を掘り当てたの、滅多に見つかるものではないのじゃが。」


「ダンジョンコアに頼んで出してもらったんだ、俺は想像錬金術イマジンアルケミーでしか使うつもりがなかったんだが……氷の季節に部屋を暖かくする燃料にも使えると思ってな。

 一応大惨事にならないようなところで保管はしてるが、そういうのも含めて技術者が来てくれるのはありがたいよ。」


俺がそんな話をしていると、メアリーは何か難しい顔をしている……俺なんか変なこと言ったか?


「魔王様、ちょっとお尋ねしたいのですが。

 今まで魔族領が消費する石油を輸出していた人間領が、いきなりそれを止める理由はなんなんでしょうか?

 人間領にとっても相当な利益を出していたはずですし、簡単にやめると思えないのですが。」


確かに、それはそうだよな。


「それは私からお話ししましょう。」


そう言ったのは外務を担当している大臣だった。


「人間領はこちらが輸入している品の値上げを要求していたのです。

 最初は必要なものだったので応じていたのですが、値上げされるだけだとこちらが苦しくなるというのが会議で出まして。

 こちらから輸出しているものも値上げをすると、人間領に伝えるとばっさりと石油の輸入を切られたのです。」


メアリーはそれを聞いてまた難しい顔をして考え出した……何かあるのか?


単純に支払いをケチりたいと思ったが、それだと儲け頭である石油の輸出を取りやめることに筋が通らない――恐らくメアリーはその先を考えているのだろう。


「僭越ながら意見申し上げますと、念のためですが魔族領の防衛強化をオススメします。

 私の読みが正しければ人間領は交流の断絶を申し出て、それからしばらくして攻め入ってくる可能性まであります。

 どう考えても魔族領を疲弊させようとしているようにしか思えません。」


「なんだと、というか何のためにだ。」


俺がメアリーに疑問を投げかける、いい取引先をそうまでして潰す意味がわからない。


「簡単ですよ、魔族領が気づいてなくて人間領が気づいている有益なものがあるので、侵略して手に入れようとしているのでしょう。」


村の石油を上手く活用出来ると思って喜んでいたが、それどころではなくなりそうだ。


メアリーの意見を参考にもう少し会議を延長することが決定した……これは帰るのが遅くなりそうだな。

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