第77話 魔族領で色々話をしてきた。

魔族領に入ると倉庫には満タンになりすぎない程度の食糧が入っていた。


「この倉庫の食糧の減りは前より少なくなったか?」


倉庫の警備をしているウェアウルフ族に聞いてみると「当初よりは少し減少したと思います。」とのこと。


少しずつ農村の作物が流通し始めたということだな、それなら少し値上げの交渉もしていい……村の作物のほうが美味いらしいから値段で差をつけて農村の作物も買ってもらわないとな。


確認を終えた俺はギュンターに会うため商人ギルドを目指す、アポ無しで行って会えなかったりしないだろうか……相手はギルド長だし。


少し悩みながら歩いてると商人ギルドに到着。


「突然の来訪申し訳ない、ギルド長のギュンターに繋いでほしいんだが。」


受付らしき人に声をかけてみる。


「アポイントメントはお取りでしょうか?」


あ、やっぱりそうなるのか……そりゃギュンターだって誰彼対応なんてしていられないよな。


「いや、アポは取ってない。

 なら未開の地の村から開が来たとだけ伝えておいてほしい。」


俺がそう言うと、受付の顔色が青くなり明らかに慌てだした、どうしたんだ?


「開様とは知らず申し訳ございません!

 すぐにギルド長をお呼びしますので少々お待ちください!」


俺は商人ギルドでどんな扱いをされているのだろう、危険人物になった覚えはないんだが……。


しばらくするとギュンターが慌てて俺のところへやってくる。


「これは村長、受付が無礼をしたらしく申し訳ない。

 しかしこちらへ来られるとは珍しい、何かありましたかの?」


無礼なんてしてないから安心してくれ。


「何個か案件はあるが、お金も絡むしどこか部屋で話を出来ないか?」


小声で耳打ちすると、ギュンターは頷いて「第2応接室を使う、準備を。」とギルド員に指示を出した。


「しばらくお待ちくだされ、すぐに準備が整うはずですので。」


「それはいいが、俺の扱いって危険人物的な扱いなのか?

 受付の人にものすごい怖がられたような気がするんだが。」


俺がそう言うと、ギュンターは大笑いして首を振る。


「村長が危険人物なんてとんでもない、魔族領を救ってくださった――いわば英雄のような方。

 しかも質の良い食糧を仕入れてくださって、商人ギルドにとっても最重要人物として扱っておるだけですぞ。」


そんな大層なものじゃないけど、俺の力で助かったというのだから好意は素直に受け取っておこう。


それに魔族領からも商人ギルドからも、俺が欲しいものを買っているから対等だと思っているし。


「お待たせしました、応接室の準備が整いました。」


「わかった。

 では村長、こちらへ。」


俺はそう言われてギュンターについていく……そう言えばいつの間にか村長呼びになってるな、気づかなかった。


特に気にすることでもないんだけど。




「では要件を伺いましょう。」


「まずは魔族領の農村から作物が入荷し始めていると思う、それに伴って俺の村から入荷した作物の値段の引き上げを行ってもらいたい。

 前にも言ったが農村の人たちの仕事を奪うつもりはないからな、商品の差別化を図って農村の人たちが困らないようにしてほしいんだ。」


「分かりました、そのように手配いたします。

 こちらとしてもそのほうがより良い方向に行くと思いますぞ。」


一般魔族は安めのもの、ちょっとした贅沢や富裕層はうちの村の作物を買ってくれればいい。


最初は味に不満が出るかもしれないが、もし食べたいならもっと稼ぐしかないから生産性も上がるはずだ……多分。


「さて、まだ要件があるはずですが……。」


「ギュンターは魔術を使うことが出来るか?」


そう言うとギュンターはぎょっとした表情で俺を見る、そんなたじろがなくてもいいじゃないか。


「あ、あまり魔術は得意では無いのです……どちらかといえば算術と手腕でギルド長に就任させていただいてるものでして。」


そりゃそうだろう、商人を束ねるのに魔術なんて必要ない。


魔術が使えないとサンプルを使えないから聞いただけだぞ、安心してくれ。


「なら多少魔術を得意として、信用出来る魔族を連れてきてくれないか?」


ギュンターは少し考えて「少々お待ちくだされ。」と言って部屋を出ていった、俺はその間に出してもらった紅茶を飲む。


紅茶もいいな、酒と水ばっかりだったからたまに飲むとすごく落ち着く。


もしよかったらツケの分で少し買わせてもらおう。


「お待たせしました、冒険者ギルドのギルド長であるマルチンを連れてきました。」


あ、その人マルチンっていう名前だったのか……結局誰にも聞けずじまいだったがここで名前が分かってよかったよ。


「村長、久方ぶりでございます。

 ギュンターに呼ばれてこちらまで来たが、魔術が必要とか?」


「そうだ、この紙なんだけどな……うちの村の住民が作ったもので魔術が使える人が使うと生活魔術が使えるようになる紙なんだ。

 制限時間はあるみたいだが、その辺も含めてテストしてほしくて。」


「生活魔術というと、プラインエルフ族が使われているあのものすごく便利な魔術のことですかな!?」


ギュンターがものすごい食いつきだが、それで合っているぞ。


「それを、魔族領に流通させるおつもりで……?」


「そのつもりだが、誰でも手に入るルートに乗せるつもりはない。

 制限時間もあるしこの紙の制作は現在一人しか出来ないから、どうしても時間がかかるからな。

 だからまずはこの試作品を使ってみた感想を聞きたい、もちろん謝礼はする。

 感想を踏まえて料金や流通させる範囲を話し合って決めたいんだ。」


「それならよかったですぞ、倉庫の土地を確保して建築資材を集めてるところでしたので肝が冷えました。

 マルチンへの謝礼は商人ギルドで立て替えておきましょう。

 早めに頼んだぞ、重要任務だからな。」


「それは構わないんだが……生活魔術を説明してくれるプラインエルフ族を一人紹介してくれないか?

 流石に何があるかわからないのに使ってくれと言われても、どうすればいいか分からなくて困る。」


……そりゃそうだよな。


「すまん、今日中に連れてくる!

 要件はこの2つだ、今日の話はこれで終わりだが……マルチンはこの後どこに行けば会える?」


「しばらく特に何もないからな、ギュンターに呼ばれたからサボりだとも思われないだろうしここでお茶を飲みながらゆったりしているよ。」


真面目だと思ったけどサボったりするんだな、でもまぁ誰にも迷惑かけないならそういう時もないとしんどいか。


「じゃあ私は別の仕事にかからせてもらいますぞ。

 マルチン、あんまり長居しすぎるなよ――村長が戻られるまでは好きにして大丈夫だがそれ以降のお茶は代金を徴収するからな。」


2人のためにも早めに戻ってこよう……。




30分とちょっと経ったくらいでプラインエルフ族を連れて戻り、紙に記録されている生活魔術の説明をしてこの場は解散。


俺だけだとどうも詰めが甘いな、これからはもっと考えて行動するようにしよう……。

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