第76話 ダークエルフ族が村に助けを求めに来た

花の季節になって1ヶ月くらい経っただろうか、ラウラが妊娠してからクルトが哨戒に出ることが多くなった。


俺は用事が多くて居てやりたかったがそれが出来なかったが、クルトは一緒に居てやらなくていいのか?


「何かあるたびにオロオロしてしんどくなるから、外に出ててくれって言われた……。」


可哀想に、でもラウラも悪気があって言ってるわけじゃないだろうし。


代わりにケンタウロス族の経産婦がラウラに付いてくれているらしいから、それは安心だな。


だがしょんぼりして顔をうなだれたまま哨戒するなよ、何か飛んでたらぶつかるぞ。


今日も平和だ、と思いながら村を見回っていたら森側の入り口から銅鑼の音が鳴り響く。


久々に異常を知らせる銅鑼が鳴ったな、何事だ!?


俺がそう思って向かおうとすると、ローガーとハインツがすごい勢いで森の方向へ走っていった。


流石2種族の長、身体能力が凄いな。


遅れて俺も追いつくと、ボロボロになった褐色のエルフが足を引きずりながら村の近くまで歩いてきていた。


「大丈夫か!?」


ローガーがエルフを支え声をかける、声が出しづらいのか口元に耳を近づけて声を聞き取っているな。


「村長、ハインツと一緒にポーションを取ってきてください。」


わかった、すぐに行ってくる――ハインツ、倉庫まで頼むぞ。




ポーションを取ってきたのでエルフに飲ませると、スッと傷が治り顔色も良くなった。


「え、何ですかこの回復力は!?」


途端に元気になったのがびっくりしたのか、自分の体を早々と観察する。


「あ……助けていただきありがとうございました。

 私はダークエルフ族のノラと言います。」


「俺はこの村の村長をしている開 拓志、それとウェアウルフ族のローガーとケンタウロス族のハインツだ。」


自己紹介をすると、他種族が一緒に暮らしていることに驚きを隠せないというノラ。


確かに、俺が来るまでは他の種族は別々に住んでいたものな。


「他にもプラインエルフ族やドワーフ族、ドラゴン族も一緒に住んでる。

 それよりノラはどうしてあんなボロボロでこの村までたどり着いたんだ?」


「そうでした、助かったことへの安心と驚きで失念していました……。

 どうかお願いです、ダークエルフ族を助けてください……ギガースに里を襲われほぼ壊滅状態なんです……。」


ギガース――聞いたことない魔物だなと思ってローガーとハインツを見ると恐怖に満ちた顔でわなわなと震えていた。


そんなにヤバい魔物なのか?


「村長、今すぐオスカーどのをここへ呼ばせていただきます。」


討伐部隊の編成ではなく即座にオスカーを呼ぶのか、よほどまずい状況なのだろうな。


「わかった、オスカーを交えて話をしよう。」


ローガーがオスカーを連れてきて、ギガースの出現を伝えると目がキラキラしだした。


一人だけテンションが違う、ちょっと不謹慎なんだけどいいのか?


「ノラという者よ、我をダークエルフ族の里へ案内してくれ。

 我の力を持ってギガースを殲滅してやろう。」


なんか力に飢えた悪役っぽいセリフも言っちゃってるし、ローガー……これホントによかったのか?


「実際災害みたいな大きな魔物です、どこに住んでるかもわからないしいつ現れるかもわからない……そして現れたら天変地異かと思うほどの被害を出してしばらく居座るんです。

 ダークエルフ族の里は運が悪かったとしか言えませんが、この村にたどり着けたのは幸運でしょう。」


そんな大きな魔物が誰にもバレずにいきなり現れるなんてことがあるのか?


疑問はいろいろあるが、まずはギガースの討伐が最優先だろう……オスカー、任せたぞ。


ダークエルフ族の里も助けるための部隊も編成を頼み、俺は荷車なんかをドラゴンに括り付けるベルトを作ることに。


幸いドワーフ族が捌いた時に、動物の皮は全て保存してなめしの処理までしてくれていたらしい……頼んでなかったんだが流石だな。


村に居るすべての種族を何人か族長が選び復興部隊を編成、ノラには疲れているところ悪いが人命がかかっているのですぐさま出発してもらうことに。


「みんな、任せたぞ。」


「「「「「お任せください!」」」」」


そう言ってオスカー・ノラ・編成部隊はダークエルフ族の里に向かって出発していった。




皆が出発して空気が張り詰めていたのでちょっと一息、心配なのは心配だが俺がここにいて何かできるわけでもないからな。


ちらっと俺も付いていこうか聞いたけど即答で「だめです。」って言われたし……まぁギガースなんていう危険な魔物がいるからなんだろうけど。


それよりダークエルフって名前からして何か悪い奴のイメージがあったんだけど、全然普通だったし皆も特に何もなかったかのように接してたな。


「少し暗いところに住んでて肌が黒めだからダークエルフという種族の名前になっただけですよ、そこに悪意は無いですしダークエルフ族も気にしてないです。」


メアリーが教えてくれた、もう少しいい名前があったんじゃなかろうかと思ったが誰も疑問に思ってないならそれでいいか。


「しかしギガースなんて何十年も出現してなかったはずですが、本当に運が悪かったですね。

 何かが起こる予兆じゃなければいいんですけど。」


不吉なことを言わないでくれメアリー、不安になってしまうじゃないか……。


だが何か起きても村の皆が力を合わせれば何とでもなるさ、俺はメアリーにそう言って村の見回りをすることにした。




ぐるっと村を回ってみたが平和そのものだった、もう特にやることもないので魔族領側の倉庫もついでに見ようと向かっていると、クズノハに声をかけられた。


「村長、生活魔術の他に有用な魔術を持った者はおらぬかの?」


「この村で魔術を使って役に立ってくれてるのはプラインエルフ族だけだ、後は技術や力ばかりだからなぁ……しいて言うなら俺くらいか。」


ドラゴン族も魔術めいたものを使っているところは何回か見かけたが、あれは種族の特殊能力みたいなものだろう。


ドラゴンの種類によって出来ることも皆違うし。


「村長のスキルはダメじゃ、我は世界のバランスを壊しとうないぞ。」


神謹製だからな、誰彼構わず使えると確かにいろいろとダメなことになってしまいそうだ。


「しかし生活魔術だけじゃちとバリエーションに欠けるの……これを魔族領に売りに出してもらって貢献しようと思ったんじゃが。」


「この間言ってた時間制限にもよるが、生活魔術だけで十分需要はあると思うぞ。

 特に富裕層は金に物を言わせて楽をしようとするだろうし、ちょうど魔族領に行くところだったしギュンターと会ったら売り込んでみるから何枚かサンプルをくれ。」


俺はクズノハから生活魔術を書き込んだサンプルを受け取り、魔族領へ。


倉庫を見るだけのつもりだったが、これを機会に魔族領をじっくり見て回るのもいいかもしれないな。


そう思いながら俺は魔族領へ続く魔法陣をくぐって、魔族領へ入った。

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