第78話 魔族領を歩いていたらスラム街を見つけた。

魔族領から戻って1週間くらい経った、マルチンの意見をそろそろもらいに行ってもいいかなと思い再び魔族領へ来ている。


冒険者ギルドへ来てみたが、現在マルチンは留守らしい――なのでしばらく魔族領を散策することにする。


いつも用事を終えたらすぐ帰ってたから、あまりじっくり魔族領を隅々まで見たことなかったからな。


商店街、繫華街をチラチラ見回りながら抜けていくと、一気に寂れた……というか建物も何もかもボロボロな場所に出た。


ここからは魔王の施政が届いてない範囲なのか?


しばらく歩くと、座っている魔族の子どもを見つけたので声をかけてみる。


「いきなりすまない、俺は未開の地の村の村長なんだが……ここは魔族領の首都じゃないのか?」


「一応首都だよ、だけどここら一帯は貧富の格差で最底辺が住む場所なんだ。

 未開の地の村ってことは、この前食糧を配ってくれた人だよね……すごく助かった、ありがとう。」


よかった、見捨ててるかどうか心配だったが……あの食糧が届いてるということは認知されているんだな。


「何故稼ごうとしないんだ?

 ここに居ても何も変わらないし先が暗いだろうに。」


残酷なことだろうが自覚しているのかも兼ねて聞いてみる、ここから抜け出したい意思があるかどうかも重要だからな。


子どもにその自覚があるかどうかは怪しいけれど。


「おいらもお腹空かせてばっかりは嫌だよ、でも父ちゃんも母ちゃんもお金が無くて仕事も始めれないらしいし……怖い人が来て怒鳴りながらお金を持っていっちゃうんだ。

 魔王様が最低限の保護はしてくれてるから生きていくことは出来るけど……。」


小さい子ながらも現状をキチンと把握してるし、ここが嫌だという明確な意思もある。


現状を受け入れて精神が壊れてないなら救いようがあるな……よし。


「わかった、ちょっと魔王と相談してみるよ。

 もしかしたら待遇が良くなるかもしれないし、怖い人も来なくなるかもしれない……ちなみに怖い人の名前はわかるか?」


「うん、ハイノきんゆう……って言ってた気がする。」


ハイノ金融、やはり通貨が出回っている以上金貸しをする人は出てくるよな。


真っ当な金貸しならいいが、恫喝まがいなことをしてお金を持っていくということは十中八九悪徳金融だろう。


一応それが合法なのかは魔王に聞いてみないと分からないが。


俺は子どもに情報をくれたお礼を言って、城に向かって歩いていった。




「魔王に会いたいんだが、今時間は取れそうか?」


謁見の受付をしている人に話しかけると、俺を見るや否や「すぐに調整します、少々お待ちください!」と物凄い勢いで謁見の間まで走っていった。


魔族領で俺はそんなに重要人物扱いなのだろうか、やはり食べ物の恩は大きい……恨みもその分大きいけどな。


それから本当にものの数分で謁見の間まで通された、俺の前に謁見してた人の迷惑になってないか心配だ。


「村長一人でとは珍しいの、どうしたのじゃ?」


「マルチンに用事があったんだが留守で首都を散策してたらスラム街に辿り着いてな、そこで一人の子どもと話すことが出来たんだ。

 どうも借金が問題であそこから抜け出せないらしいんだが、魔族領の金貸しは恫喝も許可されてるのか?」


俺がそう言うと魔王は和やかな表情から、一気に真剣な表情へと切り替わった。


「スラム街には一定の所得以上になるまで免税をしておるし、生活費には困らぬ程度の補助金も出しておるのじゃが……一向に稼ぎが増えぬのはそういうことか。

 しかし聞き込みではそういった情報は得られなかったが……その金貸しが口止めしておったみたいじゃの。

 調べてみよう、情報提供感謝するのじゃ。」


口止めか……しかしいきなり城から調査が入るとスラム街の人に危険が及ぶかもしれないな。


「魔王、一時的にスラム街の住民を村に逃がしてやってもいいか?」


「どういうことじゃ?」


「もし暴行まがいで口止めされていたなら、いきなり調査が入ると住民が危ないかもしれないだろ?

 村に逃がしてさえしまえば絶対安全だし、何か情報提供が欲しいなら村の警備を付けて魔族領に行くさ。

 あ、ちなみに俺が聞いた金貸しの名前はハイノ金融って言ってたぞ。」


俺がそう言うと「なりませぬ!」と大臣らしき魔族が話に割って入ってきた、何か不都合なことがあったろうか?


「未開の地の村は今や魔族領に無くてはならない存在、そのような地に礼儀も知らぬスラム街の住民が行って無礼を働けば目も当てられませぬぞ!」


「何だそんな事か、気にしないし魔族領との友好関係も止めるつもりはないから気にしなくていいぞ。」


それを聞いた大臣は「しかし……。」とまだ何か言いたげだったが魔王に睨まれて口をつぐんだ。


「村長が良いと言っておるのならいいのじゃろう、それを防ぎながら調査することも可能じゃが確かに村に一時避難してもらったほうが確実じゃな。

 食糧から始まり色々世話になりっぱなしじゃが、よろしく頼むのじゃ。」


「大丈夫だ、食事を提供する代わりにちょっとした仕事をしてもらうかもしれないけどな。」


子どもを見る限りかなりやせ細っていたから、きっちり食事をして動けるようになるまでは何もしてもらうつもりはないけれど。


魔術の才能があればクズノハの紙を使って生活魔術で手助けしてもらうくらいはいいかもしれないな。


クズノハの紙って呼びづらいな、名前あるのかな……勝手に付けていいのだろうか。


まぁそれはいい。


「それは構わぬよ、村の食事とは私が羨ましいくらいじゃが。

 では大臣、この件について調査隊を組み明日スラム街へ向かってくれ。

 村長は急がせて悪いが、何かあってからでは遅い……今日のうちに村への避難を頼むのじゃ。」


「任された、俺が言い出したことだしな。」


「御意。」と大臣は謁見の間を一足先に出ていく、それからしばらくして城を出た俺は一度村へ帰り、ウェアウルフ族とケンタウロス族に付いてきてもらいスラム街へ。


スラム街の住民を集合させて、一緒に持ってきた荷車へ乗ってもらい村へと移動した。


「村長、妙な輩がこちらを遠目に監視していますが……如何いたしますか?」


やっぱりハイノ金融とやらの目はあったか、護衛を付けて避難して正解だったな。


「放っておいていいぞ、遠目で見る能力があるなら戦力差が分からないほど馬鹿でもないだろうし。」


そう言って住民の避難を敢行、全員無事に避難させることが出来た。


「あの……私たちは魔族領から捨てられたのでしょうか……?」


スラム街の住民から不安の声が挙がる、あまり説明することもなく「魔王の指示だ。」と連れてきてしまったし……そう思うのもしょうがないか。


「そんなことはないぞ、スラム街の住民から補助金を不正に取り立ててる金融業者を調査するにあたっての一時避難だ。

 皆の食事はこの村が持つ、まずはしっかり食事を取って体力をつけたら少し仕事をしてもらうつもりだからな、もちろん給金は出すから。」


俺がそう言うと住民の顔に笑顔が浮かんだ、安心したのだろう。


さて、皆の食事の準備と仕事の割り振りを考えなきゃな。

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