第75話 クズノハが技術革命を起こした。

ザスキアから相談を受けて1週間くらいが経った、魔族領からはこちらが提案した案で飲んでくれたらしい。


ただ土地と材料は用意するが建築はこちらでやってくれないか、と言われたのでそれは大丈夫だと伝えている。


想像錬金術ですぐだからな。


村はもう俺が何もしなくてもうまく機能するようになっている、クズノハがダンジョンコアを作ってくれたら何か新しいことをやってもいいかもな。


時間がかかると言っていたし、急かしても可哀想だから気長に待つとしよう。


見回りをしても特に変わったことも無く、至って平和だ……と思っていたらクルトがものすごい形相でこちらに向かって走ってきている。


どうした、何かあったのか!?


「村長……ラウラが!」


「落ち着け、ラウラがどうしたんだ?」


「ラウラの顔が真っ青になって倒れちゃって……どうしよう……。」


何か病気か、それとも他に何か原因があるのだろうか。


「クルト、俺はシモーネを呼んでくるからお前はラウラの傍にいてやれ。

 すぐに行くから、布団を敷いて楽な姿勢で寝かせておいてやれ。」


「わかった……!」


クルトはすごい勢いで家に向かって走っていった、俺もシモーネのところに急がなきゃな。




「この姉妹は似てるのかしらね、おめでたよ。」


妊娠してたんだな、でも何も無くて良かった。


ラウラとクルト、おめでとう!


「クルト、ラウラどのが妊娠したとな!

 はっは、ワシもついにおじいちゃんか!」


オスカーがめちゃくちゃ嬉しそうだ、クルトは一人息子だし孫を早く見たかったんだろうな。


「お騒がせして申し訳ないです、グレーテさんの魔術で大分楽になったのでもう大丈夫ですよ。」


「魔術も完治させるわけではないですからね、無理はしないでくださいよ。」


グレーテがラウラにくぎを刺す、きれいさっぱり治るなんてことはないだろうから確かに無理は禁物だ。


「シモーネ、妊娠中は魔術の使用は控えたほうがいいのか?」


「そうねぇ、極力控えたほうがいいと思うわ。

 特にラウラさんの索敵魔術は広い範囲を気にしなきゃダメだろうし、赤ちゃんのことも考えなきゃで精度も出づらいし体の負担になってしまうかも。」


産まれるまでは索敵魔術は使用禁止だな、しかし村の警備の精度が少し落ちてしまう。


「ドラゴン族が空の哨戒もしているし、オレイカルコスとドラゴン族の素材の武具で武装してる警備もいるんだから大丈夫よ。」


「そうです、最近は大きな敵意も感じてないですし大丈夫ですよ。」


それならいいんだが、やっぱり皆が俺を慕って集まってくれてる以上何かあったら責任を感じるんだよ。


何とかしなきゃとは思うが、索敵魔術を使えるのはラウラしかいないし……こればっかりは皆に頑張ってもらうしかないのかもな。


まぁそんな話はまたにして、ラウラの妊娠をちゃんと祝ってやらないとな。


その夜は宴会になった、ラウラはメアリーに何をすればいいか色々相談している、ここ最近は姉妹離れて過ごしていたから2人が並んでいるのを見るのは久々だな。


それぞれ家庭を持ってるから仕方ないと言えば仕方ないんだけれど。


「村長、我も相談があるのじゃが……明日我の家に来てくれんかの?」


男だけで集まって飲んでいると、クズノハが後ろから服を引っ張りながら話しかけてきた。


「あぁいいぞ、なら明日朝食を食べ終わったらそっちに行くよ。」


「うむ、待っておるのじゃ。」


クズノハがそう言って去ろうとしたら周りの男衆に捕まって一緒に飲みだした。


しばらくすると、ぐでんぐでんになった男衆とあっけらかんとしたクズノハが……お酒強いんだな。




宴会を終えて朝、朝食も食べ終わりクズノハの家へ。


「来たぞ、相談ってなんだ?」


「おぉ村長、待っておったぞ。

 相談なんじゃが……羊皮紙か紙なんぞはこの村では作っておらんのかの?」


トイレに使う紙はちょくちょく作っているが……羊皮紙が出るということは何か書き記したいのだろう。


「特に必要に迫られてなかったからな、でも作ろうと思えば作れるぞ。」


俺がそう言うとクズノハの表情が明るくなる。


「そうか、よかったのじゃ。

 村に来て色々良くしてもらい、観察して我だけに何か出来ないかと考えておっての……妖術を使ってその者の使う魔術や妖術を紙に記そうと思ってな。」


妖術を使って記す、普通にペンで書くのではないのか?


「それだとただのメモと変わりないじゃろ、我も役立つことがないかと妖術の研究をしておっての……この妖術で書いたものは他の者でも発動出来るようになるのじゃ!」


クズノハ、さらっとものすごいこと言ってないか?


ラウラの索敵魔術の問題だけでなく、魔族領に生活魔術を普及させることも可能になってくるくらいの技術革新なんだが。


「ただし完全に習得するわけではないぞ、時間制限がある。

 それに作成には目的の魔術を使える者の協力も必要じゃ。」


なるほど、でも悪用されづらいし逆にその制限があったほうがいいかもしれないな。


「ちなみに紙があったとして、それの作成にどれくらいの時間が必要なんだ?」


「うーん、大体1枚あたり10分くらいじゃないかの。

 じゃから仕事の手が空いてる者が居たら作る感じになると思うぞ。」


頑張ればそこそこな枚数が作れる、という感じか。


しかしちょうどいいな、ラウラの索敵魔術が使えなくなったからその紙に索敵魔術を記して誰かに使ってもらえばいい。


「それは無理じゃ、ラウラどのの負担になる。

 作成中はずっとその魔術を紙に向けて使ってもらわなくてはならんからの。」


そうだったか、それは残念だが仕方ないな。


しかしその技術は非常に有用だ、紙は作って持ってくるから是非量産するようにしてくれ。


クズノハは「任せておくのじゃ。」と笑顔で返事をする、皆の役に立てそうなのがよほど嬉しいのだろう。


あんな笑顔のクズノハを見たのは初めてかもしれない。


紙を作るために想像錬金術用の倉庫へ、300枚作りクズノハに手渡す。


「まずはプラインエルフ族に声をかけて、生活魔術を使える紙を作ってみるのじゃ。」


「あぁ、いろいろ試作して実用化が出来そうならまた言ってくれ。」


「わかったのじゃ。」


これも魔族領に流通させれば需要は相当あると思うが……量産出来るものではないだろうし難しそうだな。


でも皆の役に立つことが出来そうで嬉しそうなクズノハを見れたので良しとする、もっと馴染むにはいい機会だろうし。


「そういえば、ダンジョンコアはいつごろ出来そうだ?」


「……忘れてたのじゃ。」


急がないけど、いつかは欲しいからそちらも並行してよろしく頼むぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る