第54話 魔族領に向かう。
大分日中も肌寒くなってきた、もうすぐ氷の季節だな。
氷の季節になると寒くなって辛いので、早く巨悪の魔人騒ぎの終息を伝えるのと、グレーテの頼みを聞くために魔族領へ行く準備を着々と進めている。
準備と行っても野菜・酒・衣服のサンプルと説明するドワーフ族とケンタウロス族の準備と、護衛部隊の編成だ。
よって、俺の準備は着替え程度で終わる。
向こうで風呂に入れないのは嫌なので、臨時の風呂を作るのとその布教のためにウーテも今回は参加してもらうことに。
村のような大浴場は無理でも、一人ずつ入るような風呂なら薪などを使って沸かせる作りを教えれるしな。
ウーテは未開の地から出たことはないらしく、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
「あの、花の季節まで行かないって言ってたのに大丈夫なんでしょうか?」
準備をしていたら、グレーテが話しかけてくる。
「事情が変わったしメアリーにも了解を得たから問題ないぞ。
グレーテにはもう少しこちらの村に居てもらいたいけど、大丈夫か?」
「それは問題ないです!
なんだったらずっと居てもいいかなって思ってますから!」
それはありがたいが、魔族領の生活もあるだろう。
まぁ本人の意思次第だからな、俺は来るもの拒まずのスタンスを崩すつもりはない。
「グレーテ、ここに来るまでの山越えはどんな感じだったんだ?
何か警戒するべきものや、地形の特徴とか……わかる範囲で教えてくれると助かる。」
「そうですね……地形は特に崖などはなくずっと地続きです。
斜面が急になると魔族領の魔物が生息してると思いますよ、そこまで行けばこの村の戦力なら安全は確保されるかと。
それまではこの辺りに居る魔物とそう大差はありません、一番肝を冷やしたのはオーガが3体居たことですかね……あのせいで私は引き返す選択肢を奪われましたから。」
なるほどな、しかしオーガなら警備部隊で問題なく討伐出来るだろう。
変わった魔物は居ないということだが、一応念を入れて準備してもらうよう警備部隊には伝えておこう。
平原の入り口の近くに魔法陣用に整地したところを見ると、ミハエルが魔法陣を書いてくれていた。
もう村側の準備は整っているのか、聞いてみないとわからないな。
「やぁ村長、転移魔術の魔法陣と魔力の注入は終わってるよ。」
聞きに行こうと思ったら向こうから答えに来てくれた。
「早い仕事で助かるよ、後は魔族領側に魔法陣を書いて魔力を注入すれば転移魔術の完成ということでいいのか?」
「うん、その解釈で間違いないよ。」
なるほど、なら後は出発して向こうで魔法陣を展開する場所を決めれば大丈夫だな。
しかし、誰彼構わず魔法陣を利用してこちらに来られても困るな……パスポートのような割符を作って要人にだけ配るようにしておこう。
転移魔術で人員交代は楽に出来るので、ウェアウルフ族やケンタウロス族に交代で番をしてもらうように頼まなくちゃな。
向こうへ行く準備は出来た、後は村に必要なものを多めに作り置きしておいたほうがいいな。
まずは食糧。
「特に問題はないがのぉ、長期になる可能性もあるなら貯蔵庫を満タンまでお願い出来るかの?」
大丈夫だぞ、そうなると思ってカタリナを呼んできているからな。
生活魔術で種蒔きと収穫、俺は成長を手際よく行って、手が空いてた人に貯蔵庫に運んでもらった。
ミノタウロス族が田畑を広げてくれていたおかげで3回繰り返しただけで終わった、まだ目標の広さまでは達してないがものすごく助かっている。
次に警備部隊や狩り部隊の武具。
予備の補充と、使用している武具が痛んでいるものはドワーフ族が作ったものと
ここまでの作業でポーションを10本は飲んでいるから、ポーションもある程度作り置きしておいたほうがいいな。
と、いうことで引き続きカタリナに素材の草の種を蒔いてもらい成長させる。
ポーションは収穫しなくても生やしたまま素材に出来ることが少し前にわかったからな。
100個ほど作って棚に保管する、出発する時に何本か持っていくことにしよう。
出発への準備が終わり、明日村を発つことが決定。
魔族領への長期滞在になるかもしれないので、先日の宴会とまでは行かないが村全体で集まって食事をする。
俺も含めて皆家族や仲間と離れることになるからな、最後の別れではないが寂しくなるのが普通だ。
俺は妊娠したメアリーにあまり構ってやれず、申し訳なさと寂しさが募っている。
「大丈夫ですよ、気にしないでくださいね。」と言われているが、気にしないほうが無理だ。
まぁそういう気持ちを少しでも解消するためにこういう食事会を開いたんだけどな、貯蔵庫は満タンにしてるからこれくらいは問題ないらしいし。
しばらく村の食事が食べれなくなるからな、ちょっと無理してでも少しでも多く味わおう。
朝。
昨日は食べ過ぎてしまい少し苦しい、お酒は控えめにしたから体調は大丈夫だけどな。
ミハエル・グレーテ・ウーテを含めた皆も準備が終わり、ケンタウロス族が引いてくれる荷車に荷物を詰める。
皆から見送りをされ、いざ魔族領へ出発だ。
道中、街道も敷いておくと帰りが楽だと思い、グレーテに道案内をしてもらいながら街道を敷いていく。
「村長、その能力すごいね……。」
そうか、ミハエルの前で何かを作るのは初めてかもしれないな。
「神からもらったスキルだからな、このおかげで皆と出会えて今の生活があるから助かっているよ。」
「神様ねぇ、私は無神論者だったんだけど考えを改めなきゃダメだなぁ。
村に戻ったらプラインエルフ族に神の崇め方を聞こうかな。」
カタリナを始め、若いプラインエルフ族から感謝の言葉をもらうくらい簡易的になったらしいから聞いてみるといいぞ。
「いやー、未開の地に来た時は一人で死ぬほど心細かったんですけど今はそんなことないですね!
頼れる仲間、十分な食糧、やっぱり冒険はこうでなくっちゃね!」
グレーテが小躍りしながら先頭を歩いていく、あんまりはしゃぐと転ぶぞ。
そんなグレーテを見て、ミハエルが少し難しい顔をしていた。
「体調が悪いのか?」
そう聞いてみると「ううん、昔を思い出しただけだから。」と軽く流された。
実際顔色はいいので深く掘り下げることはしないでおく、いくら村の住民になったからといって話したくないことだってあるだろうしな。
それ以上聞かずに歩いていると、突然ウーテが歩みを止めた。
今度はウーテか、どうした?
「ねぇ村長……私とんでもないことに気づいちゃったかもしれない。」
「なんだ、そうまで言うなら大事なことなんだろう。
何に気づいたんだ?」
ウーテは難しい顔をしながらこう言った。
「あのね……村長・グレーテさん・ミハエルさんの3人を含めた少人数がドラゴン族に乗って魔族領に行ったあと、ミハエルさんが転移魔術を展開出来ればもっと時間が節約出来たんじゃないかなぁ……って。
この遠征、歩きだとまだまだかかるでしょ?」
……。
なんで気づかなかったんだ、すぐ村に戻るぞ。
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