第55話 魔族領の首都に到着したが、ミハエルの様子がおかしい。

ウーテの助言を得て急いで村に戻り、部隊を再編成して空から魔族領を目指す。


なんで誰も思いついてなくて止めてくれなかったんだと思ったが、「陸路の確保も兼ねているのかと思ってました……。」とメアリーが言ってた。


まぁそれも無しではないが、グレーテの話を聞く限り未開の地の魔物のほうが強いらしいし、魔族領の冒険者が気軽にこちらを目指しても危険だからやめたほうがいいだろう。


魔族領との交流を目的としているわけではない、あくまでこちらにない食料の確保と可能なら技術の確保だからな。


ケンタウロス族は一時村で待機してもらい、グレーテ・ミハエル・デニス、ドラゴン族はオスカーとウーテにお願いした。


ミハエルには悪いが、オスカーが居れば巨悪の魔人関連の質問は何とか往なせそうだと思ったからな。


改めて出発し、グレーテとウーテの案内を頼りに空から魔族領へ向かいだした。




出発して3時間も経たなかっただろうか、山を越え魔族領に入ったとグレーテから告げられる。


早かったな、陸路から空路に切り替えて正解だった。


「そうだ、ミハエルに聞きたいことがある。

 一度繋げた魔法陣を消して、別の場所に魔法陣を再設置することは出来るのか?」


「うん、それは大丈夫だよ。

 でも大っぴらになってない魔術だからあまり目立つところには設置しないほうがいいと思う。」


そうなのか、まぁ確かに普及しているならグレーテはここまで危険を冒して調査にも来ないだろうな。


設置・撤去・設置と繰り返していけば比較的安全に冒険が出来るわけだし。


しかし目立たないところとなると、目指している首都の外で目立たないところに一度魔法陣を設置してもらうか。


「ウーテ、首都が見えて少しした辺りから近くまで歩いて、目立たないところで魔法陣を一度設置する。

 いいと思うところで一度降りてしてくれ。」


ウーテはこくりとうなずいて返事をした、そういえばウーテがドラゴンの姿になって鳴いたところを聞いたことがない。


まぁ鳴かないだけかもしれないし、気にすることでもないか。




首都が目視出来るところで降りて、徒歩で首都を目指す。


ある程度整備された街道があるので、それに沿っていけば首都に着くのだろう。


「グレーテ、首都の近くに人が滅多に来ない目立たない場所ってないか?」


「んー、首都の周りはルーキーの冒険者の狩場にもなってるので難しいんじゃないでしょうか……。

 あ、とりあえず開通させるなら私の拠点に魔法陣を書きますか?」


そうか、ここに住んでたんだから家があるのも当たり前か。


「村に書いてた魔法陣と同じ大きさが書けるならそれでいいけど、そうじゃないならダメだよ。

 転移魔術は双方の魔法陣の大きさが均一じゃないと転移時に不具合があるかもしれないし、魔力が安定しなくて壊れてしまうかもしれない。」


そうだったのか、案外難しいんだな。


まぁ人や物を一瞬で別の場所に移動させるんだから、いろんな制約があって当然か。


「うーん、あの大きさの魔法陣が書けるほど広くないですね……。」


仕方ないが残念、別の案を考えよう。


「とりあえず転移魔術を展開して、村から見張りを呼ぶのはどうだ?」


オスカーからの案。


どうしても大きくなるから完全に目隠し出来ないし、してもどうしても目立つ……騒ぎになっても困るからなぁ。


「一旦首都に入ってから考えてもいいんじゃない?」


ウーテからの案。


それでいいな、とりあえず首都に行って用事を済ませよう。


「よし、とりあえず首都に入ろう。

 まずはグレーテの用事から済ませるか、行くのは冒険者ギルドでいいのか?」


「はい、それで大丈夫です。

 その後に魔王様と謁見があるかもしれませんが、皆さん大丈夫ですか?」


グレーテがそう言うと、ミハエルの表情が強張った。


「ねぇ、魔王様って即位されてからどれくらいかわかる?」


ミハエルがグレーテに尋ねる。


「つい数年前に即位されたばかりです、先代魔王様は一線を退いて相談役でいらっしゃるとお触れがありましたよ。」


「なら、その先代はどれくらい魔王をされてたのかしら?」


「かなり長い期間されてたと伺いました、何でも数百年とか……。」


ミハエルの顔から冷や汗が止まらなくなってる、大丈夫なのか?


「オスカー、私が暴れてからどれくらい経ったか覚えてるかしら……。」


「その魔王が王権を持っていた時代と被っていると言っておこう。」


「やっぱりねぇ……。」と言いながら首をうなだれるミハエル、先代魔王と知り合いなのか?


「うーん、まぁ魔王様との謁見の時に話すわ。」


そう言ってミハエルはいつもの調子に戻る、先に知っても後に知っても変わらないだろうしミハエルがそう言うならそれでいい。




首都に着いた、グレーテが警備の人に通門証を見せて俺たちの説明をしてくれている。


「すごいじゃないか、すぐに冒険者ギルドに行ってくださいね!」と警備の声、まぁ素性も知らない人を通すなら正直に話すしかないよな。


騒ぎにはあまりしたくなかったが、警備の人くらいならまぁいいだろう。


持ち場を離れて噂を広めるわけでもないだろうし。


「みんなー!グレーテさんが未開の地から原住民を連れてきたぞー!」


……。


持ち場を離れずに噂を広めてくれている、注目されるのは苦手なんだけどなぁ。


警備の人と注目してくる人だかりを尻目に、グレーテについていきながら冒険者ギルドに向かう。


「時間が経っても変わってないところは変わってないなぁ、懐かしい……。」


ミハエルは過去を懐かしんでいるようだ、生まれていきなり巨悪の魔人だったなんてことはないだろうから、昔はこの首都に住んでいたのだろう。




しばらく歩くと、少しいかつい人たちが多く集まっている大きな建物に着いた、ここが冒険者ギルドか。


グレーテが周りの人と軽くコミュニケーションを取りながら、冒険者ギルドに入っていった。


「こんにちは!

 グレーテ、未開の地の調査から帰りましたー!」


そう言うと、周りは「うぉぉぉすげぇぇぇ!」と湧き上がった。


そんなにすごいことなのだろうか、魔物は強いし氷の季節は厳しいがそれ以外は別に普通の土地なんだがな。


すると、受付の奥から筋骨隆々の男性魔族が出てきた。


「おぉグレーテ……無事に帰ったんだな!」


「なんとか、運が良かっただけだけどね。

 ギルド長、こちらが未開の地で村を興していた村長の開さん。」


「紹介してもらった開 拓志だ、よろしくギルド長。」


「こちらこそよろしく、今は魔王様への謁見の手続きを受付がしてくれてる。

 その間でいいから少し話を聞かせてもらってもいいかな?」


冒険者ギルドで証人になるのかと思いきや、ここには報告と謁見の手続きのために来ただけだったのか。


まぁ少し話すくらいなら何も問題ないけどな。


「グレーテがこうして戻ってきたということは巨悪の魔人は討伐できたのだろう。

 過去に情報や討伐の証拠を確認出来れば、魔王様に報告しろと通達があってね。」


まぁその話は気になるよな。


しかしミハエルは深いフードまで準備してるし、極力隠したいのだろう……どう答えたものかな。


「ギルド長の質問には私が答えるわ、村長もそのほうがいいでしょ?」


ミハエルが意を決したようにそう言って、フードを脱いでギルド長と向き合った。

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