第53話 別視点幕間:私が巨悪の魔人になるまで、そして今。

私はミハエル。


プラインエルフ族の里で回復を図って何年経ったろうか、10年、100年……いやもっとかな?


過去の私は生まれつき身体能力も魔力も高くて、向かうところ敵無し天下無双の勢いで冒険者をしていた。


魔王様も凌ぐ力を持っていると確信していたけど、皆から直に慕われる冒険者生活は決して嫌いではなかったんだよね。


そんな生活をしていたある日、新しいダンジョンが発見されたという報告が冒険者ギルドに届いた、先遣隊の話では魔物の種類も多く強いらしい。


護衛の依頼も特に無かったし、自分が負けるなんてこれっぽっちも思ってなかったので、受付に場所を聞いて単身ダンジョンに潜ることにした。


誰かと行ってもよかったんだけど、賭け事でちょっと負けが込んじゃって実入りが多くなるように……っていうダメダメな理由。


私の人生が狂っちゃったのは、このダンジョンに挑戦したことが原因だったんだけれども。




ダンジョンの中に入ると、確かに敵は上位種が多めだし種類も多い……ダンジョンの敵はコアの守り主の下位モンスターの割合が一番なのが普通だからこれはちょっとおかしい。


いつものダンジョンとは違う感じがかなりある、敵自体に苦戦はしなかったけどいつもより警戒心を強く持って潜っていった。


宝箱の中身はかなりいいものがたくさん、そしてミミックもたくさん……これは知能を持った性格の悪いヤツが守り主だろうなと確信。


道中には古代の遺跡でしか見たことがないトラップまである、小銭稼ぎに来たつもりがとんでもないダンジョンを引き当ててしまったなと思った。


しかし、こんな危険なダンジョンがギルドに知られている以上、私がさっさと攻略して他の犠牲者を出してはいけないと思い、攻略を決心。


大分深くまで来たなと思った所で、大広間の奥に最奥へ繋がるだろう扉を見つけた。


やっとか……と思ったのも束の間、今まで出てきた魔物の上位種のみで構成された大群が押し寄せてくる、どこまでも意地悪い作りだなぁ!


まぁそこまで苦戦はしなかったけどね、生まれ持った自分の力に感謝。


奥にある扉を開けると、守り主であろうヒトらしきものが立っていた……知性があるだろうと思った時点で魔物じゃないとは思っていたけどね。


「ほっほ、何者かが来たのは分かっておったがまさか単身とはのぉ……。」


文献で見たことある……妖狐というやつだろうか、尻尾の数が多いほど強い能力を持つという。


こいつの尻尾は3本、どれくらいの強さがあるかわからないがもっと強くなる前に討伐してダンジョンを無力化しないと。


「あんたがダンジョンコアの守り主か、こんな危険なダンジョンを野放しにするわけにはいかない、討伐させてもらうよ。」


「やってみるといい、出来るものならのぉ。」


魔術とは違うが、似たものを使ってこちらに攻撃してくる……しかし躱しきれないことはない!


躱せないものは武器で弾いて一気に距離を詰めて一閃、もらった!


手ごたえあり、しっかり首を獲った。


だが、次の瞬間身の毛がよだつことが起きた、落とした首が喋り出したのだ。


「ほっほ、長く生きてみるものだ……自身の力のみでここまで強い者がこの世にいようとはの。

 我の影法師をいとも簡単に倒すとは……どれ、我がその力を有効活用してやろうかの。」


そう言った瞬間にどす黒い霧が妖狐の首と体から吹き出し、私は気絶してしまった。




目が覚めたら会話はなんとか出来るだろうけど、破壊衝動が抑えられないくらい心の底から吹き出している……。


ダンジョンの魔物相手に全力で暴れながら外に出た私は、冒険者や村を手あたり次第襲った。


目に入るものほぼ全てを力の限り壊していった私に付いた名は<巨悪の魔人>、後から聞いた話によると世界最大級の災害をもたらしたらしい。


その後私を討伐しに来たであろうオスカーにボッコボコにやられた後は「ふん、これで終わりかの……。」という声と共に私の中から何かが抜けていき、破壊衝動も消えて行った。


そんなことオスカーは分かるわけもなく、トドメを刺しに向かってきたところで転移魔術を使いなんとか逃げ切ることが出来た、魔法陣も書いてないし出発点しか決めてないから魔力も相当消耗したしどこに飛ぶかもわからない。


相当な賭けだったけどあのまま死ぬよりマシだった、飛んだ先でプラインエルフ族という種族の里が魔物に襲われていたので、せめてもの贖罪も兼ねて助ける。


そこで全ての力を使い尽くしてしまった、プラインエルフ族が里で休むかと聞いてくれたが今までの破壊の記憶は残っているので怖くなり断る。


大丈夫だろうけど、また襲ってしまうと考えると怖くなったから。


私は自らの封印と回復を兼ねて、昔古文書で読んだ回復方法を試すことに。


プラインエルフ族には樹を守ってくれればそれでいいとだけ伝え、私は樹の中に自らの体を接続して眠りについた。




で、先日目が覚めて周りの気配を探ってたらプラインエルフ族がざわついてる。


見ない顔ばかりになっていたのでかなり時間は過ぎたみたいだ、他には……ドラゴン族?


私が入ってる樹を調査に来たみたいだ、意識を取り戻したのがわかったのかな……気配を探るのに魔力を使ったし。


というかこれ、魔力量は昔と変わってないけど攻撃魔術が使えなくなってる!?


使えるのは……生活魔術……?


便利だけど戦闘には絶対役立たない、これからどう生きて行こうか……。


意気消沈してたら、オスカーと誰かが私の処理についてものすごい物騒な話をしてる。


やめてー!私は安全だからー!


この魔力量なら思念は飛ばせる……魔力量まで変わらなくてよかったよホント……これ燃費悪いし滅多に見つからない言霊の精霊と契約してないとダメだから使えなくなるとショックだった。


私が危険だと思っているので契約魔術で隷属するのと、転移魔術の話を思念で伝えると人間が私を助ける方向に傾いた、よかった。


オスカーの村じゃなくて人間の村っていうのにはびっくりしたけど……ここから出るためと、これから生きるためなら背に腹は代えられないよね。




後日、ものすごい戦力を揃えられて私を解放する段階に入った。


全盛期の私でも抵抗できずに消し炭にされそうなんだけど、ほんとに村なのかな……。


なんて不安がっていたら私と接続してる樹が一気に消えて、めちゃくちゃ痛かった……傷を治して……え、契約魔術が先?


グレーテという魔族が契約魔術を使い契約成立、ポーションを渡された。


え、なにこの回復量と回復速度……おかしくない?


そんな疑問を抱いたまま、村長が宴を催すという宣言をして周りが一気に吠えたので気圧されて何も言えなかった。




そこから村に移り、宴会をして今に至る。


分かったことはものすごい快適で、ご飯が美味しくて、ものすごい戦闘力をもったのどかな村。


魔族領の戦力が昔の水準と変わってないなら、この村で一気に侵略できるくらい。


そもそもドラゴン族とデモンタイガーを3匹も擁している時点で天災を飼いならしているようなものだもん。


村長が魔族領に行く理由は食糧みたい、平和思考でよかったね魔王様。


さて、明日は村長に頼まれた魔法陣を書いておこう。


魔族領に顔を出すのは怖いから、ケンタウロス族に頼んで深めのフードを作ってもらおうかな。


巨悪の魔人だった私を受け入れてくれたんだもの、過去の贖罪にはならないかもしれないけど……ちゃんと馴染んでこれから役に立っていくぞ!

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