第3話 人生最大の危機、スキルで解決
声がだんだん近づいてきて、家の近くで止まった。
窓からそっと覗くと、家の目と鼻の先に魔物が2匹対峙している。
虎の魔物と、豚の顔をした魔物だ。
どう考えても友好的ではない。
虎の魔物は傷だらけで、豚の顔をした魔物はほぼ無傷で剣を持っている。
しばらくにらみ合うと、戦闘を始めた。
巻き込まれないか?もし巻き込まれたら命の危機では?
そう考えると家の隅で小さくなるしかなかった。
音を立ててはいけない、気づかれちゃダメだ。
せめて武器を作っていたほうがよかったか?そう考えたが素人が使った所で野生の獣や魔物には勝てないだろう。
せめてもの自衛にポーションがいる。
音をたてないように静かに棚から取り出した。
だが神からもらったスキル製とはいえスキルレベルがある、レベル1で作ったところで大した効果ではないだろうが気休めにはなる。
気休めにしかならないけど。
「異世界に来て最初に会った生物があからさまな敵対生物とは……。」
神の適当さに選ばれ、初日に命の危機に晒されている自身の不幸を心から嘆く。
嘆くと同時に、豚の顔をした魔物を思い出してこう思った。
「豚肉食べたかった」と。
命の危機ともなっていると、打開策や関係ないことも含めて色々考えてしまう。
そうすると豚肉のレシピが頭に浮かぶ。
「は???」
天丼しすぎだろと怒られそうな四度目の素っ頓狂な声が出た、それと同時に焦った。
やばい。
さっきの声でこちらの存在が気づかれたかもしれない……。
とりあえずスキルを発動しよう、肉になってくれれば敵を減らせる!
そう思ってすぐに
ブモッという声がした後、豚の顔をした魔物の声は聞こえなくなった。
恐る恐る窓から状況を覗くと、虎のような魔物があからさまにキョトンとしている。
それはそうだろう、さっきまで死闘を繰り広げていた相手が肉になったのだから。
しかもスライスされてやがる、スーパーとかで見た肉になってる。
パック詰めはされてないけど。
結構な量だぞあれ、何キロあるんだ?
骨や内臓が隣にあってグロいけど。
あ、持ってた剣も落ちてる。
そして虎のような魔物と目が合った。
俺は体から冷や汗を流しながら、窓を開けポーションを虎のような魔物に振りかけた。
傷を治せば敵意はないと訴えれるかもしれない、という願いを込めて。
虎のような魔物はびっくりしたのか、グォォッと鳴きポーションを振り払おうと体を震わせるが、傷が一瞬で治ったのを見ると再びキョトンとした。
しばらくするとその顔のままこっちを見る。
ちょっとかわいい。
そういえばかなりの深手のはずだったが、一瞬で傷が癒えたな。
この世界のポーションってそんなに回復するのか。
そして安心したのか内臓を食べ始めた。
「助かったのか…?」
そう思うとその場にへたり込んだ、本当に怖かった。
しばらく動けないでいると、後ろの壁からドンッと音がし、びっくりして離れる。
窓を見ると虎のような魔物が肉をくわえてこちらを見ている。
「どうした……?食べないのかと聞いているのかな。」
食べたいは食べたいが、魔物の肉って食えるのか不安になる。
だが、俺は豚肉を想像してあいつを錬成している。
ならあれは俺の知る豚肉だ、食える!
そう信じることにする。
とりあえず虎のような魔物から恐る恐る豚肉を受け取る。
受け取るとグォッと鳴いてもう1枚持ってこようとしてる、敵意はないのか?
でも生食は嫌だ。
「焼いて食べよう、味気ないが草だけの生活よりマシだ。」
このままだと日持ちはしないだろうが、そこはまぁ考えよう。
あ、よく見ると内臓も全部食べてる。
まぁ栄養は内臓のほうがあるっていうし、肥料にするくらいしかないからありがたい。
植物は種になるものさえあれば
薪と串を思い浮かべ、錬成。
「火はどうやって起こすか……火も錬成出来るか?」
思い浮かべると案の定、薪と空気で錬成出来た。
ほんと便利だなこのスキル。
材料の空気が光ったのか、視界が眩しくなってびっくりしたけど。
空気が材料になるとこうなるんだな。
視界が落ち着いたので豚肉を串に刺し火で焼く。
草と水だけで過ごそうとしてたので、非常に嬉しい。
虎のような魔物も寒くなったのか、火の近くに来た。
びっくりしたが、敵意が無いのが確信出来たので安心。
「よかったよ、お前に敵意が無くて。」
肉を食べ終え、一緒に水を飲んで家に戻る。
空を見ると陽が落ちかけている。
「腹も膨れたし、暗くなってきたな。家で休むか。」
布団が欲しいが、羊毛や羽毛といった元となるものがないので周りの枯れ葉を集めて布団の代わりにすることにした。
早く人に会いたい、町に行って買い出しをしたい。
今求めるのは布団と服だ。
熊手があると早いと思ったので錬成。
集めて家の中に入れていく。
ついでに豚の顔の魔物が持ってた剣も家にしまっておく。
「よし、とりあえず最低限の寝床が完成……ん?」
玄関を見ると、虎のような魔物が悲しそうな顔で頭だけ玄関に突っ込んでいる。
「入れないのか、というか入りたいのか……。」
玄関を観音開きに錬成しなおし、虎のような魔物を招き入れる。
そして布団替わりの落ち葉の上で丸くなり、グォッと鳴く。
「一緒に寝ようと言ってるのか……?」
くっついて一緒に寝ると、とても暖かい。
さすが生きてる獣だ、しかも毛皮があるし。
「お礼のつもりか、最初は怖かったけど何とかなってよかったよ。おやすみ。」
生まれて初めて感じる命の危機で思った以上に疲れていたのか、すぐに夢の中へ旅立った。
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