Marker’s Angel

王生らてぃ

本文

 If the Lord is not helping the builders,

 then the building of a house is to no purpose:

 if the lord does not keep the town,

 the watchman keeps his watch for nothing.



 ――そんな英語の詩と一緒に描かれている、翼の生えた天使の落書きマーキング。左右対称な、三対六枚の翼で身体の正面の巨大なハートを抱きかかえ、目を閉じ、笑みとも怒りとも取れる表情を浮かべる女性のような姿。大きさは、ちょうどわたしの手と同じくらいだ。

 その黒い天使の落書きは、改修工事が終わったばかりの、都心にほど近いビルの壁に書かれていた。大通りからはちょうど隠れた面だが、歩いていれば普通に目に付くような、絶妙な位置だ。



 これで十一件目。

 過去十件の画像データとほぼ完全に一致していることから、ステンシルあるいはスタンプによって描かれたものであることは間違いない。塗料として使われているのは、国内でもごく一般的に流通している黒のエアロゾルスプレー。同一犯による犯行か、あるいは、同一のモチーフを用いるチームによる犯行の可能性もある。



「なんにせよ、迷惑な落書きだわ」



 画像データを写真に収めて、わたしはバイクに搭載したドローンを壁に当たらせ、修繕を命じる。小さいマーキングだから、時間は数分とかからないだろう。わたしは、そのみじかい間に本部への連絡や、レポートの作成など、こまごました作業をこなさないといけない。

 現在、深夜11時だ。

 冬は寒い。

 早く帰って眠りたい。






     ○






『都市環境美化機動隊』の役目は、主に都心部で増加するマーキングを発見・消去し、それを施すマーカーたちを摘発することにある。

 本来は警察組織から枝分かれした立派な公務だったようだが、今ではわたしのように民間から雇われて従事しているものも少なくない。人手不足なのだろう。当然、給料は公務員のそれよりも低く、残業代も混みで考えれば、とても割のいい職業とは言えない。



 ふだんの仕事は完全にシフト制だ。

 市街をパトロールしマーキングを発見、あるいは市民などの通報に基づいて現場へと向かい、現場の写真を保存したあと、専用の機材であるドローンを使ってそのマーキングを除去する。その繰り返しだ。当然、マーカーたちは消されたそばから新しく描き始めるので、これはいたちごっこにしかならない。それでも市民や企業からの苦情に対処するべく、わたしたちは日々、機材を搭載した大型バイクで都心を駆け回っている。



 ドローンが作業終了のアラームをわたしの端末に送ってきたとき、わたしはバイクのそばで、さっきのマーキングの画像を眺めていた。調べたところによると、あの謎の英文は旧約聖書の『詩篇』からの引用らしい。とうぜん、わたしは聖書など読んだことがないので、なんとなくその意味を察することしかできない。それでも、この文言を何度も目にしているので、とりあえず調べてみた。



『詩篇』第127節。

 都に上る歌、ソロモンの詩。



「主ご自身が建ててくださるのでなければ、

 家を建てる人の労苦はむなしい。

 主ご自身が守ってくださるのでなければ、

 町を守る人が目覚めているのもむなしい。」



 なるほど、日本語訳を見てみれば、これが新築のビルの壁に描かれているというのは何とも意味ありげだ。

 このビルの建設に携わっている「NTK建設」は、大震災以降に急速に規模を広げてきた建設会社で、僅か数年で政府が推し進める都心再開発の中核を担うほどに成長した。今や、この都心の大通りに立てば、目に入るビルの半分近くはこの会社が携わっていると言っても過言ではない。その発展のいっぽうで、社員や役員の過労死問題、収賄、闇取引、手抜き工事、不法入国者の雇用問題など、悪いうわさも絶えない。

 それでも政府はこの企業に頼らざるを得なかったのだ。

 大震災以降、この国には、とにかく時間とお金と、そして人がいなかったのだから。



 ドローンを回収した直後に端末の通知が鳴った。市民からの通報だ。すぐ近くの区画で、またマーキングが発見されたらしい。同じようにパトロールに当たっている他の隊員たちも、そちらに向かっているようだ。



『篠田:向かいます』



 マップの該当地点をタップすると、自動でショートメッセージが発せられる。

 わたしは大型バイクのエンジンを吹かし、現場へと向かった。






 現場は繁華街からは少し外れた、まだ再開発の進んでいる区画だった。周囲を取り囲むビルの半数以上には騒音対策のシートと、作業用の足場が巻き付いていて、見上げれば数十ものタワークレーンが赤く点滅しながらこちらを見下ろしている。それらには例外なく、「NTK建設」のロゴマークが描かれている。にこやかな笑顔をあしらった、東京都をデザインモチーフにしたロゴだ。

 この仕事をしていて、「壁」という側面から建物に毎日関わる身としては、あのロゴマークもすっかり見なれてしまった、一種のマーキングのようなものだ。あれを見ない区画に来ると、都心から外れてしまったのではないか、と不安になってしまうほど、わたしは毒されている。



『篠田:現場に到着』



 わたしは取りあえず周囲を確認する。確かに工事中の建物は多く、「面」は入り組んではいるが、ぱっと見た限りではマーキングらしきものは見当たらない。場所を間違えたのだろうか。わたしは道路の端にバイクを停め、しっかりと車輪をロックして地面に降りた。



 ヘルメットを脱いだ瞬間、振り返ると、すぐそばの細く暗い路地から、鉄パイプを手にした人影ががばっと飛び出してきた。背は高く、紺色のウィンドブレーカーで身体をすっぽりと隠していた。振り下ろされた鉄パイプが、ぶんと音をあげて空を切る。



 わたしは身体をひねってそれをかわすと、腰のホルダーから短警棒を取り出した。

 鉄パイプがガンとアスファルトにぶつかり、相手の身体が一瞬硬直した、その隙に動く。左手で相手の右手首を掴み、警棒でパイプを強く叩いた。甲高い音と共に手元から落とさせると、そのまま足を踏み、肘をひねって相手を転ばせる。膝をついてだらっとした瞬間に警棒を逆手に持ち替えて、肋骨の間――横隔膜を突き上げるように警棒で突く。相手はうっ、とうめき声をあげて息を思い切り吐き出して、地面にうつぶせで倒れた。

 左手で端末の側面のボタンを5連打する。こうすると、自動でメッセージが送信されるようになっている。内容はこうだ。



『篠田:現行犯確保。応援求む』






 都市環境美化機動隊は、元が警察組織だった名残なのか、警棒による武装が許されている。業務上、こうやって血の気の多いマーカーたちに襲われることも多いので、常に制服と一緒に警棒を持ち歩いている。あくまで護身用として用いるのなら、こうやって相手を攻撃することも許される。



「はぁっ、はぁっ、」



 横隔膜を鋭く突かれた相手は、たいていこうやって息を荒げる。冷たいコンクリートに身体を押し当てられているせいか、息は白くもうもうとそこら中に広がる。

 わたしは少女の背中の上にのしかかり、警棒の先端を少女の胴体の下に潜り込ませた。そして右腕を警棒で地面に挟みこみ、左腕を膝で抑えこみながら、フリーな左手で相手のフードをはぎとってみた。

 露になったのは長い茶髪の少女だった。まだ中学生くらいだろうか。顔立ちは整っているが、どこかやつれた雰囲気があった。スコアもそれほど高くはないだろう。

 彼女は首をかろうじて横にして、わたしのことを横目に睨みつけていた。



「すぐにわたしの仲間が来て、あなたを連行するから。それまでおとなしくしててね」

「離してっ、この!」



 少女はまだ抵抗する意思を示していた。脚をばたばたと暴れさせ、厚いブーツの底でわたしを蹴りつけようとする。しかし、わたしは彼女の両肘をがっちりと抑えつけているので、まったく痛手にはならない。

 少女の腕を抑えつける警棒を、二の腕の方へと少しスライドさせて、体重を強くかけた。



「ああああッ!」



 想像を絶する痛みだろう。これは、一度やられてみないと分からない。わたしも訓練の時に何度もやられたからよく分かるが、ほんとうに何も考えられなくなるくらいの痛みだ。二の腕の骨がへし折られるような苦痛だが、実際にやってしまうと過剰防衛でわたしのスコアが下がってしまうので適切に加減をきかせる。



「嘘の通報をしたのはあなたね? わたしを誘い出して、襲撃しようって魂胆なわけ」

「トビッキーなんかに、あたしの気持ちがわかるもんか……!」

「どんな気持ちか知らないけど、あなたがやってるのは犯罪なのよ。わたしは、それを取りしまるのが仕事。相手と、それからやり方がまずかったわね」



 少女を取り押さえて数分もしないうちに、近くを巡回していたバイクが二台、応援にやってきた。そのうちのひとりは新人で、仕事を覚えるためにベテラン隊員と一緒にパトロールをしている最中だった。彼らは、わたしが少女を抑え込んでいる間に、手錠をかけて抵抗しないようにさせた。



「篠田、災難だったな」



 ベテランのほうの男性隊員がわたしの肩をたたいた。



「いえ、別に。よくあることですから」

「だ、そうだ。よく見ておけよ、新人」



 新人の女性隊員は、後ろ手に手錠をかけられた少女とわたしとを交互に見て、おっかなびっくり、といった感じの表情をしていた。男性隊員は頭を抱えてため息をついた。この職場の女性隊員の離職率は、半年で8割と言われている。わたしは18歳で高校を卒業してからもう4年勤めているが、これはとても珍しいことらしく、上層部はわたしをかなり買ってくれている。



 少女はもう観念したのか、ぐったりと力なく立っていたが、その視線は常に上空へと向けられていたのが印象的だった。長く茶色い髪の毛がだらりと後ろに垂れ下がり、何かを聞き取れないくらいの小さな声でぶつぶつと繰り返し呟いていた。

 そのうちに、本部から『都市環境美化機動隊』のロゴが入った大型バンがやってきて、少女はその中に放り込まれた。そして荒々しくドアが閉じられ、本部へと連行されていく。そして新人とベテランのペアは、現行犯でマーカーを確保したときはこうやって対応するんだ、と説明しながら、元の巡回ルートへと戻っていった。



 わたしは現場に残り、さっき少女が飛び出してきた路地を改めて確認してみた。

 そこは、新築工事の終わったばかりのビルと、改修工事中のビルとの間に挟まれた、車一台分の幅の一方通行の道路だった。ちょうど街灯が壊れているのか、薄暗く、身を潜めるにはちょうどいい環境だ。



 その、完成したばかりのビルの壁面には、あの天使のマーキングが施されていた。

 十二人目の天使だ。

 わたしはひとまず現場を画像に収めて、それからドローンのスイッチを入れた。






     ○






 少女の名前は、山口やまぐち彩花さいか。15歳の中学生。しかしわたしが驚いたのは、その下の欄に記されていたスコアだ。学業成績、素行、どれもトップクラスの数値と評価を叩き出していて、絵に描いたような優等生だ。



 マーカーというのは一般的に、スコア――学業や職務適性を数値化した基準値――の低い、いわゆる「落ちこぼれ」た若者というイメージが付きまとう。実際、ほとんどその通りで、わたしが連行・補導したのは、大半がそうした学生やフリーターだった。

 彼らは、学業を満足に修められず、かといって就職に有利なスキルも持たず、年齢だけを重ねて後戻りできなくなった若者たちだ。「日本大震災」後の日本には、とにかく余裕がない。満足な社会保障も得られず、能力がないゆえに仕事にも就けず、鬱屈とした日々を送ている人々だ。

 ところが、山口彩花の場合はまったく真逆なのだ。






「このマーキング。あなたが描いたものでしょう?」



 わたしは、矯正施設に入所させられた山口彩花と、分厚い強化アクリルガラスを挟んで向かい合って座っていた。わたしが集めてきた十二枚の天使の画像を見せると、彩花はそれを力なく見つめた。数日振りに見た彼女は、矯正施設の「学生」の制服である真っ白な貫頭衣とズボンを履いて、椅子にだらりと座っていた。茶色かった髪の毛は脱色されて黒に戻され、長さも整えさせられていた。



「そうよ」

「あなたの経歴を見て、どうしても気になったの。あなたはその気になれば、好きな仕事に就いて、健全で充実した人生を送ることができるはずだったでしょう。あなたにはその能力があり、それを満たすための人格もある。いったい、なぜこんなことをしたの?」

「あたしの経歴を見たのなら、分かるでしょ。そのくらい」



 彩花は自嘲気味に笑った。

 わたしはある程度は想像できていたことを、口にして見た。



「それは、建築士だったあなたのお父さんが亡くなったこと?」

「あたしのパパは、殺されたの。あの会社と、この国に」

「公式な記録では、病死とされているけれど……」

「そんなのウソだよ!」



 彩花はわたしに飛びかからんばかりに椅子から立ち上がり、アクリル板に拳を思い切りぶつけた。その憤怒の形相は、とても15歳の中学生の少女が作り出せるものとは思えなかった。



「パパは、パパは何も間違ったことはしていない! あの会社の不正を暴こうとしただけで……! それなのに、急に病気で死んだって、そんなわけがない。パパは殺されたの。不正が明るみに出たら困るような人たちに!」

「それで、この天使のマーキングをしたの?」

「そうだよ。マーキングはネットですぐに拡散される。でも、日本の中だけじゃダメ。海外の人にも分かるように、メッセージを残さないといけなかったの」



 それで、聖書の一節を英語で記したのか。

 ――『主ご自身が建ててくださるのでなければ、家を建てる人の労苦はむなしい』。

 確かに、ただメッセージを発信するよりは人々に伝わりやすく、また、ストレートに大企業を告発するよりは、彼女自身は安全だったろう。

 過去十二件の天使のマーキングは、すべてがNTK建設が携わったビルに描かれていた。それらは、竣工してから一週間以内に描かれていたことも分かっていた。



「あなたの言い分はもう聞いた。そのうえで質問させてもらうわね」



 わたしは目を伏せたままの彩花に、もうひとつの質問をぶつけた。



「あの日、わたしを襲った理由はなに?」

「……、」

「マーキングを通じてメッセージを発信したいだけなら、あなたはわざわざ虚偽の通報なんてしなくても、あの場からただ逃げれば良かった。それでも、あなたはわたしを殺そうとしたわよね。鉄パイプで人間の頭を殴ってどうなるかくらい、分からないあなたじゃないでしょ」

「許せなかったの」



 何に対して?

 ――とは、聞かないでおく。そんなことは分かり切っている気がした。彩花はまた目を細めて、傷ついたように笑った。



「トビッキーはそれが仕事なんでしょ。あたしみたいなクズが描いた落書きを消して、あたしみたいなクズをつかまえて、ブタ箱にぶちこむのが」

「矯正施設はブタ箱なんかじゃないわ」

「おんなじよ。あたしの人生はもう終わり。スコアの上限も削られて、もうロクな仕事につけやしない。ママは、パパが殺されてから、すっかりおかしくなっちゃったし。あたしのこと殴ったりするの。それで、わんわん泣いて謝って、それからまたあたしの髪の毛をひっぱったりするの」



 わたしは、彩花の話をじっと聞いていた。

 その上で、ようやく本題を切り出してみた。



「今日、あなたに会いに来たのはね。その件についてなの」

「は?」

「あなたの人生について。――都美機うちで働かない?」



 彩花はきょとんと、ようやく年頃の少女らしい姿を見せた。



「頭おかしいの、あんた」

「もちろん、矯正プログラムを終えた後の話だけど。あなたならきっといい隊員になれる。うちはね、元は警察組織だけど、いまはほぼ民間で、しかも完全実力主義なの。自慢じゃないけど、わたしだって学生の頃のスコアは高が知れてたのよ」

「くだらない。トビッキーなんかになるわけないじゃん」

「やってみると意外と楽しいわよ」

「あたしみたいなクズをぶちのめせるからでしょ?」

「違うわ。あなたみたいな素敵なクズに出会えるからよ」



 彩花は己のプライドを傷つけられたような顔をした。予想通りだ。この子は自分の能力をきちんと弁えていて、そこにプライドを持っている。だから、自分のメッセージを描いたそばから消していくわたしたちのことが許せなかったのだろう。あの日、わたしに襲いかかったのは、それが理由だったのだ。自分の才能とアイディアの結晶、それがあの天使のマーキング。それを評価もせず、理解もせず、ただ消していくわたしたちが憎かったのだ。



「ええ、否定しない。あなたはクズよ。器物損壊、敷地内への不法侵入、そして傷害未遂――いえ、場合によっちゃ殺人未遂ね。札付きの犯罪者ってやつ、未成年じゃなかったら実刑モノよ。つまりあなたはクズ。スコアは優秀かもしれないけど、頭でっかちなだけ」



 彩花はみるみるうちに顔を真っ赤にして怒りに震え出した。ここで暴れたりしない辺りは、きちんとした分別があるとみるべきか。

 わたしは続ける。



「でも、能力はある。わたしはそれがほしいの。うちは万年人手不足でね」

「くだらない」

「まあ、今のうちはそう考えておくといいわ。またあなたの気が変わったころに来るから」



 わたしは立ち上がって、鞄の中から茶封筒をひとつ取り出し、彩花に差し出した。

 もちろん中身は、矯正施設のスタッフと検閲プログラムによってチェック済みだ。



「わたしの上司がね、どうしてもあなたにこれを渡してくれって言うから」

「何よ。言っとくけど雇用契約書とかならサインしないわよ」

「まあ、気が向いたら中を見てみたらいいんじゃない。それじゃあ」



 わたしが部屋を後にする直前に、驚き、息を飲み、そして泣き出す彩花の声が聞こえた。






 山口彩花の父親の死――公には病死とされているそれには事件性があると判断され、警察が捜査に乗り出していること。国民からのNTK建設に対する大バッシングが、株価の急落を招いていること。そして何より海外諸国が日本政府とNTK建設との「黒いつながり」を批判し、経済支援を大幅に縮小しようとする動きが出ていること。

 それらをまとめた資料が、あの茶封筒の中には入っているのだった。



 きっとあの資料をまとめた人は、数日がかりで、ほとんど寝ずに、必死になって資料を作ったに違いない。

 事件が大っぴらにならないようにあちこちに手を回したり、少年犯罪に有利な弁護士を見つけてきたり、証拠を集めたり、何より海外のメディアにこの一件に対する注目を集めさせたり、とにかくいろいろだ。一歩間違えれば、その人自身が企業や政府に目をつけられかねない危険な綱渡りだ。



「ふわわ……」



 バイクで来なくて正解だった。

 こんなに眠いときに運転したらきっと事故を起こしてしまうだろう。



 わたしは仕事用ではなく、私物の携帯端末でSNSを覗いてみた。ネットニュースはNTK建設の糾弾に忙しく、国内では批判の声が噴出している。その一方で、海外のSNSの声を見てみれば、そこにはたくさんの画像がスタンプよろしく並べられている。

 それは、ハートマークを抱いた天使の画像だ。

 ハッシュタグは、「#Psalmes127」――詩篇第127節。

 いったい、誰がこんな素敵なロゴマークを考えたのだろうか。それを考えた人はきっとすごく頭がよくて、スコアはトップクラスで、そして――尊敬できる父親を持っていたに違いない。






 わたしは通りかかったタクシーに乗り込んで、目的地を告げた瞬間に眠ってしまった。

 ここ数日まったく寝ていなかったからだ。もうわたしも、若くないんだなあと思った。ほんとうにキツい毎日だ。

 それでも、あと何年かは、この辛くて危ない仕事を続けていなければいけない理由ができた。

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