第2話 専門家たち
アルドの仲間の中にはかつて豊かな国の王女であった者や、世界各地を回って見聞を広める者、伝承に詳しい長命のエルフなど、伝説の武器について何か知っていそうな者も少なくない。そんな中で、アルドの眼鏡に適った選抜メンバーは……。
「人選おかしいんじゃないのか、これ」
「……そうですね、私もそう思います」
「ほかに適任がいそうよね、確かに」
港町リンデの船着き場付近に集ったのは、アルドのほかに三人。いわくつきの武器専門のブローカー、ユーイン。東方出身、妖刀と妖術の遣い手ツキハ。腕利きの占い師、ダークエルフのラディカ。戦闘でもそれ以外でも頼りになる面々だ。
「というわけで、みんな。力を貸してくれないか」
「確認だが、アルド。確かにこの面子なら伝説の武器の情報……いや、現物まで手に入れられるだろう。だがそれは高い確率で、『呪い』だの『怨念』だのと関係が深いものになっちまうぞ」
「それでもいいんだ、俺は情報だけが欲しいわけじゃないから」
「……ああ、なるほど」
ラディカはアルドの意図に気付いたようだった。
「正当な伝説の武器なら、所在も特定しやすいし情報も得やすい。有名だろうし、厳重に保管されているだろうから。でも、それだと現物を手に入れるのは難しい。借りるのも手間でしょうね」
ラディカの言葉に、ツキハが考え込むように目を閉じる。
「それに引き換え、呪われた武器の類は人目に触れないよう遠ざけられることが多く、情報も伝承や口伝が僅かに残る場合がほとんどですからね。場所さえ分かり、悪しき力を抑え込めれば、入手は可能ということですか」
「なるほどな、俺とツキハの嬢ちゃんが情報を提供し、それをもとにラディカの嬢ちゃんが占いで探すと……そういう計画なわけだな?」
「ああ、そうなんだ。俺の個人的な事情に付き合わせて申し訳ないけど……」
「それは構わねえさ。なあ?」
ユーインが声をかけると、二人は頷いた。ラディカはカードを取り出し、一歩前に出る。
「早速始めましょう。ただ、探し物が曖昧だから、二人にサポートをお願いするわ」
「私たちの知識を使って、より鮮明に想像するということですね」
「ええ、その通りよ」
ツキハとユーインが顔を見合わせる。先に口を開いたのはユーインだった。
「そうだな……呪いやいわくの強い武器は、それ自体に強い気配や存在感がある。生気なんぞとは縁遠い代物でありながら、生き物のような生命力がある。人はそれを忌避し、時に魅了されちまうってわけだ」
アルドは神妙に、ツキハは過去を思い返しながら、ユーインの言葉に耳を傾ける。ラディカは目を閉じ、集中していた。
ユーインが続ける。
「それから、力の弱い武器は気付かれずに流通することがあるが……強いものはそうもいかない。専門家に鎮められるか、それができなきゃ何らかの方法で封印されることが多い。山奥とか谷底とかが多いな、効果があるかは別だが」
「……」
目を閉じたまま、ラディカは頷いた。彼女の頭の中では、ぼんやりとしていたイメージが次第に輪郭を整えていっている。
ユーインがツキハに目配せすると、彼女は口を開いた。
「では、私からもひとつ。怨嗟や怨恨、呪いというものは武器に宿って育まれていくものですが、まれに人間や魔獣などに取り付くことで力を強めるものも……ラディカさん?」
「…………う、くっ……」
涼しい顔で集中していたはずのラディカだったが、突然顔を青くしてうめき声をあげた。
「ら、ラディカ、どうしたんだ!?」
「…………あ、うっ」
「……まさか」
ユーインの表情が険しくなる。同時に、ツキハが鋭く一歩踏み込んで抜刀した。赤黒い剣閃が、ラディカの手からカードを叩き落す。すると、ラディカの全身から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「ラディカ、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、肩に手を回すアルド。ラディカは肩を大きく上下させて呼吸し、全身に汗をかいていた。顔色も悪い。
「ラディカ!」
「……大丈夫よ、アルド。それと、ありがとう、ツキハ。助かったわ」
「いえ、間に合ったみたいでよかったです」
ツキハは納刀しながら、地面に散らばったカードに視線をやっていた。見た目には変わった様子はない。
アルドは事態を飲み込めず、困惑していた。
「い、一体何が起きたんだ?」
「見つけたんだな、ラディカ」
神妙な面持ちで、ユーインが言う。すると、ラディカは首を横に振った。
「見つかったのよ。長く占い師をしてるけど、初めてだわ。探し物に睨まれるなんて」
「に、睨まれた?」
「……例えというか、感覚的な話よ。そういう感覚に襲われた後、全身が石になったみたいに動かなくなったの」
「……こいつは、とんだ大物を引き当てちまったようだな」
「そのようですね。ともかく、この件にこれ以上ラディカさんを巻き込むべきではないと思います」
回収したカードを差し出しながら、ツキハが言った。ラディカは逡巡したが、すぐに頷いた。
「……そうね、そうさせてもらうわ。どうやら私は目をつけられてしまったみたいだし、足手まといになるだろうから」
カードを受け取ったラディカはふらつきながらも、アルドの肩を借りて立ち上がった。
「アルド、ツキハ、ユーイン。得られた情報だけでも伝えておくわ。場所は古戦場跡、澱んだ水面のほど近く。そこで探し人に会えると出ていたわ」
「探し人? 俺たちが探すのは武器だぞ?」
「それは私も分かっているのだけど……占いではそう出たのよ。まあ、相手が相手だし、何か手違いというか歪みが出ててもおかしくは……」
「いや、おそらく当たってるぜ」
ユーインが腕を組んでそういった。アルドは首をかしげる。
「心当たりがあるのか、ユーイン?」
「まあな。ともあれ、行けば分かることだ。一筋縄じゃあ行かなそうな相手だし、放っておく手もねえ。すぐに行くことを勧めるぞ」
「私もお供します。ここまで関わって、見て見ぬ振りもできません」
「ありがとう、二人とも。じゃあ、ラディカはこのあたりで待っててくれ」
「分かったわ。でも、最後に……」
ラディカは一つ深呼吸をした。すると、彼女の周囲にカードが数枚浮遊し、旋回を始めた。アルドは驚いて声をかける。
「だ、大丈夫なのか!?」
「あいつを占うわけじゃないから大丈夫よ」
そう言って、ラディカはカードを一枚引いた。
「……このカードは」
「ラディカ、何を占ったんだ?」
「あなたのことよ、アルド。今回の旅における、あなたのこと」
「俺の……?」
ラディカはカードから視線を切って、真っ直ぐにアルドを見つめた。
「アルド。もしこの旅の中で、決断に迷う時が訪れたなら……何も考えず、正面突破を選びなさい」
「正面突破……敵に囲まれることになる、ってことか?」
「さあ、どうかしら。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。いずれにせよ、その決断があなたと、ほかの誰かを助けることになる。そう出ているわ」
アルドは力強く頷いた。
「そっか、分かった。よく覚えておくよ。それじゃあ、行ってくる」
「ええ。三人とも、気を付けて」
ラディカに見送られ、アルドたち三人はリンデを後にした。その背中が見えなくなるまで、ラディカはその場を動かなかった。苛酷になるであろうこの旅が、無事に終わることを祈りながら。
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