79. マナポーター、勇者を打ち倒す!(2)

 アランは、驚異的な執念で自身に向かってくる魔法を迎え撃った。携えた剣からはどす黒いオーラが立ち上り、次々と魔法を撃ち落とした――だが、そこまでだった。

 アランには、致命的な弱点がある。


(ずっと前から分かっていたはずなのに)

(最後まで、向き合うことはなかったんだね)


 戦いを見守る僕の前で、アランが苦悶に顔を歪める。


「くそっ、また頭痛が――」

「魔力切れッスね」


 アランの致命的な弱点――それは魔力の燃費の悪さだ。

 ぐあぁっと頭を押さえて、アランは座り込んだ。


「哀れですね」

「アリア、おまえはどうして――」


 そんなアランを見下ろし、アリアがそう声をかけた。


「くそっ。俺は、最強の力を手に入れたんだ。どうして勝てない!」

「このパーティに――先輩の隣に立つのに相応しくあろうと、ずっと努力してきましたから」


 アリアは涼しい顔をしているが、その努力は並々ならぬものだ。

 アリアだけではない。リディルとミーティアも、すでに最高クラスの腕を持ちながら、魔法に頼らぬ戦いを身に着けたり、小回りの効く魔法を新たに習得したりと、己の腕を磨くことに余念がないのだ。



「私たちは、まだまだ先に行きます。このパーティは、どこまでも進んでいける――次は魔王だって倒してみせます」


 それは勇者パーティとして、当たり前の宣言。

 そんなアリアの宣言を聞いて、アランは苦々しい顔をした。


「みー。あなたの敗因は、自分の弱さから目を逸らし続けたこと」

「もしアランが無限の魔力を持っていたら――考えたくもないッスね」




 それが僕たちのパーティと、アランの決定的な差だったのだろう。


「まあ、やっぱり先輩がチート過ぎるんですけどね」

「その通りッスね。イシュア様がパーティに居たら、負ける気がしないッスよ」


「みー。おとりをしながら、パーティ全体の魔力量に気を遣うなんて……、普通は無理」

「僕には、それぐらいしか出来ないからね」


 僕だけでは、アランを魔力切れに追い込むことは出来なかっただろう。

 一方、アリアたちも、僕のサポートがあるから魔法を使えると言ってくれている――これはパーティでの勝利なのだ。



「アラン、ここまでです」


 アリアが、悪しきモンスターを浄化する魔法を唱え始めた。

 相手を確実に葬るための上級魔法だ。

 感情を殺した無慈悲な詠唱だが、そこにはまだ迷いが見え隠れしていた。



「くそう!」


 アランは往生際悪く毒づいたが、魔力切れで動くことはできない。


「……アリア、僕がやるよ」

「先輩?」


「アリアが手を汚すことはない」


 放っておけば、アランは、また人類の敵として現れるのだろう。

 こいつはここで殺しておくべきだ――そしてその役割は、僕が持つべきだ。


 少なくとも、聖女様には相応しくない。

 僕はミーティアに短剣を借りて、アランの元に歩み寄る。



「アラン、何か言い残すことは?」

「くそっ、どうしておまえばっかり――」


 ――それが元・勇者の最期の言葉となった。



 僕は勢いよく、ナイフを振り下ろす。

 魔力がこもっているわけでもないナイフは、それでもあっさりとアランを貫いた。

 アランは、どさりと地面に倒れ伏し、動かなくなった。



 ――あの日から始まった因縁への決着。

 勇者パーティに所属する人間として、避けては通れなかった道だ。




「先輩……、大丈夫ですか?」

「うん。僕たちは勇者パーティとしての役目を果たしただけだよ」


 アランは、元・パーティメンバーだ。

 それでも戦いは避けられなかったし、この結末以外はあり得なかっただろう。


 それでもパーティメンバーは、複雑そうな表情を浮かべていた。




(みんな……、優しすぎるよ)


僕は、そんなパーティメンバーの様子を見て、


「うん。後はリリアンの戦いを見届けよう」


 そう明るい声で呼びかける。




「そうですね」



「ウチらはこれで、ペンデュラム砦の英雄ッスよ!」

「みー、リリアンさんが心配……」

「いや、リリアンなら大丈夫だよ」


 だってリリアンは、芯の強い真の勇者だから。

 そうして僕が視線を向けた先でも、ちょうど戦いが終わったところらしい。



「さすがイシュア。格好良かったの~!」


 溢れんばかりの笑みを浮かべたリリアンが、こちらに駆け寄ってくるところだった。

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