78. マナポーター、勇者を打ち倒す!(1)

「お前さえいなければ。お前さえいなければ――!」



 憎悪に満ちた目で、アランは僕たちへの恨みを口にした。

元・パーティメンバーだと思って、情けをかけてはいけない。今のアランは勇者ではなく魔王の手先――正真正銘、人類の敵となってしまったのだから。


「聖剣よ。俺に力を貸せ!」


 アランが構える聖剣は、禍々しい光を放つ。


「厄介だね」

「先輩?」


 僕たちは過去に、アメディア領の戦いでアランのことを退けている。しかしアランは魔王と手を組み、魔族としての力を手にしたことで随分と力を増しているようだった。


「マナリンク・フィールド!」

「しゃらくせえ!」


 以前の戦いでは、アランを昏倒させた技だ。

 アランにマナの塊を叩きつけたが、アランはそう一喝し僕に飛びかかってきた。


「先輩っ!」

「ありがとう、アリア――シールド!」


 僕は、アリアの魔術式にマナを注ぎ込み、とっさに魔法を展開。

 頼れる後輩の防御魔法に、マナを注いで生み出した強固な盾だったが、


「なっ⁉」

「どうした! イシュアさんよう」


 アランは、たったの一振りでシールドを破壊してみせた。

 勝ち誇った顔で、アランは邪悪な笑みを浮かべる。


「カオティックフレア!」

「喰らうッス!」


 リディルが、隙を付いてアランに魔法を放つ。ミーティアも、情け容赦なく魔剣を使った一撃を放つ。巨大な炎の渦と、真っ黒な波動が混ざりあいアランに押し寄せる――直撃すれば、跡形も残らず消滅するような一撃だったが、


「効くかよ、んなもん!」


 アランは、ドス黒く輝く剣を一閃。

 それだけでリディルたちの魔法は、呆気なくかき消された。


「な……、どうして?」

「あり得ないッス!」

「魔王様が授けて下さったんだよ。良い力だなあ、これは――」


 アランは、恍惚とした顔をしていた。


「ホーリージャッジメント!」

「無駄だ!」


 アリアが放った魔法は、並大抵のモンスターなら一撃で消し飛ばす威力を秘めている。しかしアランは、そんなアリアの魔法すらも一太刀で消し去ってみせた。


「なんなんだ、その力は?」

「魔王様から授かった禁呪・魔力因子崩壊――俺に魔法は絶対に効かねえぜ! ふっはっはっは、俺は無敵。無敵なんだ!」


 ギャッハッハ、とアランは高笑いする。


「唯一、剣聖の野郎が厄介だったけどな。あいつはイフリータを相手にしてやがる!」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま、アランが鋭く踏み込んできた。


(なるほど、天敵だね)


 僕たちのパーティは、魔法ジョブが中心だ。

 魔法を封じられてしまえば、打つ手がない――とアランは思っているのだろう。


(でも、アランは魔法をかき消すために剣を振るっている!)

(それなら、やりようはいくらでもある)


 攻略の糸口がない訳ではない。

だけども、どの方法を取るにしても準備が必要だった。



「おらおらおらおら! どうした、イシュアさんよう!」


 歓喜の笑みを滲ませ、アランが剣を振るう。

 反撃を試みても、アランは剣の一振りでかき消してしまう。

 今は、アランの様子を観察しながら、防戦に回るしかなかった。


「随分と楽しそうだね」

「ああ、俺はずっとこの日を夢見て来たからな!」

「大した夢だね」


 アランは楽しそうに、剣を振るう。

この期に及んで願っていたのは、元いたパーティへの復讐か。下らない――本当に、くだらないちっぽけな夢だ。


「くそっ、その目をやめろってんだ!」


 アランは、怒りに任せたように叫びながら、がむしゃらに剣を振り回し、


「捉えたっ!」


 ついにアランの放った一撃が、僕の足を貫いた。


「ざまぁぁぁねえなぁ、イシュアさんよう!」

「いいや、もう終わりだよ」

「ぁあ?」


 アランの目には、僕以外の人間が映っていなかったのだろうか。

 ――この場で僕は、ただのおとりに過ぎないというのに。


「「「今だっ!」」」


 気が付けばアリアたち三人が、アランを取り囲むように武器を構えていた。

 彼女たちは、いっせいに魔法を放つ。



「それがどうしたあ!」


 アランは、くるりと周りながら聖剣を振るった。

 それだけで魔法はかき消され、一瞬、アランは勝ち誇ったような笑みを浮かべたが、


「チェックメイトですね」


 アリアが、にっこりと微笑んだ。

 強力な一撃を放っても無力化されてしまうなら、どうすれば良いか?


 選んだ戦法は、至ってシンプル――圧倒的な物量で、押しつぶせば良いのだ。




「ふざけるな、俺は、俺は勇者だぞ!」

「今の君に、勇者を名乗る資格は無いよ」

「くそおぉぉぉぉ!」


 アランは、驚異的な執念で向かってくる魔法を迎え撃った。

 携えた剣からはどす黒いオーラが立ち上り、次々と魔法を撃ち落とした――だが、そこまでだった。



 アランには、致命的な弱点がある。


(ずっと前から分かっていたはずなのに)

(最後まで、向き合うことはなかったんだね)


 戦いを見守る僕の前で、アランが苦悶に顔を歪める。


「くそっ、また頭痛が――」

「魔力切れッスね」



 アランの致命的な弱点――それは魔力の燃費の悪さだ。

 ぐあぁっと頭を押さえて、アランは座り込んだ。

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