76. リリアン、四天王イフリータを討伐する(1)

更新間隔、空いてしまい申し訳ありません。

なろうでは完結しているのですが、こちらでも更新していこうと思います!(全82話の予定で、完結まで予約投稿済)


よろしくお願いします!


===

◆ これまでのあらすじ


(一章~)

 勇者パーティを追放された「マナポーター」のイシュアは、パーティメンバーの魔力をすべて供給していたにもかかわらず勇者パーティを追放されてしまう。イシュアは、自らを追いかけてきた冒険者学園の後輩、聖女「アリア」とともに旅に出ることになる。


 その後、エルフの里で世界樹を救ったイシュアたちは、勇者である「リリアン」、剣聖「ディアナ」とともに新生・勇者パーティを結成することになる。さらには元・勇者パーティの少女2人リディルとミーティアもパーティに加わり、旅はさらに賑やかなものとなる。


 一件落着したのもつかの間、イシュアたちは隣領で謎の病が流行っているという情報を聞きつける。その原因を突き止め、目覚めてしまった災厄の龍を討伐することに成功する。


 一方、勇者アランは落ちぶれていた。世界樹にとどめを差し掛けたことにより勇者の資格を剥奪され、ついには犯罪者へと身を落とす。隣領では薬物の運び屋をやっていたところをイシュアたちに抑えられ、国王の元へと輸送されることになるのだが――突如としてモンスターの異常発生スタンピードが勃発、混乱に乗じてアランは逃亡に成功する。逃亡したアランは、ついには魔王軍に身を落とすことになる。


===


(4章~)

 その後、イシュアたちは、モンスターの激しい侵攻にあっているというサルファー砦に向かうことになる。重傷者も多かったサルファー砦であったが、アリアとイシュアの活躍により瞬く間に戦力を取り戻す。

 イシュアたちはモンスターの数があまりに多く、防衛戦に回るのは不利と判断。侵攻を指揮しているモンスターを一気に叩くことを決断する。


 イシュアたち一行は、魔界を突き進む。

 そうしてモンスターの指揮者とついに相まみえることとなる。

 そこにはリリアンの因縁の敵である四天王「イフリータ」と、イシュアたちにとっての宿敵「アラン」の姿があった。


――リリアンとディアナは、イフリータと。

――僕たち元・勇者パーティは、元・勇者と。

――サルファー砦の未来をかけた戦いが今、はじまろうとしていた。



===


 リリアンの眼前には、燃え盛る炎の巨人の姿。


 モンスターが浮かべているのは、圧倒的な強者が漂わせる余裕。

 リリアンは一度、四天王イフリータに勝利している。

 モンスターの侵攻を食い止めるべく必死に戦った過去の戦いの中での話だ。



 あのときは、イフリータという恐ろしいモンスターの気配に怖気づいていたっけ。

 だけどその恐怖は押し隠し、必死に仲間を鼓舞しながら戦った。

 頼れるのは唯一の仲間であるディアナだけ――自分が戦いの旗頭にならなければならないって、ずっと思っていたから。

 それが勇者という生き物だから。



「――『幻想世界』」


 その時と比べれば、なんと今は心が軽いことか。

 心の底から信頼できる人が、隣に並んで戦っているのだから。


「……ううん、今も怖いものは怖いけど――」


 だとしても、それを恥じることはない。


「イフリータ、ここで因縁に決着を付ける!」

「ガッハッハ。威勢の良いことだが、我は以前の我ではないぞ!」

「それは私だって同じなの! ――ディアナ!」


「任された!」


 私は、祈りを込めて、虹色の剣を作り出す。

 ディアナのみが振るうことを許される神秘の剣。




「はぁぁぁぁ!」


 剣を受け取ったディアナは、イフリータに剣を振り下ろす。

 以前の戦いで、イフリータを切り裂いた必殺の一撃を――


「我の抵抗値は、この空間の侵食力より上! そのような小手先の技、もはや通用せぬと思え!」


 イフリータは、巨大な手のひらで受け止める。

 一刀のもとに斬り伏せようと力を込めるディアナと、防ぎきろうとするイフリータ――ギリギリと激しい鍔迫り合いが起こった。



「私の思いと、リリアンの意思! ここは絶対に負けられん!」

「ガッハッハ、その心意気や良し! だが――まだ足りん……!」



 イフリータは、炎の魔力を解き放つ。

 それは周囲を焼き尽くさんとする闘志の発露。



「くっ」


 熱気に押され、ディアナが顔をしかめる。

 もちろんディアナも、気持ちのぶつかり合いでは負けていない――しかし魔力をぶつけ合って、四天王の一角と渡り合えるほどの力は持っていなかったのだ。


 ぎりぎりのせめぎ合いは、結果的にイフリータに軍配が上がった。



「これで終わりだ!」

「させないの!」


 勢いを止められたディアナを握りつぶそうと、イフリータの巨大な拳が迫る。

 間一髪のところで、リリアンの防御魔法が発動。

 水の羽衣がディアナを優しく包みこみ、そのまま彼女を優しく離脱させる。




「どうした、勇者リリアン! この程度か!?」


 必殺の一撃を防ぎきったイフリータは、勝ち誇ったように声を上げた。




 リリアンの固有魔法『幻想世界』は、彼女が望む世界を現世に顕現する魔法だ。

 どんな敵でも。一刀のもとに断ち切ってきた必殺の一撃。

 一方、魔力消費が大きく、短期決戦に持ち込めなかった場合に苦戦は免れないリスクを伴う技でもある。



 イフリータは、過去のリリアンの戦いからその事実を知っていたのだ。

 以前の戦いでも、リリアンたちが放つ必殺技と撃ち合いになり、間一髪のところで押し切られて敗北を喫した。

 だからこそ今回、ディアナの放つ必殺技をいなし、自らの勝利を疑いもしなかった。



 敵わぬ敵が現れたとき、勇者が見せるのは泣き顔か絶望の表情か。

 そんなことを思いながらリリアンの顔を覗き込み、イフリータは戦慄する。


 ――リリアンは笑っていたのだ。

 ただ、迷いのない澄んだ顔で笑っていたのだ。




「勘違いしないで欲しいの。ここまでは準備運動――訓練の成果を見せるのは、ここからなの」

「はっ、なにを強がりを……」


 笑い飛ばそうとするイフリータだったが、失敗する。

 強がりでもなんでもない。

 リリアンが告げたその言葉が、ただの事実であると悟ってしまったからだ。


「ディアナ、この戦法もまだまだ磨いていくの」

「ああ。因縁の敵を前に、この刃は届かずか――悔しいな……」


「あと一歩だったの。イシュアさんたちと組んで、新たな仲間と出会って――私たちは色々知った。まだまだ強くなれるの!」

「当然だ。ここで止まるつもりはない――だからリリアン、ここは任せた」



 そうしてバトンは渡される。

 祈りのタスキは、剣聖から勇者へと。

 ディアナが手にしていた剣に籠められた魔力が、リリアンの元へと返っていく。




「貴様ら、いったい何を……!」

「『幻想世界――弐式、水牢の型』」


 リリアンが短く詠唱。

 ――作られた空間が変容していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る